コカインを合法化する時が来た
- 2022年 12月 21日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
十月十二日付けのEconomist誌にとんでもない記事があった。「Joe Biden is too timid. It is time to legalise cocaine」と題するもので、直訳すれば、「ジョー・バイデンは臆病すぎる。コカインを合法化する時が来た」になる。
記事の主張は下記の通り。
「数十億ドルをかけてコロンビアなどにあるコカイン畑の撲滅を試みたが、別のところに新しく畑が作られただけで、コカインの生産になんの影響もなかった」「対費用効果の面からみれば、撲滅作戦は失敗だった」「禁酒法の経験からだが、合法化してしまえば、コカインマフィアを絶滅に追いこめないまでも、弱体化できる」「違法にしておく限り、コカインマフィアが国家政策を左右する力を持ち続けるだろう」「マフィアはコカインに安価なフェンタニル(合成ドラッグ)を混ぜて利益を膨らませている」「致死率の高いフェンタニルのせいで、二〇一〇年以降コカイン常用者の死者が五倍に増えている」「合法化すれば、服用するものに含まれるコカイン量や添加物を明記できる」
Economistの記事にご興味のあるかたは、下記urlからどうぞ。
https://www.economist.com/leaders/2022/10/12/joe-biden-is-too-timid-it-is-time-to-legalise-cocaine
この記事の背景には、アメリカも含めて世界中でマリワナ(大麻)が合法化されてきて、バイデン政権による合法化以前に有罪判決を受けた人たちへの恩赦がある。この恩赦には異を唱える人は多くないだろう。原稿を書いている今日十月一九時点で、アメリカでマリワナを完全に違法としているのはアイダホにネブラスカとカンサスの三州しかない。三州とも田舎で、ちょっと雑草地に入ればマリワナが自生している。そんなところで法律で禁止できるわけがない。個人的な経験だが、出張で行ったネブラスカ州の客の工場の裏には一面マリワナが自生していた。客に勧められるまま、茎をいくつか折ってニューヨークの自宅に持ち帰った。乾燥させて吸ってみたが、いがらっぽいだけでちっともハイにならなかった。
FOX9の記事についている地図が分かりやすい。
「Marijuana laws by state in 2022」
https://www.fox9.com/news/marijuana-laws-by-us-state-2022
Economistの記事は、無意識にしてもコカイン常習による被害を無視している。
二〇二一年には、アメリカだけでもコカインの過剰摂取による死者が二万五千人以上いる。これは前年比で二五%増になる。二〇二〇年に黒人の過剰摂取による死亡率が約二〇年ぶりに白人の死亡率を上回った(白人と黒人の人口比に注意)。薬物やアルコール依存度が高いから貧困なのか、貧困だから依存度が高いのかについては調査も議論もされつくしているだろう。どちらが原因にしても、事実として高い依存度と貧困には明らかな相関関係がある。
アメリカのドラッグ被害の実体を報告しているYouTubeサイトがある。見るに見かねる様子を手に取るように観れる。
「薬物に染まってゾンビのように変わり果てた人々。フィラデルフィア・ケンジントンのゾンビ」
https://www.youtube.com/watch?v=xq8nDGGxB-k&t=9s
アメリカ駐在を終えて帰ってきたとき(一九八〇年)、いつかはEconomistを読めるようにならなきゃと思っていた。油職工になりそこなったものには重すぎる雑誌で、一冊買うと読むのに数週間かかった。そんな時代もあったなーと思いながら、五十もすぎて毎週読んでいたら、Economist臭さが鼻につきだした。AtlanticにするかNew Yorker?それともGuardian?と思いながら、十年ほど前に購読を止めてしまった。Economistの記事が現代の欧米(日)社会の社会観の根幹をなす経済合理性に基づいたものだと考えている人も多いと思う。そのご意見、わかりはするが、なるほどと思う記事や解説になれてくると、裏に隠れたイギリスの功利主義というのか、あえて主義と呼ぶのを憚れる銭勘定から社会を見ようとする精神構造が透けて見えてくる。
コカイン合法化云々には、大英帝国の時代からイギリス社会の支配層がいかにして、ここから先は非合法というレッドラインを自分たちの利益のために都合よく引き直してきたかが見てとれる。非合法だとして取り締まりにかかるコストを上回る成果が上がらないのなら、レッドラインを非合法の先にずらして合法化してしまえばいい。未だにアヘンで国家財政を賄ってきた文化が根強く残っているのかと呆れるのだが、合法化は行政がコカインの流通を支配しようというものでしかない。Economistは、行政の管理下におけば、覚せい剤などの混ぜもののない高品質のコカインを市場に提供できるし、コカインマフィアを壊滅できないまでも、勢力を大きく削減できると主張している。その主張の裏付けとして「禁酒法」を持ち出している。
合法化して表の社会のビジネスにすればというのなら、賄賂や背任も表にだして課税する仕組みでも考えてみたらいい。さらに言わせて頂ければ、コカインなんか気にする前にWall Streetとならんで世界のタックスヘブンの一大拠点になっているCity(王室も重要顧客)からきちんと税金を取るのが先だろう。
2022/10/17
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12660:221221〕
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