コロナ禍は現代社会の分断と不平等を浮き彫りにした
- 2020年 12月 28日
- 評論・紹介・意見
- 野上俊明
12/25付「ガ―ディアン紙」に掲載された、英国エジンバラ大学のグローバル公衆衛生の責任者であるデヴィ・スリダール教授の論考「新型コロナ禍が示したのは、健康は生物学だけの問題ではないこと」(Covid-19 has shown us that good health is not just down to biology)の大意をご紹介します。
人間の行動を理解するために地球上で実験を実行したいのであれば、パンデミックは絶好の機会である。Covid-19を引き起こすウイルスに感染しても症状がでない人もいれば、致命的な病気につながる人もいる。ウイルスは、基礎的な疾患を抱えている人に対して健康な人を、老人に対して若い人を戦わせる。感染症はわれわれを結びつけたり、引き離したりする。低所得国はこれをよく知っている。多くの人が毎年複数の感染症の発生に直面しているからだ。しかし、英国などの裕福な国々は、ウイルスが人体を攻撃するだけでなく、国の弱点を映し出し、社会や経済全体に大混乱をもたらしている。
世界中で、パンデミックはひねくれた「貪欲さの競い合いhunger game」をもたらした。2月と3月にはヨーロッパ各国政府は、限られた医療資源―人工呼吸器、酸素、実験用のステロイド、個人用保護具等―を探し回った。特にアメリカは人工呼吸器や個人保護具をかっさらい、レムデシビルの権利を買収し、他の国々が利用できる供給を制限したと非難された。
5月の世界保健総会で、各国政府は研究製品を共有し、Covid-19に対処するため共同で取り組むことを約束したにもかかわらず、医療資源を共有する方法についての厳しい決定に直面したとき、協力の約束は破られてしまった。パンデミックは、個人としても国家としても、われわれの利己主義の試練となった。重要な問題は、ワクチンの公平な配布を確保することに関して、豊かな国が貧しい国に対してどのような責任を負っているのかということだった。COVID-19のワクチンを平等に分配するための国際的枠組みであるCOVAXイニシアチブは、2021年末までに20億人分のワクチン用量の開発と公平な分配を支援することを目的としているが、オックスファムによる分析では、最先端のワクチン候補の5つすべてが成功したとしても、2022年までに世界のほとんどの人々にいきわたるに十分なワクチンがないことがわかった。国家主義的アプローチに対し世界保健機関は警告を発しようとしたが、しかし決めるのはカネと力であることが現実であった。
利己主義の問題は、各家庭でも突きつけられた。私たち一人一人が私たちのコミュニティに対してどのような責任を負うのか。家族、友人、隣人は、個人の希望を優先してルールを曲げるのか、それとも他の人を念頭に置いて犠牲を払うかについて意見が分かれた。
英国では一部の(裕福で強力な)人々とってのルールがあり、他の人々にとっては別のルールであることが分かった。政府は検疫制限に抜け穴を作り、「価値の高い」ビジネス旅行者が国に到着するときに必須の14日間の隔離期間をスキップできるようにした。有名人はプライベート・パーティーを主催したが、残りの私たちは懇親会を避け、会うのは家族や友人だけだった。すべての中で最も記憶に残るのは、首相の当時の最高顧問であるドミニク・カミングスが新型コロナの規則に違反したが、彼のポストに残った。
しかし2020年には、多くの明るい無私無欲の瞬間があった。多くの人々が莫大な個人的犠牲を払った。その人々とは、ケアを必要とする患者を治療するために自分の命を危険にさらした医療従事者に他ならない。職務上、医療従事者は他の労働者よりも7倍重症のCovid-19に感染する可能性が高く、多くの人が3月と4月に適切な個人保護具なしで病棟で働き、何があろうとそれを受け入れる覚悟ができていた。他の場所では、バスの運転手、警備員、社会福祉士、掃除人、食料品店の労働者、相互扶助グループ、教師らはすべて、自分たちの健康と福祉よりも社会を動かす必要性を優先している。このパンデミックは、誰が社会に付加価値を与えているのか、またわれわれがこれらの役割を適切に補償しているかどうかを反省する機縁となるはずである。
このパンデミックから学んだすべての教訓の中で、最も重要なのは、その影響がいかに不平等であったかということである。富が、Covid-19からの最良の防御戦略であることが判明した。貧しい人々が窮屈な住宅に群がる一方、金持ちは田舎の避難所に逃げた。Covid-19で死亡する最大のリスク要因は、社会的不平等、住居の状態、職業である。
この疾病からのわれわれの社会の回復のためには、世界のすべての地域の人々が疾病からの保護と研究開発へのアクセスの両方を手に入れられる、より平等でより回復力のあるresilient社会を構築することに集中する必要がある。それはすべて政府から始まる。厳しい11か月の終わりにあたって、私はエイブラハム・リンカーンの言葉が思い浮かぶ。パンデミックは、裕福なエリートのための政府だけでなく、「人々による、人々による、人々のための政府」が必要であることを示した。 おそらくそれがCovid-19の最強の遺産であろう。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10419:201228〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。