ミャンマー、映像作家久保田徹氏釈放後、日本帰国 ――やさしく、しなやかで勇気ある精神に乾杯!
- 2022年 11月 20日
- 評論・紹介・意見
- 久保田徹野上俊明
7月にヤンゴンで抗議デモを撮影中に逮捕され、10年の刑期で悪名高きインセイン刑務所で服役していた日本人ジャーナリストの久保田徹氏(26)が11/17釈放され、その日のうちに帰国の途についた。
ラジオ・フリー・アジアによれば、ミャンマー政府は18日、1920年に英国の植民地支配に対する暴動が始まったことを記念する国民の祝日に、政治犯712人を含む全受刑者5774人を解放すると発表した。しかし、タイに拠点を置く「政治犯支援協会(AAPP)」によると、木曜日夜の時点で釈放された政治犯は53人に過ぎないとのことである。ファシストはどこまでも嘘をつく。これはミャンマー軍事政権を相手にするとき、肝に銘じておかなければならないことだ。
dpa
アナリストによると、この突然の恩赦は、軍事政権が国際社会、特にアセアン諸国をなだめ、来年8月に予定している議会選挙の選挙計画への支持を得ようとする政治的意図によるとする。2021年4月に合意された5項目合意を履行しないばかりか、この8月には著名な政治家・活動家ら4名を絞首刑に処した軍事政権への風当たりは強く、このままではアセアンと国際社会から完全に締め出されることを怖れて、アセアン首脳会議やAPECなど国際会議が集中する時期をねらって、釈放したものと思われる。
経済学者ショーン・ターネル 元英国大使ビッキー・ボウマン
釈放されたのは、久保田氏のほかオーストラリアの経済学者ショーン・ターネル氏、元駐緬英国大使ビッキー・ボウマン氏とミャンマー人の夫で芸術家のテインリン氏である。ボウマン氏は、9月上旬に移民法違反の疑いで1年の禁固刑を言い渡されていた。ミャンマー人の夫で芸術家のテインリン氏は、幇助の罪に問われ、同じく1年の禁固刑を言い渡された。ターネル氏は、アウンサンスーチー氏の経済顧問で、2月の軍事クーデター直後に逮捕され、公文書に関する法律違反の疑いで拘留、9月末には、懲役3年の判決が下されていた。オーストラリア政府は、繰り返し彼の釈放を求めていた。
映像作家の久保田氏は、ドイツの公共放送によれば、今年7月30日、ヤンゴンでの抗議デモを撮影中に逮捕された。その映像は、「ビルマ人の孤独」をテーマにした新作ドキュメンタリー映画のためのものだった。久保田は、仏教徒の多いミャンマーで、数十年にわたり迫害を受けているイスラム系少数民族ロヒンギャに関する映画をいくつか制作し、Vice Japan、BBC、Al-Jazeeraなどのメディアで活躍していたという。この10月、軍が支配する裁判所は、デモに参加し、撮影中に参加者に話しかけたことに対する扇動および電子通信法違反の罪で、彼に懲役7年の判決を言い渡した。その後さらに隣国タイから観光ビザで入国した入管法違反で、二審でさらに懲役3年を追加されていた。
羽田空港、久保田氏の右一人おいて黒いマスクの人=在日ロヒンギャ人難民グループのリーダーゾーミントゥ氏 AFP
同じくドイツ公共放送によれば、帰国時羽田空港でインタビューに応じて次のように述べたという。
――非人道的な刑務所環境と受刑者への拷問や虐待で悪名高き、ヤンゴン郊外のインセイン刑務所―植民地時代から多くの闘士たちが囚われ、亡くなった歴史のある―に服役することになって、「独房生活で、10年の刑期が重くのしかかった」と久保田氏は言う。「でも、ミャンマーの人たちはそこに住み続けなければなりません。彼らは、たとえ目に見えにくいとしても、不自由に苦しんでいるのです。私は逮捕されたとき絶望しましたが、現地の人々は何世代にもわたって絶望してきたのです」
私は、このような談話を伝えた久保田という青年の精神に感動を禁じえません。自分に正直で、ミャンマーの人々の苦しみを自分の苦しみとできる柔らかく、かつしなやかな精神性に大いに学びたいと思います。ミャンマー国民は、いわば国ごと監獄に囚われているかのごとき状態におかれている。そのトップにいたアウンサンスーチー氏もまた、国民の苦しみと抵抗の精神を体現する象徴として、数十年の禁固刑を科されて独房に閉じ込められ、これからも新たな罪状で裁判を受けなければならないのです。ミャンマーの危機を解決するのには、アジアの国々と国際社会が一丸となって取り組む必要があります。まずは軍事政権をして5項目合意に着手させるには何が必要なのか、思いっきり知恵を絞り、それぞれの人々が可能なかたちで協力して行くことが、いまこそ求められているのです。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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