来年の「歌着始」選者は~篠弘の後任は大辻隆弘だった
- 2023年 7月 6日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子歌会始選者
7月1日、宮内庁から来年の歌会始選者の発表があった。選者の一人篠弘が昨年12月に死去したのに伴い、その後任が大辻隆弘となったのである
7月1日、宮内庁から来年の歌会始選者の発表があった。選者の一人篠弘が昨年12月に死去したのに伴い、その後任が大辻隆弘となったのである
従来の4人に加えて、61歳の大辻が加わったことで、少しは若返ったことにはなる。その報道記事における選者の肩書はメディアによってさまざまなのだが、共同通信の配信記事(2023年7月1日)によれば、以下のようであった。
三枝昂之(79)=山梨県立文学館館長、日経歌壇選者▽永田和宏(76)=京大名誉教授、歌誌「塔」選者▽今野寿美(71)=現代歌人協会会員、歌誌「りとむ」同人▽内藤明(68)=早稲田大教授、歌誌「音」発行人▽大辻隆弘(62)=現代歌人協会会員、未来短歌会理事長
他のメデイアも含めて、その肩書が、どう見てもちぐはぐなのが気になった。「現代歌人協会会員」となれば全員がそうだろうし、結社の「役職」などから言えば、 三枝は『りとむ』発行人、元日本歌人クラブ会長。永田は『塔』の元主宰であり、朝日歌壇選者。今野は『りとむ』編集人であり、三枝の妻である。大辻は、岡井隆没後2020年7月から一般社団法人未来短歌会理事長・『未来』編集発行人であり、『日本農業新聞』の歌壇選者とコラム「おはよう名歌と名句」の執筆者だったのを見かけたことがあるが、現在も続いているらしい。20年ほど前は、同じようなコラムを草野比佐男が担当していたのだが。
私は、下記の3月の本ブログ記事で、篠弘の後任として、たぶん女性が起用されるのではないかなどと予想して、歌会始召人に招ばれたことのある栗木京子、小島ゆかりの名をあげ、男性では坂井修一などの名を挙げていたが、見事に外れたわけで、これはこれで、妙な懸念が晴れてよかったと思っている。
『未来』の岡井を継承した編集発行人の大辻が歌会始選者になって、なんの不思議もないのだが、私には、1992年岡井隆が歌会始選者になったときの歌壇の反応を思い起すのであった。「前衛歌人が歌会始選者に」と歌壇に衝撃が走ったし、『未来』誌上でも、それをテーマに特集が組まれ、岡井隆の弁明まで掲載された。これを機に未来短歌会を離れる歌人もいたのである。私自身は、拙著『短歌と天皇制』(風媒社1988年10月)に収録したエッセイで示していたように、予想はついていたので「さもありなん」の思いであった。
今回、『未来』はどんな反応を示すのだろうか。短歌コンクールの一つの選者就任として受け流すのか、祝意?を示すのか・・・。他の結社とて、『りとむ』『塔』『音』の三人は、選者であることを十分に「利活用」をし続けてきたように見受けられる。岡井隆、永田の妻の河野裕子、篠弘のように最晩年まで、この居場所を去らないであろう。この「国家的短歌コンクール」の状況――応募者数の低迷、応募者の高齢化は進み、宮内庁辺りは、こうした状況の打開を図りたいところと思うが、今回の選者選びには反映されず、結果的に見れば「歌壇政治」「男性社会」を象徴するような人事に思えたのである。「歌会始」は当分細々と続くだろう。
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2019年2月17日「歌壇時評」(朝日新聞)
以下は、上記、大辻隆弘の『朝日新聞』の歌壇時評「短歌と天皇制」(2019年2月17日)について当時評した当ブログ記事である。
「短歌と天皇制」(2月17 日『朝日新聞』の「歌壇時評」)をめぐって(1): 内野光子のブログ (cocolog-nifty.com)
「その反省から出発した戦後短歌」ってホント?(2019年2月25日)
「短歌と天皇制」(2月17日『朝日新聞』の「歌壇時評」)をめぐって(2): 内野光子のブログ (cocolog-nifty.com)
「戦後短歌は皇室との関係を結ぶことに慎重だった」のか(2019年3月1日)
「短歌と天皇制」(2月17日『朝日新聞』の「歌壇時評」)をめぐって(3): 内野光子のブログ (cocolog-nifty.com)
「天皇制アレルギー」って(2019年3月5日)
「短歌と天皇制」(2月17日『朝日新聞』の「歌壇時評」)をめぐって(4): 内野光子のブログ (cocolog-nifty.com)
「無反応」だったのか(2019年3月5日)
私としては、令和の天皇制の行方と、短歌にかかわるものとして「歌会始」の行方を見極めたい。宮内庁が皇室情報を発信すればするほど、天皇制自体への疑問が拡散し、「歌会始」も細るだけ細ればいいと期待しているのだが。
