どうする高齢者!立ち上がるのはだれか(1)
- 2023年 2月 14日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子
「どうする家康」 どころではない。
高齢者には、ガラガラと坂を転げ落ちるように生きづらい社会になってゆく。内閣支持率下落のさなか、「閣議決定」で、何もかも決まっていってしまう現実を目の当たりにし、国会は形骸化するばかりである。
2月10日の閣議で、75歳以上の健康保険料引き上げのための健康保険法改正が国会に提出される。昨年10月には、医療費が倍額になった。週一の通院、二カ月、三カ月ごとの定期診療に通わなければならない身には、大打撃である。今回の保険料値上げの対象は、後期高齢者の四割あたるという。コツコツと働いてきて、年金生活者になってからは、医療や介護への不安が募るばかりで、老後を楽しむどころではない。コロナ対策にしても、死者のほとんどが高齢者で、増加のさなかに、対策を緩和したり、感染者の受け皿の医療体制が整わないまま、5月には5類にしたりするというのだから、いわば、高齢者を置き去りするに等しいのではないか。
こんな仕打ちをされている高齢者を横目で見て、国会では、与党はもちろん、野党もまったくと言っていいほどアテにならない。政権の敵失ばかりを責め立てるばかりで、自らの政党の選挙対策に余念がなく、連携だの共闘などと騒がしく、党内外の批判にさらされ、慌てふためいて反撃している党もある。
どうすればいいのか。本来ならば、自ら立ち上がらねばならないはずの高齢者だが、その核になる組織がない、リーダーがいないと、あきらめてしまいそうになる。いや、リーダーや組織が華々しい運動は、大方は、しぼんで、挫折してしまうのが、通例ではなかったか。だったら、ひとりでも、片隅からでも叫びたい。その声が重なり合うときが来る日まで、とも思う。
2018年11月から数カ月にわたって展開されたフランスの「黄色いベスト」運動を想起する。当初、私は、ガソリン税値上げ反対の、トラックの運転手たちによる抗議行動と思っていた。一部暴徒化する様子も報道されていた。ところが、どうだろう、毎週土曜日の抗議デモは、地方から都市へ、サラリーマンや自営業者、高齢者や女性へと多くの市民による運動となった。その結果、マクロン政権は、ガソリン税値上げの完全撤回、富裕税課税の不動産限定を中止、購買力向上ための減税、国民との大討論会の約束などをとりつけるに至ったのである。
フランスでは、いま
それにつけても、フランスやイギリスの労働者たちの大規模な集会やデモの報道を目にして思うのは、なぜ、日本人はこれほどおとなしいのだろう、従順なのだろうかと。
フランス政府は、今年の1月10日に、年金の支給開始を62歳から段階的に64歳に引き上げるという改革案を発表した。1月19日には、労働組合が中心となって、改革案に反対する大規模なストや抗議デモが各地で行われ、 内務省は、 112万人が参加したと発表した。一方、主催者側は、ストやデモの参加者は200万人を超え、公共職の参加率が高かったとする。国民教育省によれば、全国で四割の教員が参加小学校の休校が相次ぎ、一斉ストでは、パリの地下鉄などダイヤが大きく乱れた、と報じた。(「フランス、反年金改革デモ112万人 政府に逆風強まる」『日本経済新聞』2023年1月20日、「仏年金デモ100万人超」『東京新聞』2023年1月21日)
さらに1月31日には、「全国で280万人、パリ50万人。1995年の社会運動より大きい歴史的な動員だ。労組に一般市民が大勢加わり若者も多く、大学や高校での封鎖も始まっている」と報じるメディアもあった(「年金改革反対デモ広がる〜1995年を超える歴史的動員に(飛幡祐規)」『れいばーネット』 2023年2月1日)。「1995年の社会運動」とは調べてみると、やはり年金改革の問題で、公共交通、電気・電気・ガス・学校など大規模なストが約1カ月にも及んだときのことらしい。そして、2月7日にも大規模なストライキが実施され、公共交通機関や学校、製油所などの運営がストップし、国民の反対は根強いと、ロイターは伝える(「仏で3度目の大規模スト、年金改革巡り 交通機関や学校にも影響」 2023年2月8日)。さらに2月11日にも、大規模ストライキを予定しているというが、どうなったことだろう。
年金制度改革案に反対する抗議デモに参加し、警官隊に拘束された男性=パリで2023年1月31日、AP。『毎日新聞』2023年2月1日、より
こうしたストライキやデモをする人たちの意思とエネルギーは何に由来するのだろうか。今回の大規模な運動は、最大の労働組合「労働総同盟」(CGT)を含め、八労働組合が呼びかけている。と言っても、フランスの労働者の組合組織率は8.8%だというが、団体交渉適用率が98%という高さなのである。組合員でなくとも、団体交渉で得た成果は、非組合員にも適用されている(「日本の労使問題」『東京新聞』(サンデー版大図解シリーズ)2023年2月5日)。そして何より、その組合というのは、業種別、産業別組合なのであって、日本の企業内組合とは性格を異にする。日本の組合の組織率は日本の組合の組織率は、「厚生労働省のまとめによると、2022年6月時点の労働組合員数は999万2000人と前年に比べて0.8%減った。雇用者に占める組合加入者の割合(推定組織率)は16.5%」(「労働組合加入率22年は16.5%でっ過去最低」『日本経済新聞』2023年1月4日)で、日経のこの記事では、加入率の減ったり理由として、正社員の加入が減ったことと、働き方の多様化、労組への期待低下を上げていた。日本の企業内組合は、いわゆる「御用組合」が多くを占め、本来の組合の役割を果たしていないといってよいだろう。(続く)
初出:「内野光子のブログ」2023.2.13より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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