正義の戦争はない
- 2022年 5月 2日
- 評論・紹介・意見
- 小原 紘
韓国通信NO695
ウクライナに心を痛めない日はない。
世界中がロシアの蛮行に怒っている。日本中に平和を求める声が溢れかえる。
戦争が始まってから2か月、映画館の暗さに目が慣れてきたように周囲が見え始めてきた。今さら戦争について疑問を呈しても無駄な気もするが、何故、戦争が始まったのか、わかってないような気がする。戦争をやめさせる目的の経済制裁、経済支援、軍事物資の提供が却って戦争を激化、長期化させる原因にも思えてきた。
正義感に酔いしれるなか、軍備増強、核の保有、先制攻撃が公然と語られるようになった。戦争をなくせ「NO WAR」とは逆行する全く異質な動きだ。メディアはウクライナ情勢に便乗する危険な動きに警鐘を鳴らすどころか迎合的でさえある。
ウクライナから学ぶ―「抑止力」の破綻
他人ごとではない。戦争の不安を感じる人が増えている。プーチンの戦争から北朝鮮と中国を連想し恐怖する。徹底抗戦を主張するゼレンスキー大統領を英雄視する見方もある。正義の戦争と云われても死者と逃げまどう人たちには何の意味もない。戦争はいつも正義の名(聖戦)のもとで行われ、犠牲になるのは決まって一般市民だ。
それにしてもゼレンスキー大統領が戦争を回避するためにどのような努力をしたのか知りたいと思う。NATO加盟を急ぐあまりロシアという虎の尾を踏んだとしたらその判断は甘かったといえないか。
わが国も判断を間違えると一触即発、全土が焦土化する戦争の危険と裏腹の状態にある。ロシアの軍事費は世界第4位、ウクライナは34位、ロシアの1割に満たないが、注目すべきはGNP(国民総生産)に占めるウクライナの軍事費の割合が3%(世界11位)と、過剰とも言いえる軍事費で「抑止力」に備えている現実が浮かんでくることだ(ストックホルム国際平和研究所2020資料)。
軍備増強による抑止力効果は破綻している。軍拡よりも敵を作らない努力が最善の防衛だ。
平壌宣言20年
ミサイル発射実験を繰り返す核保有国北朝鮮を警戒する人が多い。金日成、金正日、金正恩と三代にわたって権力を承継してきた独裁国家に好意を抱く日本人はいない。もっとも世襲議員が多い日本と北朝鮮は実質あまり違わないのだが、それはともかく交流のない北朝鮮に恐怖と不信感を抱くのはやむを得ないことかも知れない。
2000年8月、ピースボートに乗って北朝鮮を訪れたことがある。「食わず嫌いはいけない」という軽い気持ちからだった。信じられないことだが、かつて韓国の人たちが「角(つの)がある」と思っていた北朝鮮の普通の人たちとの出会いは貴重だった。
その後、2002年に平壌宣言が発表された。これは、北朝鮮の平壌で発表された、日本の小泉純一郎首相と北朝鮮の金正日国防委員長による共同宣言で、その内容は1978年に結ばれた日中平和友好条約を参考にしたものと思われる。
同平和条約は、両国の主権と領土の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則を確認、恒久的な平和友好関係、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを約束していた。
平壌宣言は、さらに一歩進めて具体的に植民地支配、清算、経済協力にまで敷衍している。具体的には―
不幸な過去の清算、懸案事項の解決、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが地域の平和と安定に大きく寄与するとの共通の認識を確認のうえ、①国交正常化の早期実現 ②植民地支配に対する謝罪と経済協力の約束 ③日本人拉致問題に対する反省と今後の対策④北東アジア地域の平和と安定を維持、強化のために核とミサイル問題についての協議等が謳われている。
ところが、平壌宣言は日朝関係の幕開けと大いに期待されたものの、その直後に拉致問題が生じ、今日まで国交回復はおろか、両国関係は悪化の一途をたどった。小泉首相に随行した安倍官房副長官(当時)は北朝鮮敵視を売り物にして首相まで上りつめた。
日中関係はやや冷え込んでいるとはいえ今年国交正常化50周年を迎える。それに比べると北朝鮮との関係は不幸な歴史をたどったと言える。
世界で北朝鮮と国交のある国は164か国、国交のない国は日本を含めて36か国だけ。日本としても、20年の歳月を巻き戻して北朝鮮との関係を考える時期ではないか。安心できる隣国が今ほど求められる時はない。
北朝鮮が同意するかは不明だが、北朝鮮との国交回復は一日でも早く急ぐべきだ。「敵」を「友」にするのは安全保障に欠かせないという「打算」でもいいではないか。拉致問題を理由に国交正常化ができないというのは口実に過ぎなかった。「宣言」から20年たった。これまでわが国が平和への努力を怠ってきたのは明らかだ。
再びウクライナから学ぶ
台湾の帰属問題、尖閣諸島の領有問題で日中を対立させようとする動きが活発化している。平和友好条約にもとづいて話し合えばいいこと。平壌宣言の精神も軍事対決とは全く無縁である。
敵国を作らないことの大切さをウクライナ問題から学んだ。なのに、ウクライナ戦争の恐怖感からいつの間にか北朝鮮と中国に対する敵視に結びつき、気がつくと戦争前夜を思わせる世論さえ生まれている。
わが国が決意すれば、平壌宣言と日中友好平和条約を手がかかりに、アジアを世界でもっとも平和で安定した地域にすることは可能だ。「自由と民主主義」「正義」を掲げてアメリカが主導した戦争と紛争は数限りない。ウクライナ戦争では当初慎重さを見せたアメリカは資金と軍需物資の提供によって紛れもない当事者として介入し始めている。わが国はアメリカに追随せず、平和愛好国家として世界に存在感を示すべきだ。
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