ロシアは中国人観光客を待っている?
- 2023年 2月 25日
- 評論・紹介・意見
- ロシア中国阿部治平
――八ヶ岳山麓から(417)――
ロシアがウクライナに侵攻してから、日米欧は経済制裁を科しているが、中国の対ロシア貿易は拡大しつづけている。中国は貿易拡大による日米欧の制裁を警戒しながら、ロシアと一定の距離を置いた関係を維持しつつ貿易を通して事実上の経済援助を拡大してきた。最近では、中国による武器援助もとりざたされている。
2022年の中露貿易の総額は、前年比29.3%増の過去最高となった。とりわけ中国の輸入は43.4%増で、エネルギーの増加が目立つ。経済制裁によってロシア産原油は一時割安となったが、中国は欧州連合(EU)に代わり、ロシアにとって最大の原油輸出先となっている。
これにひきかえ、ロシアへの外国人観光客は激減した。2022年は20万100人となり、コロナ前の19年の510万人から96.1%減少した。ちなみに20年は33万5800人、21年は28万8300人だった。
昨年2月にロシアがウクライナに侵攻すると、欧州各国は数日後には領空内でのロシア航空機の飛行を禁止した。アエロフロート・ロシア航空は、3月にすべての国際便の運航を停止した。
現在「友好国」行きの便は徐々に再開しているというが、中国が最近まで新型コロナ感染防止対策として厳格な規制を敷いていたことから、コロナ流行前に外国人観光客の約3割を占めていた中国人観光客は回復せず、22年はわずか842人にとどまった(AFP 2023・2・10)。
ところが人民日報国際版の「環球時報」は、近頃ロシアの「モスクワ・コムソモリスカヤ紙」2月9日付けの下記のような記事を転載した。中国政府が外国への団体旅行を解禁したことから、ロシアが比較的金持の中国人観光客を呼び込もうとし、それに中国官界が幾分か応えたものと見ることができよう。
同記事はウクライナ戦争について何一つ触れることなく、モスクワやサンクトペテルブルク、シベリアのバイカル湖、オーロラ見物ができるムルマンスクなどを挙げ、中国人観光客を誘っている。また、以前はロシア観光の際は、スリ・かっぱらい、スキンヘッドのやくざなどの危険があるという話があったが、現在は治安上の心配がなくなったともいう。中国人は夏のロシア観光シーズンが来たときどんな行動をとるだろうか。
「中国観光客ななぜロシアが好きか」(筆者はアンナ・カルビツカヤ=音訳、漢語への翻訳は柳玉鵬)を見てみよう。それによると――
中国が国外への団体旅行を開放してから中国旅行業界は、中国人の国外旅行を毎年800万人増加を見込み大いに期待している。それだと2030年までにはこの数字は2億2800万人になる。
中国旅行客は、まずどこへ行くのだろうか?旅行計画にロシアは含まれているのだろうか?
このためわれわれ(モスクワ・コムソモリスカヤ紙)は、中露の国際結婚をしたロシア作家のワキム・チクノフ(音訳)と上海記者粛荷(音訳)夫妻をたずねた。二人はこもごも、中国人はみな国外旅行の制限が取り払われたことを大変喜んでいる、しかもロシアには関心が高く、大勢がオーロラの下で記念写真を撮るのを夢見ているだろうと語った。
ワキムは、「ロシアに初めて来た中国人は、まずモスクワとサンクトペテルブルグに行くと面白いはずだ」と言った。ロシアに来たことのある人は、二度目もこの二つの都市と博物館へ見物に行きたがる。
中国人は、バイカル湖へのコースをたいへんに好む。冬は、彼らは(バレンツ海方面の)ムルマンスクへ行くか、そうでなければ(白海に面した)アルハンゲリスクへ行くか、それともこの二つとも行く。これはオーロラを見ることのできるコースである。
ワキムがみたところ、50歳以上の中国人、とくに退職した人は(個人旅行よりも)団体旅行を好む。これは彼らにとってよりたのしく安全を感じさせるもので、それが習慣でもある。若者は個人あるいは家族旅行を好む傾向が強くなった。中国人は適応力があるから旅行中のちょっとした不便や困難を我慢することができる。その主な行動はといえば、まず彼らは熱い湯を入れた魔法瓶を持っている。お茶を入れたり、カップ麺を食べたり、路上で白湯を飲むのである。また中国人の多くは、インスタントラーメンも用意している。これは旅費節約のためというよりは、現地の食べ物に慣れないからだといえよう。
ワキムによれば、中国人の旅行者は、旅行中にカネを使ってぜいたくをしようとはしない。だが彼らは記念品を買うにあたってはけちけちせずカネを使うという。ロシアでは中国人はいつもローズゴールドや琥珀やチョコレートを買う。
注)ローズゴールドはピンク色が入っている黄金でロシアのこの種の黄金は有名とのこと)
また、彼らはいつも生薬を原料にした化粧品やいろんな民間薬を買う。彼らがウォトカを買うのはその瓶を記念品とするためである。このため瓶にはロシアの象徴がしるされたものを選ぶ。もっとも好まれるのは、クレムリン宮殿をあしらった瓶である。
注)ワキムが土産物として、ロシアの入れ子人形「マトリョーシカ」をとりあげないのは不可解である。
そのほか、旅行の安全面については、中国人はすこしの心配もない。大多数の中国人は、ロシアは非常によいところだという。どんな国でも旅行者は、いろんなペテン師のたぐいや町のよた者のもっともよい目標であることをよくよくわかっている。だから(中国人も)旅行中はそれなりの注意をしている。
ワキムは、以前はロシアを観光する中国人の中に、スキンヘッド党といったヤクザの心配があるといううわさが流れていたが、現在はこのようなニュースはなくなった。だから中国人はロシアへ来て安心しておおいに楽しんでもらいたいと語った。(「モスクワ・コムソモリスカヤ紙」。2023・2・9)
初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion12848:230225〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。