国威発揚目的の北京冬季五輪自体が「スポーツの政治利用」である。中国は、平和のイベント開催国にふさわしくない。
- 2022年 1月 21日
- 評論・紹介・意見
- オリンピック中国澤藤統一郎
(2022年1月20日)
間もなく、北京冬季五輪が始まる。けっして世界から歓迎され祝福されるスポーツ大会ではない。露骨な国威発揚と習近平政権賛仰の政治イベントとなるだろう。とりわけ、中国から弾圧の対象とされている人々からは、「中国での五輪開催、本当にそれでいいのか」という声が上がっている。
本日の毎日新聞朝刊の《北京2022》という特集連載に、「揺れる五輪 『平和の祭典、人権守れ』 在日ウイグル人『中国で開催、いいのか』」という記事が掲載されている。取材の対象は日本ウイグル協会副会長のハリマト・ローズさん(48)。日本への留学生だったが、戻った故国は変わっていた。兄から、「捕まる可能性がある。日本に帰りなさい」と諭されて、現在は千葉県内で飲食業を営んでいるという。素顔と実名を明かして、講演や街頭デモで中国の人権弾圧に抗議してきたという。その訴えに胸が痛む。
自身や日本で暮らす多くの同胞がウィグル現地の家族と連絡が取れなくなっているとして、彼はこう言う。「中国が平和の象徴であるオリンピックをやっていいのか、考えるべきだ」 。おそらく中国は、国威と中国共産党の威信を発揚することだけを目的としてオリンピックを開こうとしている。それでよいはずはなかろう。
現地の状況が悪化したのは17年ごろだという。中国政府が「再教育」を名目にウイグルの人らを収容所に入れる政策を始め、在日ウイグル人にも家族と連絡が取れなくなるケースが相次いだ。彼は、日本社会に訴えるため、18年から街頭などで中国への抗議活動を始めた。故郷に住む家族に危害が及ぶのを恐れ、重要なとき以外は連絡を取らないようにと決めたという。以下の彼の記者への話が生々しい。
20年5月、唐突に自治区に住む兄から「話がしたい」と連絡が来た。翌日、兄とビデオ電話で話し始めて10分ほどが経過したとき、兄の横から見知らぬ男性が現れた。男性は中国の当局者を名乗り、在日ウイグル人に関する情報提供を要求。「協力してくれればお兄さんと家族の安全は守る」と続けた。
8人兄弟で早くに父親を亡くした自身にとって、兄は税務署で働きながら家族を養ってくれた恩人だ。要求への回答を避けて通話を終えたが、「兄の命が危ない」と頭の中はパニックを起こした。
1カ月後、再び兄から連絡があり電話で話した。前回と同じ男性に身分証を見せるよう求めたところ、中国の情報機関「国家安全省」とみられる「国安」と書かれた手帳のようなものを示した。最後まで要求には応じず、以降、家族と連絡が取れなくなった。
ローズさんから見れば、家族が人質とされた状況。在日の彼は、黙ることで家族の安全を図るべきなのだろうか。それとも、彼が国際世論に訴えることで中国の人権状況を改善する努力を継続すべきなのだろうか。非情な権力に翻弄される悲劇というしかない。
この記事で、深く頷けるところがある。米国などが表明した北京五輪への『外交的ボイコット』について、中国は「スポーツの政治利用だ」と強く反発しているが、ローズさんはこう反論している。
「中国は国民に自分の国が世界のトップだとアピールするために五輪を開催している。五輪を政治利用しているのは中国の方だ」「五輪は平和のイベント。中国が開催したら意味が変わってしまう。IOCは人権を大切にする国を開催都市に選んでほしい」
そのとおり「五輪を政治利用しているのは中国の方」であろう。その北京冬季五輪を何の批判もせず、何の異議もとどめず、粛々とその進行に協力することは、中国による「五輪の政治利用」に加担することではないか。せめて、『外交的ボイコット』を試みることで、「中国によるスポーツの政治利用」の成功度を幾分なりとも、弱めることができるだろう。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.1.20より許可を得て転載
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〔opinion11687:220121〕
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