祝! 袴田事件再審決定の確定。「再審格差」を乗り越えて諸事件の救援を。
- 2023年 3月 22日
- 評論・紹介・意見
- 刑事司法澤藤統一郎
(2023年3月21日)
死刑確定囚の袴田巌さんは、冤罪を雪ぐために再審を求めて闘ってきた。
紆余曲折経て再審を認めた3月13日東京高裁決定への特別抗告の期限が昨日20日。この日、東京高検は最高裁への特別抗告断念を弁護団に通知した。これでようやく、本当にようやく、再審開始が確定した。
これから、静岡地裁で袴田巌さんの誤判を覆すための再審公判が開かれる。そして、間違いなく無罪判決が言い渡される。おめでとう、袴田さん。おめでとう、ひで子さん。そして、弁護団長の西嶋さん。
とは言うものの、失われたもの、取り返しのつかないものはあまりにも大きい。誤判を繰り返さないために、間違っての死刑執行を防ぐためにも、刑事訴訟制度・再審制度の再点検が行われなければならない。
誰もが感じているように、袴田事件の再審請求には世論の援護があった。世の人々の目が、裁判所の背中を押し、検察官の足を止めたと言えるだろう。「袴田事件再審決定は世論の勝利」とは、一面素晴らしい教訓ではあるが、他面、それでよいのかという問題を考えなければならない。
最近、「再審格差」という言葉を聞く。何を「格差」というかは必ずしも明確ではない。担当裁判官の姿勢次第で生まれる「格差」もある。のみならず、世に注目され世論の後押しを受ける事件と、必ずしも注目されず世論の後押しを受けない事件との「格差」も否定しえない。冤罪を訴える者の「人権」や「真実」を論じる立場から、「格差」は容認しえない。平等なルールの設定が必要である。
喫緊の課題は、再審請求の手続きにおける証拠開示のルール化である。検察官手持ちの全証拠の開示をどう実現するか。ことは、再審請求事件だけの問題ではない。
日弁連は、2019年10月の人権擁護大会で、
①再審請求手続における全面的な証拠開示の制度化の実現、
②再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止
を含む再審法の速やかな改正を求める決議を採択した。そして、これを盛り込んだ刑訴法改正案を公表している。早期の法改正の実現が強く望まれる。
そしてまた、5件目の死刑再審無罪判決を機に、死刑存廃の議論が巻きおこらねばならない。国家が刑罰権の行使に過つことがあったとしても、取り返しのつかない死刑執行は絶対に避けなければならない。その観点からの死刑廃止論がリアリティをもって考えよと迫っている。
日弁連は、1959年の徳島事件以来再審支援に取り組んでいる。これまでに34件の再審事件を支援し、そのうち18件について再審無罪判決を獲得しているという。
現在再審請求中の支援事件は、以下のとおりである。
☆名張事件 1969年9月 名古屋高裁死刑判決 1972年6月確定
☆袴田事件 1968年9月 静岡地裁死刑判決 1980年11月確定
☆マルヨ無線事件 1968年12月 福岡地裁死刑判決 1970年11月確定
☆大崎事件 1980年3月 鹿児島地裁懲役10年1981年1月確定
☆日野町事件 1995年6月 大津地裁無期懲役 2000年9月確定
☆福井女子中学生殺人事件 95年2月 名古屋高裁金沢支部 懲役7年 97年11月確定
☆鶴見事件 1995年9月 横浜地裁 死刑判決 2006年3月確定
☆恵庭殺人事件 2003年3月 札幌地裁 懲役16年 2006年10月確定
☆姫路郵便局強盗事件 2004年1月 神戸地裁姫路支部 懲役6年 06年4月確定
☆豊川事件 2004年3月 名古屋高裁 懲役17年 08年9月確定
☆小石川事件 2002年3月 東京地裁 無期懲役 05年6月確定
☆難波ビデオ店放火殺人事件 2009年12月 大阪地裁 死刑判決 14年3月確定
再審無罪確定事件は以下のとおりである(無罪確定順)。
○吉田事件 無期懲役 1963年2月 名古屋高裁 再審無罪判決
○弘前事件 懲役15年 1977年2月 仙台高裁 無罪判決
○加藤事件 無期懲役 1977年7月 広島高裁 無罪判決
○米谷事件 懲役10年 1978年7月 青森地裁 無罪判決
○滝事件 懲役5年 1981年3月 東京地裁 無罪判決
○免田事件 死刑 1983年7月熊本地裁八代支部 無罪判決
○財田川事件 死刑 1984年3月 高松地裁 無罪判決
○松山事件 死刑判決 1984年7月 仙台地裁無罪判決
○徳島事件 懲役13年 1985年7月 徳島地裁 無罪判決
○梅田事件 無期懲役 1986年8月 釧路地裁 無罪判決
○島田事件 死刑判決 1989年1月 静岡地裁 無罪判決
○榎井村事件 懲役15年 1994年3月 高松高裁 無罪判決
○足利事件 無期懲役 2010年3月 宇都宮地裁 無罪判決
○布川事件 無期懲役 2011年5月 水戸地裁土浦支部 無罪判決
○東電OL殺人事件 無期懲役 2012年11月 東京高裁無罪判決
○東住吉事件 無期懲役 2016年8月大阪地裁 無罪判決
○松橋事件 懲役13年 2019年3月 熊本地裁 無罪判決
なお、下記は日本国民救援会が支援している「再審・冤罪事件」の事件名一覧である。
●秋田・大仙市事件
●山形・明倫中裁判
●宮城・仙台北陵クリニック筋弛緩剤冤罪事件
●栃木・今市事件
●東京・三鷹事件
●東京・痴漢えん罪西武池袋線小林事件
●東京・小石川事件
●東京・乳腺外科医師冤罪事件
●長野・冤罪あずさ35号窃盗事件
●長野・あずみの里「業務上過失致死」事件
●福井・福井女子中学生殺人事件
●静岡・袴田事件
●静岡・天竜林業高校成績改ざん事件
●愛知・豊川幼児殺人事件
●三重・名張毒ぶどう酒事件
●滋賀・日野町事件
●京都・長生園不明金事件
●京都・タイムスイッチ事件
●兵庫・えん罪神戸質店事件
●兵庫・花田郵便局強盗事件
●岡山・山陽本線痴漢冤罪事件
●高知・高知白バイ事件
●鹿児島・大崎事件
●米・ムミア事件
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2023.3.21より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=21085
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12913:230322〕
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