自然死への道――共産党の論争(続)
- 2023年 2月 9日
- 時代をみる
- 共産党分派阿部治平
――八ヶ岳山麓から(415)――
2月5日、信濃毎日新聞は、「共産党で22年間党首の座」「党員に公選制導入つきつけられ」「動揺隠せぬ志位氏」という見出しで、志位和夫委員長の困惑した表情と党千葉県委員会書記長のトイレ盗撮事件を伝えた。
「党首公選制」への認識を記者団から問われても、志位委員長は「あの(赤旗の)論説に尽きている。赤旗にお任せして書いていただいた」とくりかえすばかり……」ということであった(2023・02・05)。
おなじ5日、共産党京都地区委員会が「党首公選制」を主張した松竹伸幸氏を除名したというニュースがあった。
理由は、以下の通り。
(1)1月に出版した本(『シン・日本共産党宣言』(文春新書)のなかなどで、「党首公選制」を実施すべきと主張した。党規約にもとづく党首選出方法や党運営について、「党内に存在する異論を可視化するようになっていない」、「国民の目から見ると、共産党は異論のない(あるいはそれを許さない)政党だとみなされる」などとのべている。
(2)上記の本のなかなどで、「核抑止抜きの専守防衛」なるものを唱え、「安保条約堅持」と自衛隊合憲を党の「基本政策」にせよと迫るとともに、党綱領と、綱領にもとづく党の安保・自衛隊政策に対して「野党共闘の障害になっている」「あまりにご都合主義」などと攻撃を行っている。
(3)『週刊文春』1月26日号において、わが党に対して「およそ近代政党とは言い難い『個人独裁』的党運営」などとする攻撃を書き連ねた鈴木元氏の本(『志位委員長への手紙』、かもがわ出版、1月発行)を、松竹本と同じ時期に出すよう働きかけたことを認めている(分派行動である)。
(4)自身の主張を、党内で、中央委員会などに対して一度として主張したことはないことを認めた。松竹伸幸氏は、規約に保障された権利を行使することなく、突然の党規約および党綱領に対する攻撃を開始した。
わたしは、批判対象の松竹本を読んで、共産党を革新するものと受け止めたが、同時にこれは党規に引っかけられるかもしれないと思った。さらに「赤旗」編集局次長藤田健氏の「論説」を読むにおよんで、除名を予想した。わたしは、共産党員の皆さんに『シン・日本共産党宣言』を読んでいただきたい。読んでから除名理由と照らしてご自分の意見を持っていただきたいと願う。
共産党の規約だと、党員松竹氏個人の意見を発表できるのは、かれの属する支部と中央までの上級機関だけである。もし、松竹氏がその「党首公選」や「核抑止抜きの専守防衛」を主張する内容を中央委員会などに提出していたら、たちまちその本は出版差し止めになり、彼の主張は人の目に触れることはなかっただろう。
松竹氏は、「いまの綱領と大会決議を前提として、共産党はどこまで野党との協力に踏み込めるのか、そこを突き詰めれば、綱領と大会決議を堅持しながら、野党の政権協議に入って行けるものが見つかるのではないか、という思いから『シン・日本共産党宣言』を書いた」という。
共産党も国民に信を問い、議会で多数を得て政権を取ろうという政党である。国民は、全部とはいえないが、政党を選ぶときは党首の人品骨柄と作風を見る。だから「党首公選」は党内問題ではあるが、それだけではなく有権者全体の問題だといえるものだと思う。
わたしはマルクス流の社会主義も史的唯物論も信じないが、40年あまり共産党のシンパであったから、松竹氏除名の理由になった氏の「党内に存在する異論を可視化するようになっていない」とか、「国民の目から見ると、共産党は異論のない(あるいはそれを許さない)政党だとみなされる」などという批判は、当たっていると思う。
ところで、共産党員の皆さん、思い出してください。