従来の4人に加えて、61歳の大辻が加わったことで、少しは若返ったことにはなる。その報道記事における選者の肩書はメディアによってさまざまなのだが、共同通信の配信記事(2023年7月1日)によれば、以下のようであった。
三枝昂之(79)=山梨県立文学館館長、日経歌壇選者▽永田和宏(76)=京大名誉教授、歌誌「塔」選者▽今野寿美(71)=現代歌人協会会員、歌誌「りとむ」同人▽内藤明(68)=早稲田大教授、歌誌「音」発行人▽大辻隆弘(62)=現代歌人協会会員、未来短歌会理事長
他のメデイアも含めて、その肩書が、どう見てもちぐはぐなのが気になった。「現代歌人協会会員」となれば全員がそうだろうし、結社の「役職」などから言えば、 三枝は『りとむ』発行人、元日本歌人クラブ会長。永田は『塔』の元主宰であり、朝日歌壇選者。今野は『りとむ』編集人であり、三枝の妻である。大辻は、岡井隆没後2020年7月から一般社団法人未来短歌会理事長・『未来』編集発行人であり、『日本農業新聞』の歌壇選者とコラム「おはよう名歌と名句」の執筆者だったのを見かけたことがあるが、現在も続いているらしい。20年ほど前は、同じようなコラムを草野比佐男が担当していたのだが。
私は、下記の3月の本ブログ記事で、篠弘の後任として、たぶん女性が起用されるのではないかなどと予想して、歌会始召人に招ばれたことのある栗木京子、小島ゆかりの名をあげ、男性では坂井修一などの名を挙げていたが、見事に外れたわけで、これはこれで、妙な懸念が晴れてよかったと思っている。
『未来』の岡井を継承した編集発行人の大辻が歌会始選者になって、なんの不思議もないのだが、私には、1992年岡井隆が歌会始選者になったときの歌壇の反応を思い起すのであった。「前衛歌人が歌会始選者に」と歌壇に衝撃が走ったし、『未来』誌上でも、それをテーマに特集が組まれ、岡井隆の弁明まで掲載された。これを機に未来短歌会を離れる歌人もいたのである。私自身は、拙著『短歌と天皇制』(風媒社1988年10月)に収録したエッセイで示していたように、予想はついていたので「さもありなん」の思いであった。
今回、『未来』はどんな反応を示すのだろうか。短歌コンクールの一つの選者就任として受け流すのか、祝意?を示すのか・・・。他の結社とて、『りとむ』『塔』『音』の三人は、選者であることを十分に「利活用」をし続けてきたように見受けられる。岡井隆、永田の妻の河野裕子、篠弘のように最晩年まで、この居場所を去らないであろう。この「国家的短歌コンクール」の状況――応募者数の低迷、応募者の高齢化は進み、宮内庁辺りは、こうした状況の打開を図りたいところと思うが、今回の選者選びには反映されず、結果的に見れば「歌壇政治」「男性社会」を象徴するような人事に思えたのである。「歌会始」は当分細々と続くだろう。
以下は、上記、大辻隆弘の『朝日新聞』の歌壇時評「短歌と天皇制」(2019年2月17日)について当時評した当ブログ記事である。
「短歌と天皇制」(2月17 日『朝日新聞』の「歌壇時評」)をめぐって(1): 内野光子のブログ (cocolog-nifty.com)
「その反省から出発した戦後短歌」ってホント?(2019年2月25日)
「短歌と天皇制」(2月17日『朝日新聞』の「歌壇時評」)をめぐって(2): 内野光子のブログ (cocolog-nifty.com)
「戦後短歌は皇室との関係を結ぶことに慎重だった」のか(2019年3月1日)
「短歌と天皇制」(2月17日『朝日新聞』の「歌壇時評」)をめぐって(3): 内野光子のブログ (cocolog-nifty.com)
「天皇制アレルギー」って(2019年3月5日)
「短歌と天皇制」(2月17日『朝日新聞』の「歌壇時評」)をめぐって(4): 内野光子のブログ (cocolog-nifty.com)
「無反応」だったのか(2019年3月5日)
私としては、令和の天皇制の行方と、短歌にかかわるものとして「歌会始」の行方を見極めたい。宮内庁が皇室情報を発信すればするほど、天皇制自体への疑問が拡散し、「歌会始」も細るだけ細ればいいと期待しているのだが。
初出:「内野光子のブログ」2023.7.5より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2023/07/post-48b22b.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13109:230706〕
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