ファイザー・ワクチン(米国)とシノファルム・ワクチン(中国)の正負――素朴な対比――
- 2021年 8月 27日
- 評論・紹介・意見
- 岩田昌征
新型コロナワクチンについてNHKテレビの科学番組を観て、また何冊かの解説新書を読んで、ファイザー/ビオンテックとモデルナのmRNAワクチンがアストラゼネカやヤンセン、そして中国の所謂ワクチン外交の主役シノファルム(国有)やシノバック(民有)に比して、発症予防効果でも重症予防効果でもレベル違いの優秀性を示す事を教えられた。
しかし、この薬理的優秀性は社会政策的優秀性に直通するとは限らない。
ワクチンが相手とする病気の新型コロナ感染症は、エンデミック、endemic(=人類の一部)にとりつくのではなく、パンデミック、pandemic(=人類の全部)にとりつく、つまり地球大にはやる病気である。
そこで、ワクチンの保存条件と使用条件に着目してみると、mRNAワクチンは、マイナス70度の超低温(ファイザー/ビオンテック)、マイナス25度の過低温(モデルナ)であり、4度で最長5日間(ファイザー/ビオンテック)、4度で最長30日間(モデルナ)である。他のノンmRNAワクチンは、はるかに好都合の保存と使用の緩い条件しか要求しないようである。
特にシノファルムやシノバックのような伝統的・保守的な不活化ウィルスワクチンは、人類の平均的生活環境・労働条件の下で保存と使用が可能のようである。それに対して、mRNAワクチンは、北米西欧や東アジアの高経済水準諸国(日本、台湾、韓国等)、そして中国の北京、天津、上海等の大都市圏では活用できても、それ以外の60億人が住む諸地域には上記のような保存・使用の物質的条件が欠如しているので、活用できない。仮に中国がmRNAワクチンを大量生産できたとしても、中国全土の民衆に接種できるに必要なマイナス70度やマイナス25度を安定的に保証する保蔵庫を同じ速度で大量供給できたであろうか。従って、ワクチン自体の性能はレベル違いに低いとしても、中国が不活化ウィルスワクチン――有効率は、mRNAワクチンとインフルエンザワクチンの中間――の大量生産に成功したのは、社会政策として中国人と人類に大きく貢献したのではなかろうか。
性能の高いファイザーは、endemic有効であらざるをえない。それに対して性能の低いシノファルムは、pandemic有効である。社会政策論的見方である。
テレビでも解説本でも教えてくれない事実がある。mRNAの不安定性が体内に入るクスリとしては長所である事は了解できた。しかし、体内に入る前、すなわちワクチンの輸送過程において受ける物理的衝撃・振動への抵抗力、衝撃・振動下におけるワクチンの安定性もまたワクチンのpandemic有効性、つまり人類社会的有効性にとって重大条件のはずだ。そこが知りたい。
令和3年8月24日(火)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion11242:210827〕
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