経済学者の伊藤 誠さんが急逝されました
- 2023年 2月 16日
- 評論・紹介・意見
- 伊藤誠白川真澄
伊藤 誠さんが2月7日に急逝されたとの悲報を受け取りました。86歳でしたが、少し前までは元気に執筆や発言をされていただけに、大変ショックを受けています。
伊藤さんは日本を代表するマルクス経済学の研究者でした。宇野学派の俊英として知られ、私も若いころは『信用と恐慌』、『資本論講座7 恐慌 資本論以降』などの著作を読んでいましたが、直接にお会いして意見交換をしたり雑談をするようになったのは、1978年の『季刊クライシス』の創刊を機縁としてでした。創刊者のいいだももさんが伊藤さんをオルグして編集委員会の中心に据えたのは、いいださんの大ヒットでしたが、伊藤さんはいつも「ももさんの手品に乗せられた」と笑っていました。3日間にわたって開催され東大を分科会会場とした1985年11月の社会主義理論フォーラムも、伊藤さんの尽力がなければ成功しなかったでしょう。
伊藤さんは『資本論』に拘り続けながら、資本主義に対する根源的な批判の仕事を続けてこられました。いまでは資本主義を批判する立場の数少ない研究者でしたが、日本の左翼勢力の衰退に心を痛め、その再生に強い関心と期待を抱いておられました。社会運動や政治運動に身を置きながら理論的な作業を続ける私のような存在は、伊藤さんにとっては不思議で興味ある存在だっだのではないかと思います。伊藤さんに久しぶりに再会したのは、古沢広祐さんに誘っていただいて参加した国学院大学でのRC(資本主義再考)研究会の場でした。協同労働や地域経済から資本主義論まで多彩なテーマでのこの研究会は、コロナ禍で中断されるまで、私にとっては刺激的で楽しい時間でした。伊藤さんは問題提起やコメントを積極的に行われ、ずいぶん元気でした。資本主義に代わるオルタナティブを探求して提示しなければならないという関心を強くもっておられ、その点で大変共感しました。
ソフトな物腰と口調で接していただきましたが、しばしば鋭いコメントとアイロニーが飛んできてドキッとしました。私が書いた論文を送ると、わざわざ電話やメールで丁寧にコメントをいただき励まされました。今年の年賀状でも、「ご論稿は同感するところが多く、ありがたく拝読。なにかの折にまたお会いしましょう」と書いていただいたばかりです。この春に出版予定の『脱成長のポスト資本主義』をぜひ読んでいただきたいと願っていたのですが、それも叶わず淋しいかぎりです。これまでのアドバイスと思いやりに感謝あるのみです。
心からご冥福をお祈りいたします。 白川真澄
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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