青春の記録を詐欺の疑似餌に使われて
- 2021年 4月 24日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
二月のはじめ、なにもかわったことはないよなとGoogle Chromeで「はみ出し駐在記」と入力したら、「はみ出し駐在記」―アマゾンの電子ブックのPDFファイルをダウンロードできるとうサイトがでてきた。
「はみ出し駐在記」は、四十年以上前の遅すぎた青春の思い出話で、だからどうしたというものでしかない。
技術屋になりそこなって便利屋稼業一筋。二十歳から六十過ぎまで日本だけでなく、アメリカやヨーロッパの会社で走り続けて、終活も考えなければならない年になってハタと考えた。自分を見直すこともなしでは終われない。
日本にいたら下働きで日の目を見ることもないノンキャリア。そんなものでも外資にいけば使い捨てのSecond class citizenにはなれる。野垂れ死に覚悟で戦場を渡り歩いて、行く先々で見たものや聞いたこと、そして感じて考えてきたことのはじまりの、言ってみれば社会人としてのとっかかりところを、まとめておこうと思い立って書いたものだった。
製造業でしかないが、日本語と英語で技術知識を求めて、経理の知識を、そして経営にいたるまで幅広く勉強をしてきたが、小説とか文学の類というのか人文系の知識は皆無に近い。仕事で必要にせまられて書いたことはあるが、読み物として人様の目に触れるものを書くなど考えたこともなかった。読んでも何をいっているのか分からない文章なんてのもいやだし、多少なりとも体裁も整えなければと、文章の書き方なんて本も何冊か読んでつけ刃をつけながら、四千語ぐらいの読み切りを書いていった。
書くといってもパソコンでキーをたたいてで、昔のように鉛筆なめなめという訳じゃない。書きあがったものはMS-Wordのファイルとしてパソコンのハードディスクに保存されている。
パソコンのなかにしまっておいてもと、ホームページをつくって掲載して、「ちきゅう座」にも投稿させて頂いた。毎週書いていってトータルの文字数を勘定したら、二十万語を越えていた。自費出版でもして一冊棺桶に入れてもらえないかと思ったが、先立つものがない。知り合いからアマゾンの電子ブック(Kindle版)なら費用がかからないと聞いて、手探りで校正して表紙もつくった。分からないことばかりでアマゾンになんども聞きながら作業をしていったら、ポンと電子ブックが出版できてしまった。巷のなにもないオヤジでも出版できてしまう便利さにびっくりした。棺桶には入れられないが、費用ゼロだからしょうがない。
人様の本を勝手にダウンロードはないだろうと、アマゾンに対策を相談した。
アマゾンの担当者とのやり取りは下記の通り。
<愚生からアマゾンへの問い合わせのメール>
2021年2月1日のメール
ご担当者さま、
『はみ出し駐在記』の著者、藤澤豊です。
妙なサイトがでてきました。
https://adlibrisbooks.blogspot.com/2020/12/b01ktxf8qs.html
【ダウンロード】 はみ出し駐在記: なんでもありの豊かなアメリカの傷んだ社会 【無料】 【B01KTXF8QS–】
DICEMBRE 15, 2020 / WITH NO COMMENTS /
海賊サイト?なんでしょうか?
無料でPDFファイルをダウンロードできるとうたっています。
何らかの処理をお願いできるものなのでしょうか?
アマゾンから2月2日、予想していた親切な回答が届いた。
<アマゾンからの返信>
藤澤様
Kindleダイレクト・パブリッシングにお問い合わせいただき、ありがとうございます。
このたびは、情報をご提供いただき、ありがとうございます。
Amazon は、Amazon のサービスにおいてお客様のファイルが安全に管理されるよう幅広い対策に取り組んでおり、藤澤様のファイルが不正にアクセスされていないことを確認しております。Amazon はまた、お知らせいただいたサイトとは一切関係がなく、藤澤様のファイルをこの Web サイトに提供することもございません。
万が一お客様の作品が許可なく Web サイト上で提供されている場合は、お客様ご自身で直接、その提供を行っているサイトに対して、お客様の権利が侵害されていることを通知し、コンテンツの削除を依頼することをお勧めします。ただし、”フィッシング サイト” と呼ばれるような一部の Web サイトでは、利用者の個人情報を不正に取得することを目的として、実際には存在しないコンテンツを掲載したり、印刷書籍の販売または無料提供を行っている場合があります。
このような Web サイトにクレジット カード番号などの重要な個人情報を知らせないよう、十分ご注意ください。
なお、著作権の侵害に関する対応方法についてご不明な点がございましたら、著作権の専門家にお問い合わせいただくことを推奨いたします。
恐れ入りますが、弊社が権利者の代理で第三者に申告することはあいにくできませんので、何卒ご了承いただきますようお願いいたします。
下記のサイトは、Amazon とは関係はございませんが、インターネットトラブルの相談先をご確認いただけるようですので、必要に応じてご参照ください。
http://www.iajapan.org/hotline/index.html
予想していた通りの返信でがっかり三分の一、そうだよなというのが三分の二。
アマゾンのサポートからの回答にあるように、アマゾンからデータが流失したとは考えにくい。オレのパソコンから?アマゾンのセキュリティには比べようがないが、それでもKasperskyでプロテクトしている。そもそも巷の何もない人間のパソコンからデータなど引き抜いたところで、金になるようなデータがでてくるわけでもない。となると可能性としては、詐欺サイトが表紙のコピーを見せて、サイトへの登録を促して個人情報を取ることを目的としているとしか考えられない。
大した手間はかかっていないだろうけど、売れもしない電子ブックの疑似餌なんか使って、なに考えてんだろう? この原稿を書いていて、ちょっと確認するかとGoogle Chromeでみたら、詐欺サイトが増えていた。
https://bookvaluelibrary.blogspot.com/2020/11/pdf-b01ktxf8qs.html
たいしたもんじゃないが、人様の青春の記録を疑似餌にはないだろう。メールでクレームをつけたら、こっちのメールアドレスが抜けるだけで、なんの解決になるとも思えない。相手にするだけバカげてる。アマゾンが言ってきたインターネットトラブルの相談先に相談でもしてみようかと思ったが、こんなちゃちな事案、相手にしてくれるとも思えない。なにか手はないものか。
インターネットが普及して便利になったのはいいけれど、悪さするのも置き引きより簡単になったということなのだろう。それにしても、なんで売れっこない「はみ出し駐在記」なんかを? もうちょっと気の利いたものがいくらであるのに。
p.s.
<お手軽詐欺>
最近ずいぶん減ったが、十年以上前にはじまって去年の十月まで毎日はいってくる詐欺メールにうんざりしていた。システムさえ作ってしまえば、メールでひっかけてネットで金をまきあげるだけだから、ランニングコストは只みたいなもの。オレオレ詐欺のように一軒一軒電話をかけることもないし、受け子が出向くこともない。
よくあるというよりあり過ぎるのが架空請求で、お手軽詐欺の見本の感がある。Webでニュースを漁って本を読んで、ちょっと疲れたと気晴らしにYouTubeを見ていたら、弁護士YouTuber‘s Channelが出てきた。
あるある、こんなのもあるのかのというのが呆れるほどある。お暇なときに、ご覧になられるのも一興かもしれない。
そんなところで、日々の生活に汲々としている人たちが使い走りをしている。なかにはそれでしか生きようのなくなっている人さえいる。日本がここまで傷んでいるのを見せられると、どうしたものかと思いながら、なにもできないのが歯がゆい。
2021/3/5
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10777:210424〕
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