「わたしは共産党の党首になる!」――共産党の論争
- 2023年 2月 4日
- 時代をみる
- 『シン・日本共産党宣言』党首公選共産党安保防衛阿部治平
――八ヶ岳山麓から(414)――
本ブログ1月31日の広原盛明さんの論評「トヨタ社長、豊田章男氏(66歳)から佐藤恒治氏(53歳)へサプライズ交代人事、志位和夫共産党委員長(68歳)はこの事態をどう受け止めるのだろうか」につられて、わたしもすこし意見を述べたい。
去年は日本共産党創立100周年だったから、共産党自身が「100年史」を出すものと期待していたが、去年9月に志位和夫委員長の「記念講演」があっただけだった。なぜ出さなかったのだろう。
広原さんが100周年記念の「共産党本」としてあげた本のうち、松竹伸幸著『シン・日本共産党宣言』(文春新書 2022・01)は、副題を「ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由」としている。中身の前半は副題通り党首公選を求める理由、後半は野党共闘と安保防衛論である。
鈴木元著『志位和夫委員長への手紙』(かもがわ出版 2022・01)は、副題が「日本共産党の新生を願って」といい、本の「帯」に「貴方はただちに辞任し、党首公選を行い、党の改革は新しい指導部にゆだねてほしい」とある。内容は最近の国政選挙の総括・安全保障政策に対する異議、党首公選、党勢拡大、知識人党員問題など多岐にわたるが、主張は一貫して「帯」の文言通りである。
ここではまず松竹氏の『シン・日本共産党宣言』を見る。
共産党100年の歴史において、平党員が自ら共産党の党首に名乗りを上げるという奇抜なことを考え、しかも実行したのは氏が初めてではなかろうか。まさしく党創立100周年にふさわしいできごとだ。
松竹氏が全党員による党首選挙を求める理由は、共産党は一枚板のように見えるが、内部では重要な見解の違いが生まれることがあった、だから党首公選をやって異なった政策が討論によってひとつに収斂していく過程を国民に見せたほうがよいというものである。また、党員による党首公選は他党がやっていて国民的常識になっているので、党首公選をすれば党員の個性が尊重され、国民には親しみがうまれるともいう。
常識的な言分だとおもうが、広原さんの論評にあるように、問題をなげかけられた共産党の志位和夫委員長はかなり動揺している様子である。だが共産党は、すでに前回衆議院選挙後まもなくの22年8月、党建設委員会の名前で「日本社会の根本的変革を目指す革命政党にふさわしい幹部政策とは何か――一部の批判にこたえる」という論文を発表している。
そこでは、党首公選をすれば、必然的に党首のポスト争いのための派閥・分派がつくられていくことになる、だから全党員による党首選挙は行わないとしている(この論文については「八ヶ岳山麓から(391)」で批判意見を述べた)。
もちろん松竹氏のこのたびの言動に共産党は黙ってはいない。赤旗編集局次長の藤田健氏の名前で「規約と綱領からの逸脱は明らか――松竹伸幸氏の一連の言動について」という批判論文を発表した(しんぶん赤旗 2023・01・17)。
「元日本共産党本部職員で『現役日本共産党員』を名乗る松竹伸幸氏が、記者会見、最近出版した本、ネットTV、週刊誌などで『党首公選制』を主張しています」として、松竹氏の言動を「自ら同意したはずの党規約に違反する行為」と非難し、「異論があれば党内で意見をのべるということを一切しないまま、『(党首選挙が)公開されていない、透明でない』などと外からいきなり攻撃することは、『党の内部問題は、党内で解決する』(第5条第8項)という党の規約を踏み破るものです」
これについて松竹氏は氏のブログ上で、党首公選を主張することは党内で解決すべき事項ではない、党の決定にはなっていないし、すぐれて日本の政治社会問題である。したがって規約違反ではないと反論を試みている。
規約になにが内部問題かは定義してないから、違反かどうかは外のものにもわからない。藤田氏の言分からすれば、その判断は共産党の側がやるもののようだ。
松竹氏の著書の後半は安保防衛問題である。
