Stop the War! ウクライナへのNBC(核生物化学)戦争を許すな!
- 2022年 4月 2日
- 時代をみる
- 加藤哲郎
2022.4.1 2月24日のプーチンによるウクライナ侵略開始から1月余、ロシア軍の道義なき爆撃と、普通の人々を巻き込む壮絶な軍事作戦で、本格的な戦争になりました。すでにウクライナの女性・こどもたちを含む民間人数千人が犠牲になっています。ロシア軍兵士は1万5000人が死んだと言いますが、確かな数はわかりません。犠牲者の数自体が、情報戦の中にあります。
すでに国外に逃れたウクライナ人は400万人以上、こどもたちが200万人と半数を占めます。停戦交渉は始まっていますが、クリミア半島と東部の帰属・領土問題もあり、時間がかかるでしょう。なにしろ国連安全保障理事会の常任理事国が、核兵器の使用さえ示唆しながら始めた戦争です。1989−91年の東欧革命・ソ連解体以来の激動、いや米中2大国と欧州全域が関わる第3次世界大戦の危機を孕んでいるという意味では、1945年以来の大きな世界再編のとば口にあります。
首都キーウ(キエフ)近郊と東部ドンパス周辺から広がる戦闘地域はまだまだ流動的であり、「ウクライナの朝鮮半島化」による東西分割や「ノヴォロシア」独立さえ語られていますが、この戦争の責任が、プーチンのロシアによる一方的武力侵攻にあることは明白です。国際世論の多くも「戦争反対」「ウクライナ支援・連帯」が圧倒的ですが、400万人の避難民を受入れる国々の利害は、一様ではありません。国連安全保障理事会の機能不全のもとで、国連総会でのロシア非難決議、ロシアの即時撤退決議は140ヵ国の支持をえましたが、反対はロシア、ベラルーシ、北朝鮮などと少なくても、棄権・無投票が50ヵ国近くになりました。グローバル経済下の経済制裁といっても、米英日・EUに継ぐBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は加わっておらず、その効果は長期的であっても決定的ではありません。21世紀「世界の多極化・多様化」の趨勢のもとでのロシアの帝国主義的バックラッシュですが、国際関係の上では、20世紀のさまざまな問題が凝集し、同時に21世紀的な新しい変数も含まれています。
私は20世紀から21世紀への境目で、ファシズム期イタリアのアントニオ・グラムシの「機動戦から陣地戦へ」にならって、「陣地戦から情報戦へ」を提唱し、書物にもしてきました(『20世紀を超えて』『情報戦の時代』『情報戦と現代史』など)。また、旧ソ連在住日本人粛清犠牲者の秘密資料による解読を、米国国立公文書館(NARA)や英国公文書館(TNA)の20世紀資料にまで拡げ、旧ソ連KGB・GRUから米国CIA・英国MI6・中国中共特科などの諜報機関をも扱ってきました。そのさい、「19世紀機動戦、20世紀陣地戦・21世紀情報戦」の理論モデルを、狭義には戦争と政治のあり方についてでありながら、広義には社会経済から文化・コミュニケーションを含む社会全体のあり方の変容をも包摂するものとして図式化しました。
それから20年ほどたって、世紀末に書いた私のやや楽観的な見通しは、大きく狂う部分が出てきました。一つは、環境生態系から気候変動に深化した地球的規模での自然と人間の関係です。「市民社会の成熟」「デモクラシーの拡大」の論理で考えると、どうしても人間中心主義になりがちですが、「人新世」ばかりか地震・津波・砂漠化・温暖化・ハリケーン、それに湾岸戦争からイラク、アフガニスタン、そしてウクライナにいたる戦災跡地の荒廃、チョルノービリ(チェルノヴイリ)からフクシマにいたる核放射能被害の永続性を考えると、天災と人災が融合する近代危険社会risk societyから現代災害社会disaster societyへの深化を、考えざるをえません。ウクライナでささやかれるNBC(核生物化学)兵器使用とは、都市化・近代化を巨大災害ジェノサイドへと帰結させるものです。原発は、ウクライナで、国家破滅のための人質にされています。
いま一つは、グローバル化の効果として、アントニオ・ネグリの言う「帝国」化と、地球と地域のはざまでの国民国家の相対化・たそがれを想定したのですが、これはウクライナ戦争より以前に行き詰まりました。コロナ・ウィルスの地球的蔓延=パンデミックで、国民国家単位での感染症対策・安全保障政策が著しく強化され、ネグリ的「帝国」ならぬ、ホブソン=レーニン的な古典的「帝国主義」が再現されることになりました。プーチンが目指す「大祖国」とは、ソ連邦ではなくロシア帝国であり、自らがめざすのは、レーニンよりスターリン、スターリンよりもピュートル大帝のようです。
ただし、そうした企図を貫徹させない要因が、情報戦に関わる21世紀的変数です。情報操作と世論を重視せざるをえないこと、一国通貨の国際取引における価値=信用・格付けを顧慮せざるをえないこと、NBC兵器の誘因にもなりかねない兵器の小型化(「ジャベリン」対戦車砲、地対空ミサイル「スティンガー」)や無人化(無人戦闘機ドローン「バイラクタル」TB2)によるウクライナ軍・市民の抵抗の効果がみられること、などです。なによりも、民衆レベルでのSNSと情報公開・情報分析(オシント、Open Source Intelligence)の飛躍的拡大・利用があります。これが、プーチンの予測に反して、ウクライナ民衆の粘り強い抵抗(レジスタンス)を可能にし、国際世論の支持調達に用いられました。逆に、情報を封鎖し、フェイクニュースで塗り固めた「1984年」風のロシア情報戦は、国内での高齢者・保守層にのみ通用する古典的情報統制に留まっています。
