統一教会は組織防衛のためのスラップに踏み切った
- 2022年 10月 1日
- 評論・紹介・意見
- DHCスラップ訴訟ふじ澤藤統一郎
(2022年9月30日)
昨日、統一教会(現在は「世界平和統一家庭連合」と称している)が、3件の名誉毀損訴訟を提起した。この件を、朝日はこう見出しを付けて報じている。「旧統一教会がテレビ局と出演の3弁護士を提訴 『名誉毀損』と主張」。
「テレビ番組での弁護士らの発言で名誉を傷つけられたとして、『世界平和統一家庭連合(旧統一教会)』が29日、読売テレビ『情報ライブ ミヤネ屋』に出演した紀藤正樹弁護士と本村健太郎弁護士、TBS『ひるおび』に出演した八代英輝弁護士と、各テレビ局に、計6600万円の損害賠償や謝罪放送などを求めて東京地裁に提訴した」
本日、この3通の訴状に目を通す機会を得た。読後感は、「これは統一教会の組織防衛のためのスラップだ」というもの。自らを批判する言論を牽制し萎縮せしめる目的で提訴される民事訴訟をスラップという。状況から見て、この3事件いずれも、統一教会批判の言論封じを目的とした、典型的なスラップ訴訟と言うほかはない。統一教会は、民事提訴を威嚇手段として言論の自由を蹂躙しているのだ。
以下に訴状3通の内容を紹介しておきたい。
※ 統一教会の名誉毀損提訴事件は以下の3件。
A事件 被告 紀藤正樹・讀賣テレビ
B事件 被告 本村健太郎・讀賣テレビ
C事件 被告 八代英輝・TBSテレビ
※ いずれの訴状も2022年9月29日付。同日提訴の直後にメディアに配布したものと思われる。係属部不明。併合の上申あるか否かも不明。書面審査も経ていない。もちろん、被告には未送達の段階。
※ 金銭給付請求額は、3事件とも慰謝料2000万円と弁護士費用200万円。
ほかに、いずれの事件でも、謝罪放送(1回)請求と、各被告弁護士のホームページへの謝罪広告掲載請求がある。
※ 謝罪放送(1回)請求と、ホームページへの謝罪広告掲載請求の訴額の合計が、18万円(A・B事件)、78万円(C事件)となっている。
各ホームページへの謝罪広告掲載請求の訴額はゼロではあり得ない。訴額の最低単位10万円(貼用印紙額1000円)とすべきだろう。謝罪放送(1回)請求の訴額は、広告放送費用相当額となる。これを合計して、18万円・78万円は、常識的に過小ではないか。この点の調整と疎明の補充で、送達まで一定の日時を要すると思われる。
※いずれの訴訟とも、この上なく、単純な名誉毀損訴訟である。名誉毀損言論と特定された被告の言論は、「意見ないし論評」ではなく、典型的な「事実摘示」型請求原因である。もつとも、C事件だけは「論評型」かも知れないが、これも論評の前提とした事実についての真実性の立証が争点となる。
※ 訴状・請求原因は、名誉毀損言論の特定だけをしている。訴訟の構造としては、被告の抗弁→原告の認否→被告の立証、と進行することになる。
※ 被告の抗弁は、公共性・公益性・真実性(ないしは真実と信じたことについての相当性)という違法性阻却事由(相当性だけは、故意・過失の欠如)であるが、公共性(公共の利害に関する事項についての言論であること)・公益性(その目的がもっぱら公益をはかる言論であること)に問題はなく、残るは「真実性」(あるいは「相当性」)だけが争われることになる。
※ 当然に予想される抗弁に対して、先行しての積極否認についての事情が、請求原因に書き込まれていれば、迫力ある訴状になったのだが、それがないから、何ともつまらない、論点指摘だけの訴状となった。
※ なお、A事件・請求原因第2項の末尾に「上記発言の指摘事実は、事実ではない」、B事件・請求原因第2項の末尾に「上記発言は事実に反する」、C事件・請求原因第2項の末尾に「上記発言は事実に反する」とある。
これは真実性の抗弁に対する先行否認だが、起案者は、「(摘示の)事実」と「(その摘示事実の)真実(性)」についての区別がついていない。だから「(上記発言の指摘)事実は、事実ではない」と、トートロジー的なおかしな表現となっている。本来は、「上記発言の指摘事実は、真実ではない」と記載しなければならないところ。B事件、C事件とも同様である。
※A事件 (被告 紀藤正樹・讀賣テレビ)
・名誉毀損表現がやや長文だが、「信者に対して売春させたっていう事件まである」「お金を集めるためにはなんでもするっていう発想」の部分だけが、名誉毀損の事実摘示である。
・この名誉毀損の事実摘示は、原告(家庭連合)についてのものではない。むしろ、原告ではない分派の少数派が「お金がないものだから(信者に対して売春させた)」と明確に語られている。
この点で、裁判所が「原告の名誉を毀損する事実摘示ではない」として、棄却することが高い確率で考えられる。この場合は、その余の論点に判断は不要。なんとも愛想のない判決となる。
・問題は、判例の用語法での『一般の読者(この場合は視聴者)の普通の注意と読み方』である。原告は、「一般の視聴者の普通の注意と聞き方」を基準とすれば、「原告(家庭連合)が売春までさせたものと印象をもつだろう」と言う。当然に、被告はあり得ないという。ここは一つの論点である。
・前項の論点を被告がクリヤーできない場合にはじめて、被告の抗弁の立証の問題が出てくる。摘示された事実が、主要な範囲で真実であることが立証されれば被告の言論は違法性のないものとされる。真実性の立証に至らずとも、発言者に当該摘示事実を真実と信じたことに相当な理由が認められれば、故意も過失も欠く結果、原告の不法行為請求は棄却されることになる。
※B事件 被告 本村健太郎・讀賣テレビ
・名誉毀損表現は以下のとおり。
「統一教会というのは、…布教活動自体が違法であるということがはっきりと裁判所で認定されています」「札幌地裁の判決が統一教会の布教活動の違法性を正面から認定した」「司法の判断として統一教会の活動というのは、布教活動自体が違法であると既に認定済みです」「統一教会というのは、一応まだ宗教法人ではあるものの既に裁判所判断として認定が出ている違法な組織である」
・これに対する、真実性の抗弁の立証は判決文の提出だけ。
※C事件 被告 八代英輝・TBSテレビ
・名誉毀損の表現は「この教団がやっている外形的な犯罪行為等…に着目している」だけ。
・原告は、この表現を「事実の摘示」とする。しかし、被告は、具体的な事実摘示をしたのではなく、原告のこれまでの行為を「外形的な犯罪行為等」と論評したと争うことになろう。論評であれば、論評が前提とした事実について、被告が真実性(あるいは相当性)の立証を求められることになる。
・いくつもの原告信者の刑事事件がある。原告は、これは全て信者が独自に罪を犯したもので、組織性はないというのだろうが、問題はそこにない。諸刑事事件事例から、「この教団がやっている外形的な犯罪行為等」との評価が常識的な論理から逸脱していなければ、当該言論を違法とすることはできない。原告の言い分は客観的に無理筋の主張となるだろう。
スラップは、民事提訴という手段で言論の自由を蹂躙する不当あるいは違法なものである。被告らにエールを送りたい。なお、スラップに関しては、拙著を参照していただきたい。
https://nippyo.co.jp/shop/book/8842.html
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.9.30より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=20057
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12420:221001〕
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