願わくは、野党議員が一人でも増えることを
- 2021年 3月 20日
- 評論・紹介・意見
- 選挙野党阿部治平
――八ヶ岳山麓から(332)――
まもなく4月8日告示、25日投開票の国政選挙が戦われる。現時点で選挙が行われるのは、収賄事件により吉川貴盛氏が議員辞職した衆議院北海道2区、新型コロナで羽田雄一郎氏が死去した参議院長野選挙区、買収選挙により河井案里氏が当選無効となった参議院広島選挙区、の3つである。
このうち北海道2区は自民党が候補者擁立を見送って「不戦敗」を選んだから、菅内閣にとって発足後初の国政選挙となるのは長野と広島である。この参院選は、新型コロナ禍の抑制と、その中で強行されるオリンピックの成否とともに、10月の衆議院議員任期満了までに行われる総選挙の行方を占う鍵になると思う。
私は日本の諸悪の根源は自民党が国会の3分の2を占めていることにあると考えるので、たとえ一人でも革新・リベラル派の野党議員が増えることを願っている。長野県区は私の居住区なので、特にその思いが強い。
参院長野選挙区はNHK党からの出馬もあるが、2019年に続いて、この度も与野党一騎打ちになると見られている。地元紙報道によると、それぞれの陣営は次のようである。
まず自民党。元衆院議員小松裕氏(59)の公認を決定した。本人による立候補表明は2月1日である。
小松裕氏は地元の諏訪清陵高校・信州大学出身の内科医。会見では医師や医療従事者の確保など新型コロナウイルス感染症対策の充実を掲げ、「政治と医療をつなぐ役割を担わなければならない」と訴えた。
小松氏は2012年に自民党の公募に応じて衆議院選挙に初出馬、小選挙区では敗れたが比例ブロックでの当選を果たした。2014年衆院総選挙では同じく比例区で復活。2017年衆院選には無所属で挑んだが落選した。のち参院選に転じたが、2019年選で国民民主党の故羽田雄一郎(長野区)に14万5千票の大差で敗れた、という経歴を持つ。
自民党衆議院議員で党県連会長の後藤茂之氏は、1月23日長野市内で開いた会合で、「現政権にとって最初の国政選挙になる。この1年で必ずある解散総選挙の前哨戦という覚悟で戦わないといけない」「県内の保守グループをまとめ、再結成をしっかりすすめて選挙に臨む」と語ったということだ。氏自身が衆院総選挙をひかえているので、強い危機意識をもって背水の陣を敷いたとみられる。
小松氏はスポーツ医として過去5回のオリンピックに帯同したが、今までオリンピックへの言及を避けている。また陣営にとって総務省接待問題などが逆風になっているが、党県連はネット選挙に詳しい大学教授の助言を得てSNSで支持拡大を訴える専門チームを立ち上げる予定だという(信濃毎日新聞 2021・03・07)。
対する野党側は故羽田雄一郎氏の実弟羽田次郎氏(51)の擁立を決めたが、これは自民党よりやや遅れた。はじめに後援会「千曲会」が次郎氏の擁立に動き、1月下旬、信州において平和と人権を守る市民ネットワークという市民団体「信州市民アクション」主催の会合が開かれ、これに立憲民主党、共産党、社民党の代表が参加して、立憲公認の羽田次郎氏を推薦する方向を確認した。次郎氏本人の立候補表明は2月7日である。さらに2月27日、市民団体「信州市民アクション」と野党3党は、正式に羽田氏を野党統一候補とすると同時に、共同政策の協定書を締結した。
羽田次郎氏は、故羽田孜元首相の次男である。フランスのアルザス成城学園高校卒、米ウェイクフォレスト大中退、孜元首相の秘書などを務めた。2017年の衆院選では旧「希望の党」から立候補し、比例代表東京ブロックに登録されたが落選。現在はコンサルティング会社社長とのことである。
野党側支持者の間では、羽田雄一郎氏の弔い合戦ということもあり、また前回参院選で大勝したこともあって楽観視する人もいるが、小松裕氏は地元出身であり、羽田次郎氏はむしろ東京の人であってなじみが少ない。しかも自民党は必死の覚悟で臨んでいる。その布石のしかたを見ると油断はならないと思う。
