SJJA& WSJPO【西サハラ最新情報】528 ポリサリオ戦線半世紀の独立運動
- 2023年 5月 13日
- 評論・紹介・意見
- ポリサリオ戦線国連平田伊都子西サハラ
今から50年前の1973年5月10日に、モロッコ植民支配下にある西サハラの開放と独立を目指し、ポリサリオ戦線が創設されました。
ポリサリオとは、ポピュラー・(パラ・ラ・)リベラシオン・(デ・)サギア・(エル・ハムラ・イ・デ・)リオ・(デ・)オロの元題から主要単語の頭文字を取ったものです。<サギア・エル・ハムラ>はアラビア語で<赤い涸れ川>、<リオ・デ・オロ>はスペイン語で<金の川>、前者は西サハラの北部の象徴で、後者は南部の象徴で、合わせて西サハラ全土を指します。
① ポリサリオ戦線の創設者エルワリ:
1973年5月10日の夜、西サハラ砂漠の真ん中で数台のランドクルーザーがエンジンを止め、ヘッドライトで民族衣装ダラーを翻らせ被り物シャーシュで頭を覆った長身の痩せた男を浮かび上がらせた。「スペイン植民地軍から祖国西サハラを解放するために、我々はポリサリオ戦線を創設する」と、男は短い宣言をし、車列を引き連れて砂塵の中に消えていった。男の名はエルワリ・ムスタファ・サイード、25才、当時の西サハラはスペインの植民地だった。
1975年11月にスペイン植民宗主国は国連にも西サハラ人民にも内緒で、西サハラ北部はモロッコに南部はモーリタニアに勝手に分譲し、西サハラ植民地を放り出した。北からはモロッコ正規軍が南からはモーリタニ正規軍が軍事進攻され、挟み撃ちにされた西サハラ住民は着のみ着のままで家を捨てた、エルワリが率いるポリサリオ戦線に率いられ北の隣国アルジェリアに向かって歩いた。12月のサハラ砂漠は砂嵐に襲われる。しかも夜になると零ど以下に冷える。病人やお年寄りや幼子たちはバタバタと倒れていった、、何人の西サハラ住民が故郷を追われたのか、正確な員数は未だに不明だ。500㎞から2000㎞の砂漠を超えてきた西サハラ難民はアルジェリアに倒れこんだ。
仲間が移動している間に、エルワリはアルジェリア政府に直談判し、難民キャンプを張る許可を得た。世界の誰も、砂漠を渡るゾンビ集団のことなど知らなかった。150万人の犠牲を払ってフランスから独立を勝ち取ったアルジェリアだから、エルワリの独立運動に共鳴してくれたのた。難民申請したエルワリは、最低限の食料・医療・日用品を確保した。
1976年にSADR (サハラウィ・アラブ民主共和国)を建国したエルワリは、同年6月9日に、モーリタニアの最前線でハチの巣にされ28才で砂漠に散った。
1979年にモーリタニアと和平協定を結んだ後、ポリサリオ戦線はモロッコとの闘いを続けている。
エルワリの殉教後、独立運動の同志アブド・ル・アジーズが1978年から2016年まで後を継ぎ、その後、同じく独立の志士ブラヒム・ガリが現在まで、ポリサリオ戦線とSADR(サハラウィ・アラブ民主共和国)を率いている。
左からエルワリ初代ポリサリオ戦線事務総長、2代目アブデ・ル・アジズ、
3代目ブラヒム・ガリ
② 国連安保理でモロッコ国連大使が発言:
スイスが同国の歴史上初めて国連安保理に非常任理異国として参加し、5月には持ち回り議長国を務めることになった。5月3日にイグナツィオ・カシス・スイス外相が議長を務め、<平和構築と平和の維持>と題する公開討論を行った。「平和を維持するための将来を見据えた信頼を築きたい」と、スイス外相は討論の趣旨を語った。
CORCAS (王立西サハラ諮問評議会)が5月6日に「発言者の一人として、オマル・ヒラール・モロッコ国連大使が、加盟国の領土保全と国家主権を完全に尊重することにより、包摂的なアプローチを促進し、多国間主義の強化が必要と述べたうえで、国家の内政への不干渉の義務を尊重するよう<嘆願>した」と、発表した。<西サハラ問題はモロッコ国内問題である。干渉するな!>という、モロッコ国王の主張が滲み出ている。が、あの強行で独断的国王が、モロッコ国連大使に<嘆願>させたというのは驚きだ!