新安保法制成立直後、2015年10月15日、志位委員長は外国人特派員協会において、日本に対する武力攻撃が発生したときは自衛隊を活用すると明言し、さらに「国民連合政府」としては、安保条約は凍結、日米共同の対処を謳った第5条にもとづいて対応するといったのである(「赤旗」 2015・10・17)。さらに22年5月には、自衛隊は(党としては違憲だが)共産党が入った政権ができれば、合憲と明言した。
ところが、藤田論説は専守防衛の自衛隊は憲法違反だと、上記の志位委員長とは異なった主張をしている。報道によると、藤田論説を志位委員長など幹部が認めた(自らの発言を否定した)というから、日米軍事同盟重視・自衛隊合憲の野党とりわけ立憲民主党との連合政権は絶望的になった。
共産党は、「自衛隊の活用」を言い出してからも、機関紙「赤旗」でずっと反日米安保・反自衛隊のキャンペーンを打ってきたから、防衛予算そのものに反対し、日米安保は諸悪の根源だとする党員は多い。かつてNHKテレビの政党討論会で、共産党中央の政策委員会責任者が防衛予算を「人殺し予算」と呼んで物議をかもしたことでもそれはわかる。
だから松竹氏の日米安保と自衛隊の存在を前提とした「核抑止抜きの専守防衛」論など、なにがなんだかわからなくても、これに反対する党員は多いと思う。
除名理由書には松竹氏と分派活動をしたとされる鈴木元氏の名前がある。鈴木氏は党歴60年の老党員である。1944年生まれ。18歳で共産党に入党し、立命館大学経済学部卒業後は、京都の共産党幹部として長年活動したほか、アジア各国で国際協力にも携わった人である。
彼の著書『志位委員長への手紙』の副題は、「日本共産党の新生をねがって」というもので、帯には「あなたはただちに辞任し、党首公選を行い、党の改革は新しい指導部に委ねてほしい」とある。
氏は、共産党の指導者が急迫不正の侵略に「自衛隊を活用する」という言葉を本当の意味で理解していないという。いまや戦争の危険はアメリカではなく、中国とロシアにある。中国はGDPにおいて日本の4.5倍、軍人数において、自衛隊の26万人に対し200万人。その中国が政権の存亡をかけて、台湾(尖閣)武力統一に動いたときどうなるか。
国土防衛のために「自衛隊を活用する」ということは、当然日米安保条約第5条による米軍の出動を想定しなくてはならない。だからこのときは「安保容認・米軍の出動要請、自衛隊合憲・活用の立場」に立たざるを得ない。志位氏が国家指導者になったら、国民にこの事実を伝えて、全力で侵略と戦うよう呼びかけなければならない。
「志位委員長・貴方にその覚悟がありますか」というのが鈴木氏の問いかけである。
この人も早晩規約違反で処分されるだろう。そうしなかったら志位委員長・小池書記局長は鼎の軽重を問われる。
松竹氏は共産党を生き返らせようとした。それは共産党に欠けている討論文化を生むはずのものであったが、その試みは終った。党首を代えることにともなって刷新される人事、新しい活動への取り組み、新しい気風は絶望的となった。わたしの隣人の老党員たちは、勝ち目のない闘いを続け、上から「赤旗」拡大が目標に達しないとキュッキュと締め上げられ、疲れた体に鞭打って支持者に購読を懇請する活動をつづけなくてはならない。
志位委員長在任のこの20数年の間に、共産党は党員と「赤旗」読者を失い、国会と地方議会の議席を半分ほどに減らした。これからも国政選挙のたびに、志位氏・小池氏は「われわれの方針は正しいから辞任する必要はない。選挙に負けたのは敵の攻撃と党員が動かなかったからだ」という総括を発信し続けるだろう。
やがて共産党はわずかに残った支持者の関心を失い、議会政党としての機能が消え、しずかにマルクス主義の思想サロンに変わるだろう。わたしは、「赤旗」を読み続けるべきだろうか。次の地方選挙でも、いつものように票読みとカンパをやるべきだろうか? (2023・02・07)
初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye5021:230209〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。