シーア派イスラーム法学者の福島原発事故についての回答
- 2011年 6月 12日
- 評論・紹介・意見
- シーア派イスラーム法学者原発事故浅川 修史
(革命の組織論⑥)
3月19日、東京電力福島第1原発事故が史上最大級の悲惨な事故になることを直感した筆者は、思い余って日本人のシーア派イスラーム法学者に相談した。その法学者はシーア派の4大聖地のひとつ、イランのコムで学習し、法学者の資格を得た由緒正しい立派な法学者である。イランのシーア派イスラーム法学者らしく背が高く、人に好感を与える容貌を持っている。
筆者の相談は次のようなものだった。「妻と西日本か海外に逃げるべきかどうか、法学者の見解をお聞かせください」
メールでの質問だったが、回答はすぐに来た。
「今回の件に関してですが、何事も神のご意志であることは間違いありませんが、それとともに、人間には自分の命を守るための努力をすることが求められています。ですから、今現在、ご自分の命が東京にいると危険であると判断された場合は、あなたにとって、安全なところに行くことが求められますし、逆に東京にいても危険ではないとお考えならば、東京にいて何の問題もありません。今現在、明らかに誰にとっても危険であるという状況ではありませんので、個人の判断にゆだねられます」
人間は神によって自由意志が与えられている。人間の運命は神によって決められているが、神の意志に反して、罪を犯すこともできる。旧約聖書「創世記」は人間の始祖であるアダムが、神の命令に反して、知恵の木の果実を食べることで「原罪」を犯すことを記述する。
法学者の勧告は、現段階では、東京は、誰にもとっても危険な状態ではないので、避難命令は出しません。したがって神が与えた自由意思によって行動しなさい。結果責任は自分で負いなさい、というものだ。筆者はさすがに隙のない回答だと思った。
筆者はこの回答と、妻の「ここから動かない。運命を受けいれる」という毅然とした態度に従うことにした。「圧力容器がたぶん破損している」「ドイツ大使館が大阪に逃げた」「イスラエル大使館が東京の家族を呼び戻した」「外資系企業が大挙して大阪に逃げている」「東日本から中国人がいなくなった」という声を聴きながら。
イスラーム法学者はこうした人間が直面する日々の生活の問題についてイスラーム法学に準拠して回答をする人々である。「夫が浮気した」「生活に困っている」「行政が動いてくれない」――こうした普段に直面する問題についてともに考え、答えを探す人々である。日本人はユダヤ教のラビ(教師)やイスラーム法学者を大乗仏教の堕落した僧侶のような葬祭を担う人々と同じと考えるので、しばしば「聖職者」呼ぶが、間違えている。筆者が相談したような原発事故という複雑なテーマについてもすぐに回答を出せる訓練を受けた人々である。もちろん法学者は、「軽水炉」「メルトダウン」「BWR」「電源喪失」「水素爆発」「燃料棒」などのテクニカルタームを知っているわけではない。だが、上記の回答は当時の段階では妥当なものだと考える。
このように生活のあらゆる問題を直ちに具体的に回答できるラビや法学者が身近にいれば、日本人の生活はもっと楽なものになると思う。
「消費者金融から威圧的な返済を迫られている。楽になりたい。会社の金を横領したり、強盗する誘惑に駆られている」「どうしても酒がやめられない」「学校で子どもがいじめにあっている。相手の親に報復したい」「共産主義組織に入っている(イランのツデー党?)。今度の戦いは決戦だと上司から参加を強要されている。しかし、参加して逮捕されると路頭に迷うに恐れがある。どうしたらいいか」
こんな萬相談をしてくれるのが、ラビであり法学者だ。
日本の政治家、行政マンのように、「ただちに影響はない」「しっかり対応しなければならない」「事態を注視したい」「共生の精神を持って、お互いに尊敬しながら行動したい」など空虚すぎる、思考停止の回答はない。何でも具体的な回答が来る。
こんなシリアスな相談も想像した。「ナチの収容所で配膳係をしている。したがって、他の囚人より多くパンを食べられる。だが、他の囚人に自分の分を分けると共倒れになる。どうすればいいか」
筆者が想像するラビの回答は、「神が与えてくれた幸運に感謝しながら、まず自分が生き残ることを考えなさい」だと思う。
こうしたラビや法学者のいる社会は好ましいと考える。日本人の自殺率は世界で最も高いレベルだ。 身近に萬生活相談をしてくれる訓練を受けたラビや法学者が日本にもいればかなり事態は改善されると思う。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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