オリンピック強行で「東京2021変異株」拡散のディストピア?
- 2021年 6月 2日
- 時代をみる
- オリンピックワクチン加藤哲郎新型コロナウィルス
2021.6.1 熟慮のうえで、ファイザー社のワクチンを打ってきました。近くの市役所で、15分ごとの予約枠があり、30人分くらいのイスに順番で座り、医師と看護師が巡回して予診票により簡単に質問し、一人実質2−3分の流れ作業で接種していくスタイルでした。この予約取りには、電話でもネットでも苦労した人が多いようです。娘さんでしょうか、付き添いがついている老人がいます。3週間後の2回目接種は、別個に予約しなければならないのですが、1回目接種後の待機時間に看護師に聞いている人もいました。初めて知ったようです。私の町はスムーズな方のようですが、それでも市報やホームページの説明はわかりにくく、老人たちの口コミネットワークとこどもたちのスマホによる援助が役に立ったようです。いま日本全国で、新型コロナウィルス・ワクチン接種の壮大な実験が進められています。高熱や倦怠感の副反応は多く、因果関係はまだわかりませんが、接種後死亡者85人が出ているようです。それでも、世界で1億7千万人感染・350万人死亡、日本でも73万人感染・1万3千人死亡、イギリス株からインド株への変異種感染が東アジアでも増えていて、世界のワクチン開発・生産・供給競争から取り残された超後進国日本で、高齢者のワクチン願望が切実になるのは当然です。
ワクチン接種には、ためらいもありました。日本におけるワクチンの歴史と、新型コロナウィルスCOVOD-19に対するmRNA ワクチンの有効性・安全性の問題です。日本でワクチン接種が本格化したのは、1948年の予防接種法以降のことです。日本敗戦で上陸した連合国の若い兵士40万人を待っていたのは、恐ろしく貧しく不潔で伝染病が蔓延する社会でした。「外地」からの引揚者も感染症を持ち込み、占領軍の統治は、「DDT革命」、公衆衛生を教え諭すことから始まりました。そこでGHQ・PHW(公衆衛生福祉局)サムス准将が、米軍軍医だけでは足りず、日本の感染症対策に動員したのが、関東軍防疫給水部(731部隊)の残党でした。人体実験・細菌戦を繰り返した731部隊は、当時の日本医学の最先端でしたから、大学医学部や医学研究の世界ばかりでなく、医薬産業やワクチン業界にも入り込み、勢力を残しました。1948年の予防接種の初発に、京都・島根でジフテリア予防接種による乳幼児83名の死亡事件がありました。そのワクチンを製造した大阪日赤医薬学研究所の工藤忠雄は、旧731部隊員でした。朝鮮戦争前後のこの時期の「ワクチン村」には、多くの旧731部隊員が蠢いていました。杜撰なワクチンを製造した大阪日赤医薬学研究所ばかりでなく、武田薬品、阪大微生物研究所、北里研究所、東芝生物理化学研究所・デンカ生研、目黒研究所などのワクチン関連メーカーは、厚生省・東大伝染病研究所(現医科研)・予防衛生研究所(現国立感染研)と組んで、旧731部隊の技術と人材を継承していました。731部隊の姉妹部隊である関東軍軍馬防疫廠=100部隊の獣医学関係者も、人獣共通感染症の動物用ワクチンの製造・販売で、こちらは農林省管轄でしたが、「ワクチン村」のメンバーでした。この旧軍の伝統を引く閉鎖的「ワクチン村」が、さまざまなワクチン禍事件と被害・薬害訴訟を重ねながら、護送船団方式で日本のワクチン産業を守ってきました。1970年代以降に感染症が医療の本流から外れて後も、細々と続いてきましたが、それは21世紀には無力でした。国産ワクチン待望論もありますが、私の場合は逆で、日本の731部隊型「ワクチン村」の衰退の確認が、ファイザー・ワクチン接種に踏み切った理由の一つです。
