2022年の終わりに
- 2022年 12月 18日
- 評論・紹介・意見
- 松井和子
4歳で迎えた戦後の道のりを祖父や親たち、先生たちの姿を垣間見、記憶しながら生きてきた。すんなり今の日本があったわけではない。師走の16日、日本政府は「安保3文書」を閣議決定した。昔を思い、今を考えさせられている。
縄跳びで遊ぶ子どもの私に「進駐軍が来たら逃げろ」と大人から声がかかる。新聞に載る被ばくの様子に「雨が降ったら濡れるでない」と親が教えた。朝鮮戦争での大人たちの様子や話し声。自分たちで話し合って決め活動した生徒会や放送委員会、生徒工場など。高校時代は、目の前を行くジグザグデモに先生の姿があり、ホームルームで級友と話し合った「平和」。三池闘争、安保闘争、「沖縄を返せ、ヤンキーゴーホーム」と、住む町も国会前も人で埋め尽くされ、議論し合った激動の時代が来た。そこで得た友人たちと話し合い考え、つくり上げていく生活は続き、良き時代を生きていると思った時もあった。しかし「子どもたちの明日を、暮らしを自然を考えよう」と会を作って集まったのは、この先の不安を感じてのことだったのか。環境の世紀と期待された21世紀は、幕開けとともに日本も世界も問題多き日々となった。
2022年12月16日に政府がまるで戦争の道へと進むかのように国会で議論することもなく、閣議決定で出してきた政策は、戦争の反省も、憲法もないがしろにした。アメリカに言われ、岸田首相は既に約束していたという。日本は、「民主主義」国家ではないのか。主権は国民にあり、国会が最高機関である。
どの国にもどの民族にもそれぞれに歴史があり、言葉や文化がある。
石川啄木が詠んだ「地図の上朝鮮国にくろぐろと 墨を塗りつつ秋風を聴く」など、二度とあってはならない。言葉や文化、歴史を無視し、相手をねじ伏せ従わせようとすることから戦争が始まる。
この春、ウクライナで起きた戦争はどうだったのか。なぜ起きたのか。
2014年ウクライナでクーデターが起きた。アメリカの関与があったのは周知の事実である。ロシア語が公用語から外され、それを不服とするウクライナ東部の人たちから抗議が起こったが、ウクライナ政府は認めず、内戦となった。ウクライナ政府はロシア語を話す東部ウクライナ人から言葉を奪い、教育や福祉の権利をはく奪した。
内戦は8年間続いていた。欧州安全保障協力機構はじめアムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウオッチ、国連ウクライナ人権監視団などが、内戦の爆撃回数や逮捕・拷問などの聞き取り調査の報告書を出している。
しかし、知らないはずがないその事態を国際社会は無視してきた。日本で報道があった覚えはない。
2015年、事態を収めるためにドイツ、フランス、ロシア、ウクライナで戦闘休止のためのミンスク合意を交わした。しかしウクライナ政府はミンスク合意を無視した。ゼレンスキーになっても無視は続いた。東部地方は独立を宣言、支援を要請されたロシアが今年になってその独立を承認、侵攻となった。戦争が始まってしまった。
それ以後、アメリカはじめ西側諸国はウクライナに武器を送り続け、ロシアもやめることなく戦争が拡大している。西側諸国がロシアに対して行った経済制裁は、世界中に影響し、インフレ、エネルギー不足など人々の生活を窮地に追い込んでいる。幾たびかの戦争の教訓は生かされていない。国連も機能していない。停戦し、いのちの犠牲を食い止めるべきだ。
国会を無視し、憲法を無視し、安保政策の転換を打ち出した日本政府。
日本は世界有数の軍事大国になっている。恐らくアジア周辺国は警戒を更に強めているだろう。
日本の歴史をあらためて振り返り、よく考えれば、憲法は生かされて来なかった。
一番残念なのは、日本に暮らす他民族を差別し、日本で恩恵を受けるのは自国民という考え方が戦争中と変わらず続いている。そして先の戦争で戦争を引き起こした世界の国々では戦後君主制を廃止したのに、日本では天皇の責任は問われず、君主制を存続、国歌・国旗を改めることもなかった。
私は仲間たちと21世紀になった頃から地域にある朝鮮学校の子どもたち、先生、親たちと交流を重ね、それまでよく知らなかった現実に遭遇した。在日の方たちの戦後を見れば、日本の現実が見てとれると気づいた。
「教育無償化」や「教育の権利や義務」も、朝鮮学校だけが除外され続けている。でもそのことに対して日本人の意識は低い。学校や社会教育で教えられないこともあるが、知ってもあまり疑問を感じないのが日本人の実態だ。
それだけでない。自分たちの生活にも憲法は生かされていない。
東電福島第一原発事故は甚大な被害をもたらし、その地域の生活を奪った。元に戻したくても戻らない、その苦悩や辛さが続いている。被災を受けたこれからを生きる若者たちの苦悩に考えさせられることばかりだ。何故、1ミリシーベルトと定められている許容線量が、福島県のみ20ミリシーベルトに据え置かれ、アンダーコントロール、安全だと帰還政策が進められるのか。目や口を閉ざす政策が強引に進められている。
また沖縄・南西諸島は、いま仮想の敵に向け、実戦さながらの日米軍事演習が行われているようだ。「武力による紛争解決をしない」と謳う憲法を持ったこの国の軍事費は、国民の意見も聞かずにうなぎのぼり、沖縄で起きていることも知らされないまま、戦争の準備が始まっている。
新しい年はどこへ向かうだろうか。
子どもたちに夢を与えたい。考え話しあえる人間であってほしいと願う。歴史に学び、自主的な外交、近隣諸国はじめどの国とも共存できる社会を築いてほしい。
(20221217記)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12651:221218〕
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