総理の憂鬱 ー 「総理なんかになるんじゃなかった」
- 2021年 2月 27日
- 評論・紹介・意見
- 澤藤統一郎
(2021年2月27日)
私が総理の器ではないというご指摘…。そりゃあ、私には、あのう、なんて言うんですか、高邁な理想も政治哲学もありませんよ。国民の心に響くような語るべき言葉を持っていない。でも、前任者をよく見てきましたが、あの人だって理想や哲学を持っていなかったというのが事実ではないでしょうか。それでも、7年8か月も総理が務まった。器なんて、誰にでもあるといえばある、ないと言えばない。そんなもんではないでしょうか。
えっ? 一国の総理たるものが、落ち着きなくイライラしてどうしたんだ、と言うんですか。総理だろうと、天皇だろうと、人間ですよ。面白くないことが重なれば、イライラするのは当然でしょう。そういうことも事実ではないでしょうか。
よくご存知でしょう。面白ないことだらけですよ。内閣支持率は下がりっぱなし。コロナ対策はうまく行かない。この頃、専門家が政治家の言うことを聞かなくなってきた。ワクチンの供給がどうなるか私も不安でたまらない。東京五輪は風前の灯だし、私の長男の総務官僚接待問題で話題持ちきりだし、首相広報官の7万4000円接待問題が庶民感情をいたく傷つけている。うまく行ってることは一つもない、こんな状態で選挙も近い。世論にもメディにもトゲがある。みんな遠慮をしなくなっている。それでも、国会で野党の質問に答弁しなければならないし、意地悪な記者の取材にも応じなければならない。イライラして当然というのは、これも事実ではないでしょうか。
昨日(2月26日)、新型コロナ緊急事態宣言の首都圏以外は先行解除をようやく決めた。当然国民の多くが記者会見を行うと思ったでしょうが、そんなこと、できるわけがないでしょう。内閣記者会から会見を開くよう申し入れを受けたが、これを断って、「ぶら下がり取材」とした。立ったまま記者からの質問に答えたんですけど、これが特別にイライラのイヤイヤでした。
官邸の記者会見では、広報官が作成したペーパーを読んでりゃいいんだし、嫌な質問は広報官がブロックし、広報官が「次の日程がありますので」などと適当な口実で切り上げてくれる。でも「ぶら下がり」では、その広報官がいない。山田広報官、会見に出てこれないんだ。出て来りゃ、私の話よりも「一食7万4000円ごちそう問題」に質問が集中するのは目に見えている。そのことも事実ではないでしょうか。
それでも、案の定礼儀を弁えぬ記者からは「緊急事態宣言の6府県解除をしたのに、なぜ記者会見を行わなかったのか? 高額接待を受けた山田内閣広報官の問題が影響したのか」という質問。ああいう記者の顔と名前はよく覚えておこなくては。
用意していたとおり、「山田広報官のことはまったく関係ありません。昨日、国会で答弁されてきたことも事実じゃないでしょうか」と言ってみたけど、我ながら迫力に欠ける。イライラが声に表れる。
その後も記者たちは遠慮がない。「山田広報官から接待の詳細は聞いたのか」「山田広報官を続投させる方針に変わりないか」「政治責任をどう考えるか」と矢継ぎ早の質問だ。イライラは募るばかり。
さらには「会見を行わずに(コロナ対策に)国民の協力が得られると思うか?」と聞かれて、「だから今日こうして、ぶら下がり会見を行っているんじゃないでしょうか」という声が震えた。これが、「総理キレた」とか、「気色ばんだ」とか、あるいは「台本ないとダメだね」「素の菅さんはこんな感じなのか」と、意地悪く報道されてしまった。支持率70%のころにはこんなことはなかったのに。
最後の質問は、「今度の会見では最後まで質問を打ち切らずにお答えいただけるのか?」だというんだ。もう、総理に対するイジメじゃないか。「いや、私も時間がありますから。みなさん、出尽くしてるんじゃないですか。先ほどから、同じような質問ばっかりじゃないでしょうか」とようやく終わることができた。
中で、こんな質問があって驚いた。
― 先ほど東北新社が社長の退任と幹部の処分を発表した。総理の長男も役職を解任され、人事部付となりました。受け止めは。
「私は承知していません。会社としてのけじめだと思います」と答えるしかなった。しかし、どうして長男を役職から解任することが会社としての「けじめ」になるのか、よく考えると分からない。長男は、そんなに悪いことをしたのだろうか。
しかし、不愉快極まる。なんだ、手のひらを返したような、この東北新社の態度は。目を掛けてやった恩を忘れたのか。それが、総理の長男に対する処遇だというのか。「人事部付き」って何もやることがないってことではないのか。総務省接待以外には、使いようがないということなのか。それよりも、総理の権威はどうなった。もう誰も総理の意向を忖度しないというのか。だれも私を恐れないというのか。
これじゃ、世も末という外はないじゃないでしょうか。あ~あ、「総理なんかになるんじゃなかった」、と愚痴をこぼすべきではないでしょうか。だから、私がイライラしてることも、事実なのではないでしょうか。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.2.27より許可を得て転載
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