歴史的には、前回1930年代前半のスターリンの強行的工業化・農業集団化の原資とされたウクライナの穀物調達・人為的飢餓「ホロドモール」に触れましたが、第二次世界大戦中には、赤軍への志願兵と共に、独ソ戦のはざまでナチスの力を借りてロシアから独立しようとする武装親衛隊もあらわれました(ウクライナ人師団「ガリツィエン」)。1991年のソ連解体に伴う独立、1994年の核兵器放棄に変わる米英露ブタペスト覚書、そして中東欧「カラー革命」の一環としての2004年オレンジ革命、2014年「(ユーロ)マイダン革命」と、その反動としてのロシアのクリミア併合・ドンパス戦争から2023年戦争へと、この4半世紀は激動続きです。
背景にNATOの東方拡大とウクライナ国内の東西対立・言語政策、それにプーチンが「ネオナチ」とよぶ「マイダン革命」時に活躍した「アゾフ大隊」のウクライナ国家親衛隊への組み込み、ステパーン・バンデーラの民族主義運動評価など、紛争の火種は鬱積していました。しかしそれで、プーチンの軍事侵攻が正当化できるわけではありません。第二次世界戦争を終わらせた連合軍=国際連合(United Nations)の国連憲章に違反し、その特別の地位(安全保障理事会常任理事国・核兵器保有国)にふさわしくない国際政治の乱暴な攪乱です。NBC(核生物科学)兵器使用が、そんなプーチンの周辺から聞こえてくるのは、20世紀を超えた人類的危機の出現です。
情報戦においても、例えばロシア側の主張を含むオリバー・ストーン監督のUkraine on Fire を見ようとすると Google 検索ではなぜかマイダン革命を英雄的に描くWinter on Fire が上位に出てきます。Ukraine on Fire を見ようとすると、you tube ではすでに削除されているという具合で、一つ一つの情報を吟味しなければなりません。とはいえ、ウクライナに侵攻した戦車や支給品にZマークを描き、国内では戦争反対の声を封じ込めるためにプーチンに従わない家にZを落書きしているロシアの方が、かつてユダヤ人の店や住宅にダビデの星マークをつけてまわったナチスの手法と似ています。「ネオナチ」はヨーロッパ全域に広がる右翼ナショナリズムの運動ですが、必ずしも反ユダヤ主義とは限りません。人種・民族差別が移民・難民問題と結びついている場合が多く、ウクライナ市民の強制移住さえ辞さないプーチンの地政学にこそ、ふさわしいレッテルです。プーチンのZマークは、ナチスの鍵十字(卍、ハーケンクロイツ)と似た、敵味方を象徴化する機能を果たしています。こどもたちへの「愛国」Z教育は、旧ソ連のピオニールにも、ナチスのヒトラー・ユーゲントにも通じる、排外主義的ヘイト教育です。
ウクライナ戦争の影に隠れたかたちで、コロナ・ウィルスのパンデミックは進行しています。欧米や日本はワクチン反復接種のみの感染対策になりつつありますが、感染自体は3年目で、感染者数は毎日100万人を越えて5000万人近く、死者は600万人を越えました。かつては欧米に比して感染が少なく、文化的ファクターXまで語られた東アジアが、韓国・中国と急速な感染が広がりました。第6波のピークは過ぎたといわれる日本でも、低年齢層を中心に再度増加傾向がみられ、オミクロン株でも感染力の強い「BA・2型」による第7波到来が「専門家」の中でも語られています。
こちらの問題については、昨年夏以来毎月2回のペースで「パンデミックと731部隊の影」の対面講演を続けてきました。この間、世界に生物兵器・細菌戦の可能性を広めた日本の731部隊とその戦後への遺産を、感染政策を国家安全保障政策の一環にした相似性と優生思想の問題として語ってきました。20世紀に出現したNBC(核生物科学)兵器の脅威を語ってきましたが、2月24日からのウクライナでは、ついにその大量殺人兵器の現実的使用、ジェノサイドが切実な問題になっているのです。3月5日・19日の連続講座もすでにyou tube に入り終了しましたので、ご関心の向きは、下記をクリックしてご笑覧ください。
●東京オリンピック・パラリンピック強行との関係、
https://www.youtube.com/watch?v=01gt8vWDJ1A&t=7s
●映画「スパイの妻」から見たパンデミック、
https://www.youtube.com/watch?v=smgAbMjmfRM
●731部隊・100部隊から「ワクチン村」へ。
https://www.youtube.com/watch?v=cJhMbXRZ7G4&t=3236s
.●「2020年永寿総合病院クラスターから見えた731部隊の影は戦時インドネシアの人体実験につながるーー倉内喜久雄の戦争責任」
.https://www.youtube.com/watch?v=z3Z25-FnLT8
.●「新・1940年体制」ともいうべき国家安全保障、治安・経済政策に従属した日本の感染対策、
https://www.youtube.com/watch?v=3aqXTdIxQmE
●「生き残った感染症村、ワクチン村・優生思想ー厚生省・厚生技官・医療政治と差別の問題」二木秀雄と長友浪男を事例にして、
https://www.youtube.com/watch?v=OKzwQxbwaeY
●「感染症の世界史への日本の遺産ーー京大・戸田正三と東大・安東洪次の戦後責任」
https://www.youtube.com/watch?v=-tfhAW2mi6I
『戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。ゾルゲ事件関係で、『毎日新聞』2月13日学芸欄のインタビューに答えています。日独関係史がらみで、『岩手日報』2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年収監されていた、唯一の日本人で、片山千代のウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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