さらにCORCAS(王立西サハラ諮問評議会)は、「オマル・モロッコ国連大使は、21世紀の多面的な安全保障上の課題に直面できる永続的な平和を構築するために、国連、特に安全保障理事会は紛争を防ぎ、紛争の平和的解決を促進するために国連憲章を使用し続けるべきだと、語った」と、報告した。国連憲章を時代錯誤の遺物だと決めつけ国連安保理決議を無視してきたモロッコが、国連憲章を継続使用し国連安保理に<嘆願>するとは?!
モロッコ国王のマハゼン(諮問機関)が対西サハラ政策を大転換させたのかな?
モロッコの気が変わらないうちに、さっさと国連和平交渉のセッテインングをやるべきだ。
スイス外相主催の安全保障理事会公開討論には、北マケドニアの首相、UAE(アラブ首長国連邦)の人工知能担当国務大臣、ドイツ国務大臣、そして日本外務副大臣、などが証人として参加している。
③ 国連で西サハラが、<ポリサリオ戦線50周年記念>の声明発表:
一方、あのお祭り好きな西サハラ難民が、ポリサリオ戦線50周年記念の式典をやらなかった。西サハラにも何かが起こったようだ?そう言えば、外務省関係者を外務大臣以下、ガラッと変えた。お馴染みのベイサット南アフリカ大使やムロウド駐ワシントン大使やマライニン・ボツワナ大使などが消えた。
それでも友好国から、お祝いの言葉が届けられた。
キューバのミゲル・ディアス・カネル大統領は、ポリサリオ戦線の創設50周年にツイートで「長く頑張ってるね!」と、敬意を表した。
ベネズエラのイヴァン・ギル外相は、ポリサリオ戦線の創設50周年を「私たちはこの機会に最高の連帯表明を送り、国際社会がサハラウィーの人々の公正な問題を支持することを願っています」と、ツイートで称賛した。
一方、オマル西サハラ国連代表 兼 MINRSOミヌルソ(国連西サハラ人民投票監視団)西サハラ代表は、以下のような記者声明を出した。
―「今日5月10日を、西サハラの人々は、サハラの人々の唯一かつ合法的な代表者であ
り、自由と独立のための闘争を主導する民族解放運動であるポリサリオ戦線の創設50周年を祝います。
西サハラにおける国連主導の和平プロセスは、占領国側の政治的意志の欠如のために行き詰まったままであり、占領軍は完全に免責され、安全保障理事会の不作為とともにその侵略戦争を続けています。過去50年間、ポリサリオ戦線に率いられた西サハラの人々は、国家解放闘争をエスカレートさせ拡大しながら、国家機関の建設と近代化において大きな進歩を遂げてきました。アフリカ連合の創設メンバーであるSADR(サハラウィ・アラブ民主共和国)は、いまや、UN(国連)AU(アフリカ連合)EU(ヨーロッパ連合)などの国際社会から一目置かれる存在に成長しました。占領下の西サハラにおけるモロッコの不法占領に対する平和的な被占領民の抵抗も、衰えることなく続いています。とりわけ、半世紀にわたる闘争、抵抗、犠牲、国造りは、SADR(サハラウィ・アラブ民主共和国)の旗の下で団結した西サハラの人々の、何があっても自由と独立を取り戻すという確固たる決意の証です。
ポリサリオ戦線は西サハラの脱植民地化を完了するため、国連とアフリカ連合の努力に建設的に貢献するという誓いを新たにし、サハラの人々の神聖な権利と解放と独立への国家的願望を守るため、あらゆる合法的な手段を使用することを決意しました。」―
5月8日の国連定例記者会見で、「国連事務総長がサンチェス・スペイン首相と会談し、西サハラ問題も取り上げた」と、発表した。サンチェス首相は、2022年にモロッコの西サハラ領有権を認めて以来、モロッコ国王の外交ご用達特使を務めている。筆者はすぐに、オマル西サハラ国連代表に会談の内容を聞いた。が、「我々もそのニュースを報道で知った。中身は不明だ」との答えが返ってきた。
UN国連もAUアフリカ連合もRUヨーロッパ連合も、ポリサリオ戦線を西サハラの代表として公式に認め、正式の外交交渉相手としています。
嘘か真か、モロッコが態度を軟化させてきました。
チャンスです! この機を逃さず国連は両当事者和平交渉再開に着手してください!!
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「サラー西サハラ難民アスリート」の出版情報です。
著者:平田伊都子、写真構成:川名生十、画像提供:アマイダン・サラー、SPS、
定価:本体1,800円+税、
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、電話:03-3814-3861
同じ「社会評論社」が出版してくださった「ラストコロニー西サハラ(2015年)」、「アリ 西サハラの難民と被占領民(2020年2月)」にも、お目を通してください。
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Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)もご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa] 英語版URL: https://youtu.be/au5p6mxvheo
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名生十 2023年5月13日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13015:230513〕
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