自民党政権「国葬」方針と斉加尚代監督映画『教育と愛国』で考え思ったこと
- 2022年 8月 22日
- 評論・紹介・意見
- 松井和子
「世界平和統一家庭連合旧統一教会」(旧統一教会)信者家族から銃で撃たれ死亡した安倍晋三元首相、その父安倍晋太郎元外務大臣、A 級戦犯だった祖父岸信介元首相、その三代ともが、アメリカの政策に協力し、旧統一教会やその系列の政治団体「勝共連合」と関係を持ってきた。そして米国と秘密軍事情報を共有するために故安倍晋三元首相は、前の祖父・父が実現させられなかった「特定秘密保護法」を強行採決で成立させた。第二次安倍政権が発足した翌年 2013 年 7 月のことだ。2022 年 8 月 17 日付東京新聞「特報」欄が詳しく報じている。
安倍晋三元首相の死で旧統一教会との関りが公になり、自民党と旧統一教会とのつながりも鮮明になった。にもかかわらず、国会での議論も尽くさないまま岸田政権は「国葬」の方針を打ち出した。メディアの反応は鈍い。やっと最近になってチラホラと意見を載せる程度だ。
8 月 19 日私が住む地域の駅前で国葬の是非を問う「シール投票」が行われ、実施結果を知らせるメールが知人から届いた。「賛成」より「反対」が多少多かったが、「よくわからない」が想像以上に多くあり、「自分から積極的に判断をしたくない」という通行人の雰囲気が気になったという実施者の感想も知った。
そう言えばと、二か月前のことを思い出した。オリバー・ストーンのドキュメンタリー「ウクライナ オン ファイヤー」上映会をした時、鑑賞後「ロシア擁護か」と言われた。上映会後ウクライナで起きた戦争について話し合いをしたのだ。「何が起きているのかを知って、自分で考えたい」と発言した若い女性の言葉は、私たち上映実行委員会の思いだった。終わった後に、社会活動に取り組み敬意を感じていた方が「自分は、自分から判断をしたくない」と話したと聞いて驚いた。
「自分で判断したくない」、それは何を表すのだろうか。今も忘れられず自問し続け
ている。7 月の「選挙結果」もその反映なのだろうか。お盆休みに息子に誘われ、斉加尚代監督映画「教育と愛国」註)を観た。
斉加尚代監督は、1987 年毎日放送に入社、報道記者を経て 2015 年からドキュメンタリー担当ディレクターである。映画となった、勤務先の大阪毎日放送報道部で取材し見てきたことの「記録」が、実に鋭く私たちに事実を伝え、衝撃を与える。
そこには、安倍氏三代にわたる、いや、アジア侵略戦争からの執拗な支配の思想が見てとれた。人間としての心や営みはない。支配のための経済とその手段である。人びとの食べていける生活がほしい、少しでも他の人より楽をしたいという気持ちや欲望をゆすり、利用し、「教育」という場を最大限に使う常套手段を選んだ。「旧統一教会」「勝共連合」は実行のための同じ仲間だ。目的のために、隣国の朝鮮・中国・ロシアは悪者であり、不都合な歴史はなかったことにしなくてはならない。新自由主義を推し進め、覇権を狙う大きな力(アメリカ)が後押しする。
いま、その中に身を置いているのが私たちだと認識させた映画だった。
『世界』8 月号掲載・斎藤貴男ルポ「経済安保の人脈と文脈」で、伊藤忠のトップを務め民間出身者として初めて中国大使となった丹羽宇一郎氏は、斎藤貴男の取材に応え、次のように述べている。
「これからの将来にかけて、日本人が平和に生きていく道があるとすれば、ただ一つ。日本人が自立心を持ち、保ち続けることです。それ以外に道はあり得ない。ここ数年のアメリカからは、いずれ中国に経済力も軍事力も追い抜かれてしまうという、恐怖心ばかりが伝わってきます。・・・その恐怖心を共有する必要がどこにありますか。」
「少なくとも、アメリカ人より日本人の方が、中国人のことを理解できるはずなんです。・・・アメリカのフィルターを通さずに、日本的な目で、虚心に中国を直視してみたらいい。」
「最近はロシアのフェイクニュースばかりが槍玉にあげられていますが、アメリカも酷いものです。・・・脱炭素の目標だってそうですよ。根拠のない見通しを言うにも程がある。日本人はいつまでも言葉の遊びなんかに付き合っていないで、現実を見るべきだ。中国を語りたいなら、まず中国へ行く。情報はデータや第三国の公的発言を参考にした方がいい。まず日中韓でよく話し合い、最後はアメリカを交えて、もっと深く話し合う。近づきかけている戦争に近づかない方法は、それしかありません」。
戦争のかけらを少しだけ記憶する私も、同世代の友人も、このまま再び戦争の道へ進むのを許したくない、歳を取ったからと諦めたくないと思っている。私たちの息子たち、孫たちはこれからを生きるのだ。 (2022 年 8 月 19 日記)
註:映画「教育と愛国」 監督 斉加尚代 語り:三浦 新 製作:映画「教育と愛国」
製作委員会 2022 年 107 分 公式サイト:mbs.jp/kyoiku–aikoku
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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