日本と韓国の逆転
- 2021年 2月 3日
- 評論・紹介・意見
- 小原 紘日本韓国
韓国通信NO659
2019年の日本の一人当たり購買力平価GDPは43,194ドル(世界33位)。韓国は44,573ドル(30位)だった。3年連続、日本は韓国を下回った(IMF発表)。
GDP(国民総生産)を人口で割り、為替と消費者物価で修正した購買力平価は、国民一人当たりの実質的な所得水準である。ちなみにアメリカは65,254ドルで8位だった。
韓国を「後進国」と考えている向きには信じられない数字かもしれない。どちらが豊かな国なのか。平均値なので一概には言えないが、評価は皆さんにお任せしたいと思う。
コロナ感染の不安と政府への不信と怒りの真っただ中である。日本はこれからどうなるのか、この指標を切り口に考えてみた。
<コロナの感染拡大で見えてきた共通の問題と相違点>
先進国でありながら韓国の貧困率は世界のワースト10位、日本は15位である。「目糞鼻糞を笑う」程度の違いだが、日韓とも貧富の差が激しく貧乏人がたくさんいる。性差による不当な差別、非正規雇用労働者の数も多い。コロナが貧困な弱者を直撃しているのも共通している。だが、日本と韓国では政府のコロナ対策が決定的に違っていた。韓国の徹底したPCR検査による感染対策は、オリンピック開催と経済を重視して後手に回った日本と際立った違いを見せた。何が何でもオリンピックという姿勢は大問題だが、根本には民主主義の違いがあった。
韓国では不満を声に出す。それは国民性と言ってよいほどだ。文政権の「検察改革」失敗に対する批判、なかなか実現されない公約に苛立つ国民。そのせいか政権の支持率も上がったり下がったりめまぐるしい。だが新聞で知る限りでは議論の中身のレベルは高い。国政の私物化(壟断)を厳しく追及して大統領を辞めさせた国と、「モリ・カケ・桜」の疑惑を嘘と改ざんで「無事」に切り抜けた彼我の違いから当然かもしれない。国民がおざなりにされている日本に対して、政府と国民の葛藤が熱くなる韓国の政治の中心には常に国民がいる。
<日本の後進性と韓国の先進性>
出口が見えない日韓関係について、日本は歯牙にもかけない冷淡さで、原因と解決は「韓国側」にあると主張するばかり。日本のメディアも韓国の「反日」が原因であるかのように報じる。喧嘩は強いほうが譲歩すべきと言うつもりはないが、最低限、どちらが加害者で被害者かという基本的な議論をしなければ関係改善の糸口すらつかめないはずだ。
最近、韓国で『韓日逆転』という本が話題になっている。日韓の深い溝に横たわる問題点を整理した。多くの書評がネットで紹介されているが、ハンギョレ新聞に紹介された内容を以下に要約紹介したい。
著者イ・ミョンチャン氏は東北アジア歴史財団名誉研究員、日本政治史の研究者。日本での研究期間も長く知日派として知られる。本書は長年培った知見と日本の文化人・学者の主張を紹介しながら韓国が進むべき道を示した。
日本が韓国に対して優越的な態度を示す理由を、敗戦を認めない日本人の歴史認識に求めた。敗戦を認めない意識が「嫌韓」を生み、徴用工問題、慰安婦問題で見られる加害者と被害者を逆転させる倒錯が生まれた。
日本の「嫌韓」に付き合う必要はないと著者は主張する。嫌韓が多数派を占める日本で歴史認識を問題視する日本人も少なくない。もはや日本人の嫌韓意識によって韓国人が自縛する必要はない。歴史認識を欠いた今日の日本の政治的・経済的停滞は明らかだ。
日韓の政治体制の違いは決定的である。自らの力で独裁軍事政権を葬り、民主化を勝ち取り、世界の先進国入りを果たした韓国。比べて過去にとらわれ停滞・脱皮できない日本。
日韓のコロナ対策の違い。法秩序を踏みにじった安倍政権を長期にわたり日本人は容認し続けた。コロナという新しい事態に対応できず政権は自滅した。徹底したPCR検査で成功した韓国。
「731部隊」のDNAを引き継いだ専門家会議が日本の隠ぺい体質と一体となってコロナ感染を拡大したという指摘。アメリカに依存して経済成長を遂げた日本は壁にぶつかっている。報復措置に出した対韓国輸出規制によって、日本が経済的打撃を受けるという皮肉な現実。傲慢にも日本は韓国に対しては「常に正しく優越」していると考えているが、日本は韓国のデジタル化の足元にも及ばない。経済指標(購買力平価等)を見ても韓国はひけをとらない。日本は政治も経済も先進国とは言えない。「極右と歴史修正主義者たち」に乗っ取られた感のある日本は沈む他ない。著書は本人の日本研究にくわえ、白井聡等の主張等を紹介しながら韓国の優位性を説く。まさに日韓逆転である。
<これが日本の現実だ>
戦後最悪と言われる日韓関係は「嫌韓」と「反日」の感情のぶつかり合いと説明されることが多いが、日本社会の後進性と韓国の先進性から解き明かし、「日本のことは気にしなくてもいい」という主張は新鮮だ。
菅首相の「国民のいのちと暮らし」を守るという発言は、「新特措法」で馬脚を露わした。医療と福祉を軽視した政策がたたって医療も受けられない非常事態を生み出した挙句、入院拒否者に罰則を与えるという。入院できずに自宅で亡くなる人が続出しているにもかかわらず。憲法の停止。このままでは医療とともに民主主義も崩壊する。世界第3位の経済大国の人間不在、モノ・カネにまみれた権力者本位の実態が明らかになった。日本の戦後政治のすべてが根本から問われている。
特報 散歩の毎日。
手賀沼で、カワセミ(写真)を発見した! ススキとアシの間からオオバン、ムクドリ、カモ、セキレイ、白鳥たちが顔をのぞかせる。春が間じかというのに、政治不信からワクチンに期待しない人が多い。
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