原発依存」社会から脱却を─自然エネルギー転換への願い高まる─
- 2011年 8月 2日
- 時代をみる
福島第一原発事故(3・11)から間もなく5カ月となるが、破壊された原子炉からの放射線漏れは収束せず、津波被災現場のガレキ撤去も遅々として進まない。東北大地震復興に全力を挙げることは喫緊の課題だが、「原発神話」が崩壊した現実を直視して、エネルギー政策のドラスティックな転換こそ日本再生のカギを握るとの認識が急速に高まってきた。また新たな原発事故が発生、国民の不安は増幅する一方だ。
関電・大飯原発でも「炉心冷却」の不具合
関西電力大飯原発1号機(福井県おおい町)で7月15日夜、緊急炉心冷却装置(ECCS)系統にトラブルが発生。同1号機は福島原発事故前日の3月10日に起動して調整運転中で、稼動寸前だけに、関西電力をはじめ原発関係者のショックは大きい。福井県だけに原発11基も配置してきた関電は、8月以降7基が稼動不能の大ピンチに追い込まれてしまった。菅直人首相は7月6日、玄海原発(佐賀県)再動稼動要請を覆して、「ストレステスト(耐性評価)」を全国の原発に義務づける方針に転換。従って、今回事故を起こした大飯原発は、検査停止中の他の原子炉と同じ「1次評価」の対象となり、「2次評価」を含め、再稼動の関門が厳しくなったため、原子炉を長期間停止せざるを得なくなった。
福島原発事故処理をめぐる日本政府の不手際と〝情報隠し〟が国民の不安を高め、国際的信用を失墜させた責任は大きい。この点、ドイツ政府のスピーディーな対応を教訓としなければならない。メルケル首相は3・11直後に原発依存政策の転換を決意、6月6日に「自国内にある17基の原発を2022年までに閉鎖、再生可能エネルギーを中心とした電力政策への大転換」を閣議決定する〝離れ技〟を見せた。一方、イタリアでは、原発再稼動に関する国民投票を実施、高率の反対票を突きつけられたベルルスコーニ首相に「原発にサヨナラと言わねばならない」と完敗を認めさせる大変革をもたらした。英仏を除くEU諸国も反原発の動きを示しており、日本でも最近の各種世論調査によると、国民の約70%が「再生可能エネルギー」への転換を求めている。
エネルギー政策転換に踏み切った菅首相
迷走を続けている菅政権だが、菅首相は7月13日エネルギー政策に関する緊急記者会見を行い「①原発に依存しない社会を目指す。段階的に原発依存度を下げ、将来は原発がなくてもやっていける社会を実現する、②(原発への依存度を高める)政府のエネルギー基本計画は白紙撤回、③近い将来、原子力安全・保安院を経済産業省から分離、④企業・国民の節電協力や自家発電が活用できれば、必要な電力供給は可能」などの方針を明示した。
「原子力や化石燃料を用いた発電コストは、安全対策や原油価格高騰で確実に上昇する。その意味で、日本は今後、脱・原発依存、再生可能エネルギー推進の道を歩むべきで、首相がその方向性を明言したことは評価できる。短期的には省エネや埋蔵電力の活用で乗り切り、5~10年後には自然エネルギーへの転換を進めるべきだ。太陽光や風力による発電は普及すればコストは下がる。ただ、エネルギー政策の転換は国民が納得した上で、推進することが必要だ」(『読売』7・14朝刊)と、飯田鉄也・環境エネルギー政策研究所所長が指摘する通りであり、菅首相が示した方向性は「日本政治の大転換」を示すものと感じたが、新聞各紙の扱い方を点検して、『産経』『読売』などの、「レームダック(死に体)の菅政権のパフォーマンス」と言わんばかりの冷ややかな取り上げ方は傲慢で、一方的。確かにメルケル独首相のような明快さはなかったが、少なくとも「原発政策大転換」の意義を認識した上で、「今後の日本が選択すべき道」を正面から論じて欲しかった。
「私たちは7月13日付の社説特集で、20~30年後をめどに『原発ゼロ社会』をつくろうと呼びかけた。首相は目標年次こそ示さなかったが方向性は同じだ。首相の方針を歓迎し、支持する」と『朝日』7・14社説が評価し、「脱原発への機運は確実に高まっている。だから、首相が交代した後も、この流れが変わらぬような道筋をつけてほしい。もはやスローガンを唱えるだけでなく、脱原発への具体的な手法と政策を真剣に検討しなければならない。今こそ、与野党を問わず、政治全体として脱原発という大目標を共有して,具体化へ走り出そう」と訴えていた。
