竹中平蔵よ。絶好のタイミングで、よくぞ本音を語ってくれた。
- 2021年 6月 8日
- 評論・紹介・意見
- 澤藤藤一郎
(2021年6月7日)
物語を面白くするには、悪役が必要である。その悪役も、安倍晋三や菅義偉のごとき底の浅い軽薄な悪役だけではストーリー展開に厚味が欠ける。料理に喩えれば、歯ごたえもなく、コクも旨味も出てこないのだ。意外なところから、「本当のワル」が登場してこそ、場は盛り上がる。そして、ことの本質が明瞭となる。
「パンデミック下の東京五輪開催是か非か物語」において、ボッタクリ男爵とその一味が、悪役として顔を出して以来、主役の影が薄い。菅も小池も橋本も丸川も、完全に喰われてしまった。この一味徒党は、オリンピックというものの本性をあからさまにし、オリンピックを推進している連中の傲慢さや俗物性を余すところなく目に見える形にしてくれた。その功績はまことに偉大である。オリンピックとは、かくもつまらぬもの、運動会ほどの楽しさも意義もないのだ。
このボッタクリ一味が悪役の真打ちと思っていたところに、さらにその奥に潜む「意外なワル」が悪役として名乗りを上げた。今度は、一見「ボッタクリ学者」であるが、実はオリンピックスポンサーである。オリンピックが儲けのタネとされ、都民・国民の命や健康を犠牲にしての利潤追求が批判されているそのときに、タイミングを計ったように、オリンピックを儲けのタネにしている象徴的人物が舞台に登場した。これで、物語の筋書きはたいへん分かり易く、興味深いものとなった。
竹中平蔵といえば、学者のようでもあり、政治家のようでもあるが、その本体は利潤を求める経営者である。新自由主義の旗手であるだけでなく、その実践者として知られる。なにせ、悪名高いパソナグループ会長なのだ。バッハは「ボッタクリ男爵」として名を挙げたが、パソナは「中抜き・ピンハネ」で話題を振りまいてきた。もちろん、東京五輪の公式スポンサーである。
五輪で儲けているご本人が、五輪中止の世論に噛みついた。「世論が間違ってますよ」と言ったとか。これは、分かり易い。昨日(6月6日)の読売テレビ番組「そこまで言って委員会」でのこと。東京五輪の中止や再延期を求める世論が高まっていることに関連し、「世論が間違ってますよ。世論はしょっちゅう間違いますよ」などと発言したという。
竹中には、こう言っておこう。「竹中さん、間違っているのはあんたの方だ。あんたはしょっちゅう間違っている」「例の分科会のあの尾身座長の発言なんか、以前は菅の言いなりでひどかった。でも、菅にいいように利用されて、さすがに専門家としてのプライドを傷付けられたと自覚したんだね。最近の発言は、ようやく本音を語るようになって立派なものだ」「分科会がオリンピックのこと決める権限があるわけじゃないが、オリンピックを開催したらコロナの蔓延はどうなるのか、科学的な基礎資料や知見の提供は明らかに分科会の任務じゃないか」「その提言を、手の平を返したように無視するのは明らかに政権の越権だね」「国会で、国民が最も知りたいことを問われて専門家としての信念を吐露しているのだから、あれは立派なものですよ」「オリンピック、やるかやらないかって議論をするのは、当然でしょ。オリンピックでコロナ蔓延拡大の恐れがあり、医療崩壊の危険もあるのだから。国民の命と健康がかかっている問題なんだから」
竹中の結論は、「世界のイベントをたまたま日本でやることになっているわけで、日本の国内事情で世界のイベントをやめますということは、やっぱりあってはいけない」というもの。何という傲慢、何というムチャクチャ。この人には、一人ひとりの命や生活が最も大切だという認識がない。たかがオリンピックのために、コロナの蔓延拡大を許してよいのかという問題意識すらない。
今、パソナはオリンピックでよほど儲けているのだろう。その儲けをフイにするような世論だから「間違っている」というのだ。もうすぐ都議選だ。オリンピック推進派に素晴らしいエールを送ったことになる。悪役あってこそ、悪役が活躍してこその、分かり易く、わくわくするような盛り上がりの選挙戦になりそうだ。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.6.7より許可を得て転載
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〔opinion10986:210608〕
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