ここに争点がある
- 2022年 5月 22日
- 評論・紹介・意見
- 鎌倉平和学習会
今年は7月10日に参院選の投開票があるが、選挙の前に下調べしたり、候補者をよく観察しておくことが大切だと考えている。やがて各党の「公約」が発表され、おもにメディア側から「争点」が決められていく。不安定になり二極化していく日本経済、切り捨てが危ぶまれる社会福祉、ウクライナ戦争や台湾有事で注目される防衛などが焦点になるのだろう。
だが、それでいいのだろうか。争点とは本来、有権者の側から提起すべきものではないのか。メディアの手中で転がされバラバラに見える争点を、地下茎でつなぐのは日本国憲法である。有権者は、お仕着せの公約や争点の着姿を見るだけでなく、地下で支えつつも揺らいでいる憲法にこそ目を当てなくてはならないと思う。
困難に見舞われたとき、最後の支えになるのが憲法だ。その憲法に危機が迫っている。この参院選の結果、改憲勢力が3分の2以上の議席を得れば、政権は3年間の「改憲実行期間」を持てる。この参院選は、平和を77年間支えた現行憲法のもとで投票する「最後の選挙」となるかもしれないのだ。
私たち「鎌倉平和学習会」は鎌倉市で日本国憲法を学ぶ無党派の市民団体だが、今回の参院選に際して市民側から具体的な争点を提起しようと考えた。神奈川選挙区の有権者を対象に「ここに争点がある!」というチラシを作成し、有権者に役立つよう選挙前に配布する。チラシを貫くテーマは、もちろん「日本国憲法」である。
以下に、私たち市民の側からの「争点」を提起したい。「私たちの考え」と簡単な解説「やや詳しく」を付した。チラシにはこの内容の一部が収載されるが、QRコードを通じて当サイトにアクセスできるようにする。
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《ここに「争点」がある》
●「憲法で家族の助け合いを義務化する?」
【私たちの考え】戦前の家族制度が復活か。国が乗り出すのは行き過ぎです。
【やや詳しく】結婚しないなど、個人には家族を持たない自由が保障されている。家族の在り方に国が口を出すべきではない。ところが近年、家族単位の管理に変えようとする改憲勢力の動きがある。自民党の改憲草案では、家族について「基礎的な単位として、互いに助け合わなければならない」と定めている。こうした「義務化」には家父長的な家族制度を望む戦前回帰の気配も感じる。国の責任を減らし、介護などの社会福祉を家族に押し付ける狙いも透けている。
●「原発の再稼働・新設をする?」
【私たちの考え】放射性廃棄物を処理しきれません。安全保障上も危険施設です。
【やや詳しく】どちらにも反対する。日本の原発は地震大国という他国とは違う環境下にあり、想定外の大事故を起こす可能性がある。使用済燃料の処分費用、立地対策費、事故対策費などを考えれば、すでに経済的にも破綻している。二酸化炭素対策でも再エネに及ばない。溜まった放射性廃棄物は、処分方針が決着しないまま長期間地上管理されている。「原発のない脱炭素社会の追求」を共通政策に据えているのが立民、共産、社民、れいわの4党だ。選挙公約に注目したい。
●「敵基地攻撃能力の保有を認める?」
【私たちの考え】専守防衛の範囲を越えます。かえって攻撃を呼び込むのでは?
【やや詳しく】認めない。北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の軍拡、ロシアのウクライナ侵略を機に、敵基地攻撃能力の保有、防衛費の増額、米軍との核共有を巡る議論が活発だ。日本はすでに安全保障関連法を持ち、集団的自衛権も行使できる。戦争へのハードルは低くなっている。戦争が起きない世界をどう作るか。今ほど不戦の努力が必要なときはない。一方、戦争準備ともとれる「自衛」論に積極的なのが自民や維新などだ。「防衛」「反撃」などの用語に騙されぬように。
●「個人の自由より公益を優先する?」
【私たちの考え】だれでも自由に発言し、行動できます。憲法が認めています。
【やや詳しく】だれでも個人として尊重される。憲法には「最大の尊重を必要とする」とあり、個人が自由に発言し、行動することが認められている。憲法を貫くのは、個人と自由を支える思想なのだ。公のために役立とうとするのは自由だが、公益や公秩序を優先するように憲法を変えるなら、それは個人の自由に対する侵害となる。侮辱罪の厳罰化がこのほど国会で可決されたが、チラシ、プラカード、ヤジなど正当な批判は表現の自由ではないか。萎縮を恐れる。
●「憲法に緊急事態条項を新設する?」
【私たちの考え】災害対応を隠れみのに、首相の独裁を許すことになりかねません。
【やや詳しく】東日本大震災で行政の対応が不十分だったのは、緊急事態条項がなかったからではない。訓練不足が原因だ。災害への対策法はほぼ整っている。なのに、憲法にこの条項が加わわれば、権力者の独裁を許すことになりかねない。総理大臣が緊急事態を宣言すれば、人権を制限して国民を命令に従わせ、報道統制もできるようになる。自民党の改憲案には実施期限の制限さえない。ヒトラーが独裁体制を作ったのは、非常事態権限を手に入れてからだ。
●「台湾有事に備え防衛力を強化する?」
【私たちの考え】沖縄周辺の離島に次々に自衛隊基地が建設され、攻撃対象となります。
【やや詳しく】中国は台湾侵攻の演習を繰り返している。日米安保条約上、在日米軍基地の使用目的にある「極東」には台湾が含まれる。自衛隊と米軍は台湾有事を想定した共同作戦計画の原案を策定したという。南西諸島にはミサイル基地が建設され、自民党には防衛費倍増にとどまらず「防衛国債」の計画まである。自衛隊が防衛力を強化するほど、沖縄が攻撃対象となる懸念は強まる。立場を変え周辺国側から見る日本は、軍事的な脅威に映ることだろう。
●「内外の情勢変化に応じて憲法を変える?」
【私たちの考え】権力者の思惑で改憲できるようだと、人権が尊重されなくなるだろう。
【やや詳しく】変えてはならない。国民の守るべきが法律で、国が守るルールこそ憲法。最高法規の憲法が恣意的に変えられるようだと、立憲主義が損なわれ国家は不安定になる。人権尊重や国民主権の保障も不十分になりかねない。だから改憲には法律で厳しい条件を課している。憲法の平和主義は戦後一貫して支持されてきた。9条の「戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認」は世界の宝だ。自民党政権は戦争のできる軍隊を持つための改憲を目指すが、私たちは反対する。
(以上)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion12051:220522〕
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