2020年の新型コロナウィルスの世界的大流行=パンデミックにさいして、日本の感染対策は世界的に見てミゼラブルでした。未だに続くPCR検査の不足、抜け穴だらけの検疫や脆弱な医療体制、補償なき休業・自粛要請の繰り返し、等々に並んで、ワクチン・治療薬作りでも、医療後進国である姿を世界に知らしめました。戦後占領期の伝染病対策である程度の役割を果たした731部隊の伝統は、ワクチンづくりも細菌レベルからウィルスレベルに高度化し、さらにはグローバルな医学・医薬産業の競争のもとで遺伝子ゲノム解析をもとに進められる国際協調・再編系列化の波に乗ることができず、無力でした。もともと日本の医療政策は、「国民病」とまで言われた結核の鎮静化と高度経済成長による高齢化社会の到来で、1980年代以降、ガンや心臓病の高度医療対策や医療費抑制の方向にシフトし、感染症対策や予防接種・ワクチン開発の予算も人員も減らされてきました。731部隊的伝統は、厚生労働省医系技官と結んだ国立感染症研究所・地方衛生研究所・地域保健所の行政検査・データ独占隠蔽ラインに残されていましたが、その経験主義と時代遅れは2020年段階で白日に晒され、専門家会議・分科会医療関係者の「専門性」が信頼を失いました。そこにアメリカやヨーロッパの「大国」がワクチン製造で先行し、G7の外の「大国」であるロシア、中国、インドも自国生産と輸出によるワクチン外交に突入しました。「大国」意識だけで経済衰退も著しい日本は、宗主国アメリカの大統領が代わりワクチン外交において特別優遇されることなく、発注・契約・搬送・供給確保、国内体制準備・医療従事者確保・予約システムIT化から接種実施スケジュール化まで、ことごとく後手後手で、経済政策と感染政策の両立どころか、経済そのものを破壊してしまいました。ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンは、ハンガリー出身のカタリン・カリコ博士の開発した21世紀型技術の産物で、少なくとも日本の国産ワクチンよりは、有効性・安全性とも信頼できそうです。無論、ワクチンは万能ではありませんし、接種事故や副反応の問題は未決です。私は年齢相応で、リスクを承知の上で敢えて「人体実験」を希望し加わりましたが、ワクチンを拒否する自由は当然ありますし、未接種者を差別するようなことがあってはなりません。
ワクチンをめぐる政治は、国際外交ばかりでなく、いま世界各国の国内政治でも焦眉の課題となっています。この6月は、日本ではまだ高齢者接種がいつまでどこまでできるかの段階で、若い人々のワクチン接種は希望しても来年までかかりそうです。それなのに、なぜか日本政府は、ワクチン接種高速化を事実上唯一の感染対策に仕立て上げ、7月開会予定の東京2020オリンピック・パラリンピック開催強行に突っ走ろうとしています。IOC幹部たちのむき出しの金権オリンピック強行発言に抵抗することもできず、アスリート以外の8万人もの「五輪ファミリー」や報道陣を東京に受け入れようとしています。あまつさえ、ワクチン接種もPCR検査も特別扱いとし、医療従事者や感染者用ベッドを別枠で確保し、さらには無観客を嫌って小中学生81万人を会場に動員し拒否すれば「欠席」扱い、都内代々木公園他全国各地にパブリックビューイング会場を設けるという、狂気の準備中です。緊急事態宣言が続いていても強行、アルマゲドンがない限り決行という歯車がまわりはじめ、アメリカどころかIOCの属国・植民地と化した日本の政治に、国内外の世論もあきれはてています。スポンサーの大新聞からも、中止論が現れました。電通やパソナのような中抜き利権企業以外では、産業界からも国策への疑問が出てくるでしょう。何よりも、コロナウィルスはオリンピックには無関係・無関心です。イギリス型・インド型からベトナム型にまで変異を重ね、昨年は相対的に感染が弱かった東アジアでも、急速に感染が広がっています。この現状では、最悪の場合、7月に世界中から変異種ウィルスが入ってきて、「東京2021変異ウィルス」を世界中に拡散することになりかねません。ワクチンも重要ですが、政府と東京都の政治の暴走に、ブレーキをかけることが急務です。学術論文データベ ースに、深草徹さん「学術会議任命拒否ーー憲法の視座から見る」の寄稿がありました。河内謙策著『東大闘争の天王山ーー「確認書」をめぐる攻防』(花伝社2020)への『図書新聞』2月27日号に書いた私の書評、3月末発売の『初期社会主義研究』誌 第29号に寄稿した学術論文「コミンテルン創立100年、研究回顧50年」が、本サイトに入っています。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4835:210602〕
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