原爆文学を今度こそ「世界記憶遺産」に 広島の文学保全団体と広島市が共同申請
- 2021年 10月 26日
- 評論・紹介・意見
- 原爆文学岩垂 弘
広島文学資料保全の会(土屋時子代表)と広島市は10月15日、原爆詩人・峠三吉(1917~53年)ら被爆作家3人の日記や手帳などを、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」(世界記憶遺産)に登録するよう文部科学省へ共同申請した。同会と同市は2015年にも申請したが、国内審査で落選しており、今回は2度目の申請。関係者は「広島出身の総理大臣が誕生したのだから、今度こそなんとしても実現を」と意気込んでいる。
「世界の記憶」とは、ユネスコが1992年から始めた事業で、世界的に重要な記録物件への認識を高め、保存やアクセスを促進することを目的としている。この事業を代表するものが、人類史上特に重要な記録物件を国際的に登録する制度で、1995年から行われている。登録を決定するのはユネスコ執行委員会だが、審査は2年に1回、1カ国からの申請は2件以内とされている。ユネスコに申請をするのは文部省内にある日本ユネスコ国内委員会である。
広島文学資料保全の会と広島市が共同申請したのは5点。2015年に申請した∇峠三吉の「ちちをかえせ ははをかえせ」で知られる「原爆詩集」の最終草稿∇詩人・栗原貞子(1913~2005年)が代表作「生ましめんかな」を書いた創作ノート∇短編小説「夏の花」の作者として知られる作家・原民喜(1905~51)が被爆直後の状況を記録した手帳、の3点に、峠が原爆投下前後の広島の状況を克明に書きつづった日記とメモを追加した。いずれも、遺族や関係団体から寄贈、寄託され、現在、原爆資料館が保管している。
共同申請にあたって記者会見した広島文学資料保全の会の土屋代表は「峠三吉ら3人の作品は25カ国語で翻訳されている。人類が忘れ去ってはならない資料だ。若い世代が3人の言葉の力を継承し、被爆の記憶をより深く知ってほしい」と語った。
同会は、今回の世界記憶遺産登録申請にあたり、これへの賛同を呼びかけているが、すでに内外の260人を超す人が賛同人となることを承諾したという。その中には「被爆からすでに76年。被爆者の老齢化が進み、これからは、被爆の実相を証言する人が激減する。それだけに、被爆の惨状を伝える文学作品や被爆建造物はかけがえのない貴重な遺産だ。峠ら3人の作品は国際的な遺産として保存されるべきだと思う」とのメッセージを寄せた人もいる。
これまでに日本から世界記憶遺産に登録された物件は、「山本作兵衛炭坑記録画・記録文書」、「舞鶴への生還―1945~1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録―」など7件である。今回は、日本ユネスコ国内委員会が11月中に2件の国内候補を選ぶとみられている。
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