在京6紙の原発報道を点検すると、朝日・毎日・東京が脱原発を志向し、読売・日経・産経が原発容認(推進)の論調に色分けできる。中でも『毎日』は、「危険な浜岡原発ストップ」キャンペーンを張るなど自然エネルギーへの転換姿勢をいち早く示していたが、「7・14社説」にはパンチ力がなく、首を傾げた。「原発依存を減らす考え方については基本的に支持し、評価したい」と述べたあとは、菅首相の政権運営の失態をくどくど非難するだけで、いわゆる〝政局報道〟の延長線上の分析を繰り返したに過ぎなかった。脱原発の方向を共有する立場から踏み込んだ主張を鮮明にし問題提起することこそ、社説の責務ではなかったろうか。
「提言 原発ゼロ社会」を掲げた『朝日』
菅首相が「脱原発の方針」を緊急提言した前日の7月13日、朝日新聞朝刊1面に「提言 原発ゼロ社会」とのタイトルで、大軒由敬・論説主幹が「いまこそ政策の大転換を」と訴えた。
日本だけでなく全世界を震撼させている深刻な事態を放置できなとの思いを込めたもので、中面見開きで詳細な「社説特集」も掲載した。大軒論説主幹は冒頭「日本のエネルギー政策を大転換し、原子力発電に頼らない社会を早く実現しなければならない。いまだに収束が見えない福島第一原発の事故を前に、多くの国民もそう思っている。朝日新聞の世論調査では、段階的廃止への賛成が77%にのぼった。なにしろ『止めたくても止められない』という原子力の恐ろしさを思い知った。しかも地震の巣・日本列島の上にあり、地震が活動期に入ったといわれるのだ。再び事故を起こしたら、日本は立ち行かなくなってしまう。そこで、『原発ゼロ社会』を将来目標に定めるよう提言したい」と主張、「技術の発展や世界の経済情勢に左右され見通すのは難しいが、20~30年後がめどになろう。そこで、たとえば『20年後にゼロ』という目標を掲げ、全力で取り組んでいって、数年ごとに計画を見直すことにしたらどうだろうか」と提言した論旨は極めて明快だった。
中面の「社説特集」は、▽脱原発への道筋▽自然エネルギー政策▽新たな電力体制――の3本柱を立てて専門分野別に現状を分析、将来展望を示している。電力体制について、「原発を減らしつつ、電力を確保する。それを実現させるキーワードは『電源の分散』と『発電と送電の分離』だ。災害や危機に強い電力体制を作るには、既存の電力会社だけに頼らず多様な事業者に発電を担ってもらい、電源を分散させるほうがいい。太陽光など消費地で発電する『地産地消』も広げたい」との提言も具体的で、説得力があった。政局報道中心の新聞報道への批判が強まっている折、『朝日』が真正ジャーナリズム復権の覚悟で提言を発信したものと率直に受け止めたい。(ただ、特集面末尾に掲載した『原子力社説の変遷』は、〝原発神話〟のお先棒を担いだ報道責任についての釈明文の印象。過去のミスリードを綿密に検証した紙面を、改めて提供願いたい)
脱原発へウネリは確かに高まってきたが、政・官・財の癒着構造はいぜん根強い。官尊民卑・電力業界の傲慢な体質は、先の玄海原発再稼動へ向けた九州電力の〝やらせメール〟が如実に証明しているではないか。原発推進役の経済産業省の下にお目付け役の原子力安全・保安院が〝同居〟している奇妙な構造はまだ改められず、〝安全神話〟にお墨付きを与えた原子力安全委員会のメンバーチェンジも行われていない。既存の安全規制機関(原子力安全・保安院と原子力安全委員会)を廃止し、独立性の高い安全機関を設立して、「脱原発」に向けた工程表作成こそ急務だ。
福島原発は、事故で廃炉の運命にある一号機4基のほか二号機を含めた6基の計10基全部が再稼動できまい。また浜岡原発もストップしたまま(5基のうち2基は廃炉)で、全国54基中稼動しているのはわずか17基。13カ月に一度の定期検査を計算に入れると、新設を断念した今、原発は電力供給源の任務を果たせなくなる日は近い。自然エネルギーへの転換に踏み切ることに躊躇してはならない。
(財団法人新聞通信調査会「新聞通信調査会報」2011 年8月1日発行「プレスウォッチング」より許可を得て転載 ――編集部)
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