野党共闘が成立したとしても、実際の支持拡大にあたっては、共産党の足に頼ることが大きいであろう。その共産党は、羽田雄一郎氏急逝後の後継候補を選ぶにあたり、「自党の候補に固執しない。政党公認ではだめだとか無所属にすべきだとかいうつもりもない。立憲民主党が候補者を立てることが筋がとおっている」と、あくまでも野党共闘を優先する声明を発表している。とはいえ共産党の泣き所は、活動家が前回選挙よりはまた一段と老いていることである。
私が心配になったのは、むしろ野党の「共同政策」である。
それは、①新型コロナ収束へ国民の命、暮らし最優先の対策、②憲法9条改定反対、③新自由主義から転換し格差是正と貧困対策強化、④東京一極集中から地方分権へ、⑤ジェンダー平等、性的少数者(LGBTs)などすべての差別の解消、⑥日米同盟中心の外交から東アジア諸国との関係改善へ、⑦防災、減災、治水対策の強化など7項目である。
このなかには「消費税5%へ軽減」「原発ゼロ社会めざし、再稼働は認めない」「核兵器禁止条約の批准」なども盛り込まれ、日本の抱える課題がほとんど書かれている。私からすれば、ごもっともというほかない。
一方、「信州市民アクション」は羽田次郎氏との意見交換会で、護憲や集団的自衛権、靖国参拝などの問題について、同意を確認したとのことである。これは兄雄一郎氏が国会議員の「靖国神社に参拝する会」に属したこと、また野党系無所属から衆院議員に当選した井手庸生(長野3区)氏が2019年年末に自民党に入党したというにがい思いがあって、これに懲りたためと思われる。
おもえば故羽田雄一郎氏の2019年の大勝は、保守派のリベラル傾向の人々を含む広大な無党派支持層があったからである。この人々にとっては、「共同政策」の項目の中にはなじめないものがあるだろう。立憲民主党の篠原孝(長野1区)は、「信州の野党共闘は成功しており、方針は変えない」というが、国民民主党や連合本部は「日米同盟に頼る外交の是正」や「原発ゼロ」の実現などが盛り込まれたことに対して野党統一候補への不満を表明し、あつれきが生まれた。
読売新聞によると、立憲民主党の枝野代表は、連合会長に共産党と政策協定を結んだことを陳謝した。また羽田氏と立民県連などは、新しく連合の政策を入れた協定を結び、連合本部は羽田氏支持を枝野氏に伝えたという(読売2021・03・18)。
一方信濃毎日新聞は、3月17日に羽田次郎氏と立民県連は、旧民進党系の県議会内の政治団体「新政信州」と「政治合意文書」を交わしたと伝えた。また羽田氏は連合長野の執行委員会であつれきが生じたことをわび、「確認書」にも署名した。連合長野は本部に羽田氏推薦を維持するよう要請したとのことである(信濃毎日2021・03・18)。
共産党長野県委員会に問い合わせたところ、読売の伝えるところが事実であっても、それに煩わせられることなく、2月に野党3党と市民団体が結んだ「政策協定」の路線で選挙活動をやるとのことであった。
現在まで自民党が準備を進め、候補者ポスターを張っているのに、野党連合はそれに追いついていない。地元民とすれば、合意によって早く遅れを取り戻してほしい。
思うに、正しいことでも言いすぎると間違いになることがある。野党連合は、異論が出そうなところは削って「野菜・果物の供給価格を安定させる」とか「非正規雇用を減らす」といった、県民多数が一致できるところで共闘するのがよいと思う。かつて小泉純一郎氏は「自民党をぶっ壊す」と「郵政民営化」で勝負に出て勝利したではないか。革新・リベラル派はこれに学ぶべきである。
(2021・03・18)
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