松竹氏は「共産党が現段階で基本政策として採用すべきだと私が考えるのは、結論から言えば、『核抑止抜きの専守防衛』である。日本は専守防衛に徹するべきだし、日米安保条約を堅持するけれども、アメリカの核抑止には頼らず、通常兵器による抑止に留める政策である」と主張する。
これに対し、藤田氏は、「これは、日本共産党の綱領の根幹をなす、国民多数の合意で日米安保条約を廃棄するという立場を根本から投げ捨て、『日米安保条約の堅持』を党の『基本政策』に位置づけよという要求にほかなりません」という。
だが、松竹氏は安保破棄、自衛隊違憲の綱領を認める。そのうえで「核抑止抜きの専守防衛」を「現段階での基本政策」にすべきだ、といっている。
それに、藤田氏は、岸田軍拡に反対する勢力が「専守防衛」を主張することと、それを共産党の「基本政策」に位置づけることとは全く性格を異にした問題だ、なぜかといえば「専守防衛」とは自衛隊合憲論を前提としているからだ、従って「松竹氏の主張は、自衛隊は違憲という党の綱領の立場を根本から投げ捨て、自衛隊合憲論を党の『基本政策』に位置づけよという要求にほかなりません」と批判する。
要するに、共産党は自衛隊違憲を主張しつつ、共産党を含めた革新勢力の中では自衛隊合憲論を容認するという使い分けをするわけだ。
わたしの記憶では共産党の安保防衛政策は、この60数年の間に何回か変わった。
1960年代から共産党は「中立・自衛」を主張し、日米軍事同盟からの離脱、憲法違反の自衛隊の解散、急迫不正の侵略には国民を動員し警察力を使って排除する、そして民主連合政府を樹立してから国民的合意によって新たに軍隊を持つとしてきた。
ところが、1994年第20回大会で、将来にわたって軍隊は持たない、社会主義の理想と憲法9条は合致しているとして、旧社会党並みの「非武装・中立」に変わった。
しかし、2000年11月の22回大会においては、突如、将来は自衛隊を解散するが解散前の急迫不正の侵略には自衛隊を活用すると変った。私の記憶では、大会3か月前の8月、テレビ朝日「サンデープロジェクト」で不破哲三議長(当時)が田原総一郎氏と小沢一郎氏に防衛政策を問い詰められて、しどろもどろになったための変化だと思う。
松竹氏によると、その後、党の雑誌に書いた氏の「(日米安保条約廃棄の前でも)急迫不正の侵略には自衛隊を持って対処する」という論文が志位委員長から批判され、自己批判を求められた。理由は、自衛隊活用は日米安保条約廃棄後のことであって、日米安保体制下では自衛隊の活用はない、あくまでも自衛隊は違憲の存在だからということであったという(松竹同書p92~)。これによって、松竹氏は共産党の勤務員をみずからやめた。
2015年、共産党は新安保法制反対に的を絞った「国民連合政府」を呼びかけた(安保廃棄の民主連合政府ではありません)。そして、10月15日志位委員長は外国人特派員協会において、日本に対する武力攻撃が発生したときは自衛隊を活用すると明言し、さらに「国民連合政府」としては、安保条約は凍結、日米共同の対処を謳った第5条にもとづいて対応するといったのである(しんぶん赤旗 2015・10・17)。さらに22年5月には共産党が入った政権ができれば、合憲と明言した。村山富市内閣の社会党とよく似た変化である。
わたしはこのニュースを見て、党大会決議にもよらないで委員長がこうしたことを言っていいのかと疑問をもったが、わが村の共産党の人々はかなり驚いたのではなかろうか。まえまえから自衛隊解消、防衛予算反対という意見を持ち続けていたし、「自衛隊活用」にはそれほどの関心がなかったのだから。
藤田氏は、松竹氏の言い分を綱領違反だというのだが、こうしてみると志位氏の発言は松竹氏の自衛隊活用論とほとんど同じではないか。松竹氏が綱領違反なら志位氏も綱領違反ではないか。
松竹氏が提起した党首公選論と安保防衛論は、共産党といわず革新勢力全体にかなりの波風が立つだろう。松竹氏の藤田氏への反批判は始まったばかりである。今後、松竹氏の発言に対する共産党からの詳細な反批判の批判があるはずだ。どんな論争になるかによって,日本で唯一の左翼政党である共産党の近未来がわかる。論争のこれからを見て続きを書きたい。
(2023・01・31)
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