「政治家の覚悟 ー 不都合な記録は隠し通せ」
- 2020年 10月 21日
- 評論・紹介・意見
- 澤藤統一郎
(2020年10月20日)
委員長 203臨時会の予算委員会を開催いたします。本日は、新内閣における公文書管理の在り方について質疑と答弁を予定しております。野党委員、どうぞ。
委員 総理にお尋ねしたい。前安倍晋三内閣は、公文書の管理にはムチャクチャな違法を重ねた。不都合な公文書は、隠す、改ざんする、廃棄する…。あるいはそもそも文書を作成しない。杜撰極まる公文書管理に悪評この上ない内閣として歴史にきざまれた。自民党総裁選で、あなたは安倍内閣路線の承継を掲げたというが、安倍内閣の杜撰極まる公文書管理の在り方も承継しようというのか。また、公文書管理違法安倍内閣の官房長官として、あなた自身の責任を感じておられるか。
総理 お言葉ですが、前内閣時代においては、それぞれの部署がそれぞれ適切に公文書の管理をしていたものと承知しており、ご指摘は当たりません。
委員 ある政治家の著作の一節を抜粋して事前にお届けしてある。この文章を朗読いただきたい。
総理 お断りさせていただく。私には、質疑に答弁の義務はあるが、読みたくもない文章を突きつけられて朗読させられる筋合いはない。
委員 その文章の朗読も私の質疑に対する答弁の一部をなすのだから、是非ともお読みいただきたい。あなたにその文章を読んでいただくことが、質疑と答弁の内容を国民に理解していただくために重要でもあるのだから。
委員長 総理、ここは度量を示してお読みください。
総理 「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」「千年に一度という大災害に対して政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、教訓を得るために、政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」
委員 あなたが読みたくもないと言ったこの文章は誰が書いたものなのか、ご存知ですね。
総理 いや、存じません。
委員 これは、あなたが2012年に文芸春秋社から発行された単行本「政治家の覚悟」の一節ですよ。知らないはずはないでしょう。
総理 古いことですよ。よく覚えておりませんね。
委員 では、この文章の文意、即ち「政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、教訓を得るために、政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」「議事録は最も基本的な資料。その作成を怠ったことは国民への背信行為」という意見には、賛成でしょうか、それとも反対ですか。
総理 仮定の問題にも、抽象的な質問にも、お答えはいたしかねる。具体的状況によって、回答は微妙に異なることになる。
委員 あなたは、2020年10月20日に、この単行本の改訂版を新書として出版された。ところが、その改訂版では、今あなたが読み上げた個所がバッサリ削除されている。何の不都合あって、この公文書管理の重要性を強調した部分を削除されたのか。
総理 その質問の仕方に異議がある。いかにも私に不都合な事情あって文章を削除したように決めつける印象操作は止めていただきたい。改訂版の編集者から細かい報告は受けていないが、総合的かつ俯瞰的な判断でしたことと聞いている。もちろん、私自身の意識的関与はない。
委員 答弁になっていない。公文書管理の重要性は当然のことだ。あなたは、民主党政権に向かって、そのことを強調された。ところが、自民党安倍政権になった途端に、自分が批判した杜撰な公文書管理を平気で始めた。そして、自分が総理となるや、自分の著書から公文書管理の重要性を強調した部分を削除してしまった。内心に忸怩たる思いがあるからに違いない。もし違うというのなら、明確に削除の理由を述べていただきたい。
総理 だから、申し上げている。総合的かつ俯瞰的な判断だ。それ以上に申し上げる必要はない。
委員 あなたが官房長官の時代に森友事件が起こり、決裁文書の改ざんを命じられた近畿財務局の職員が自責の念から自死するという傷ましい事件が起こった。あなたも、この件について責任を免れない。亡くなった職員の妻が提起している民事訴訟において、自死した職員が森友事件の全ての経過を綴ったファイルの存在が明らかになっている。あなた自身と政権の汚名挽回のために、菅内閣として、このファイルを探し出し、公表するお気持ちはないか。
総理 公文書の管理につきましては、これまでも法に基づき適正に執行してきたとおりでありまして、特に方針を変更する必要を認めません。
委員 財務省の本省か近畿財務局に存在するはずの、森友事件の真の経過を記載したファイルを探し出すように指示をされるのかどうか。
総理 この件についは、既に財務省において、詳細な調査を遂げ、関係者には然るべき処分もしてるところです。検察当局の厳正な捜査によっても不起訴となっている。これ以上問題を蒸し返す必要はありません。
委員 あなたは、東日本大震災に関して、「政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、教訓を得るために、政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」とまで言っている。
ところが、新型コロナウイルス蔓延問題に関する議事録の作成・公文書管理は、そうなっていない。とりわけ、安倍首相の思いつき学校閉鎖、安倍マスク配布、持続化給付金事務委託費中抜き問題等々、基本資料が保存されていないではないか。
総理 全ての政策は、総合的俯瞰的な判断として適切に行ったところで、なんの問題もなく、ご指摘は当たりません。
委員 法は、公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と定めている。あなたにはその自覚がない。ご自分で、総理としての資質に欠けるとは思わないか。
総理 ご指摘はまったく当たらない。私は常に、総合的俯瞰的な判断を心がけ、適切に問題を処理している。
委員 あなたの著書の表題は、「政治家の覚悟」となっている。あなたは、公文書の管理に関しては、どんな覚悟をお持ちか。もしや、「不都合な記録は隠し通せ」「前政権はボロを出したが自分は不都合な記録を表に出すような失敗はしない」という覚悟ではないのか。
総理 もう質疑の時間を過ぎていますよ。ルールは守っていただきましょう。
委員長 総理、最後の一問にご回答を。
総理 公文書の管理に限りませんが、私の政治家としての覚悟は、「断固として、総合的・俯瞰的な判断を適切に貫こう」ということです。
委員長 これで、委員の質疑は終了いたします。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.10.20より許可を得て転載
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〔opinion10219:201021〕
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