元スイス戦略情報局員/戦略アナリスト・ジャック・ボー氏が探る 「ワグネルの反乱」の真相
- 2023年 7月 11日
- 評論・紹介・意見
- グローガー理恵
はじめに
現在、ワグネルの反乱をめぐり、マスメディア、ソーシャルメディア、ネットメディアなどでは様々な憶測、ファンタジー、推測が飛び交っているが、その信憑性を判断するのは私たち自身である。
氾濫する情報の中で、私自身は、信憑性のある情報としてジャック・ボー氏の「ワグネルの反乱」と題された論評を選んだ。ジャック・ボー氏は、ご自身の見識を活かして、アクセス可能な情報を基に、ウクライナの戦況およびワグネルの反乱を起こしたバックグラウンドを探り、その真相を突き止めようとしている。
このジャック・ボー氏の論評を和訳してご紹介させていただく。
原文(英文)へのリンク: https://www.thepostil.com/the-wagner-mutiny/
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ジャック・ボー(Jacques Baud)氏のプロファイル: ジャック・ボー氏 [Source:Youtube]
スイス人。ジュネーブの国際関係大学院で計量経済学の修士号と国際安全保障の修士号を取得し、スイス陸軍の大佐を務めた。スイス戦略情報局に勤務し、ルワンダ戦争時の東ザイールの難民キャンプの安全確保に関するアドバイザーを務める(UNHCR – ザイール/コンゴ、1995-1996年)。ニューヨークの国連平和維持活動局(DPKO)に勤務し(1997-99年)、ジュネーブの国際人道的地雷除去センター(CIGHD)および地雷対策情報管理システム(IMSMA)を設立した。国連平和活動におけるインテリジェンスの概念導入に貢献し、スーダンで初の統合型国連合同ミッション分析センター(JMAC)を率いた(2005~06年)。ニューヨークの国連平和維持活動局平和政策・教義部(2009~11年)、安全保障セクター改革・法の支配に関する国連専門家グループの責任者を務め、NATOに勤務した。
ワグネルの反乱
2023年7月1日
著者:ジャック・ボー
ワグネル反乱の 一シーン:2023年6月24日、ロシアのロストフにて、ロストフ市民と交わるワグネルグループの雇兵たち
〔撮影:Fargoh 氏— Travail personnel〕 CC0
2023年6月24日から25日にかけて何が起こったのかを理解するためには、バフムートの戦いまで遡らなければならない。 2022年10月、ロシアは西側諸国が、ウクライナに兵器を供給し続けることによって戦争を長引かせようとしていることに気がついた。
ロシアの目標
ウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦の最初の目標は、ドンバスの住民に対する軍事的脅威 と準軍事的脅威を無力化(非軍事化および非ナチス化)することだった。目的は領土の強奪ではなく、脅威と戦うことであった。このことはバフムートの戦いを理解するために重要なことである。
2022年3月28日、ロシア軍司令部は、マリウポリとネオナチAZOV民兵を包囲していた間に、”非ナチス化”の目標は達せられたと発表した。それから2022年6月はじめ、ウクライナ軍は、装備が破壊された後、西側に助けを求めざるを得なくなった:初めて”非軍事化”の目標が達せられたのである。それ以降、ウクライナは戦争を遂行するために欧米諸国に依存するようになった。
この段階では、ヨーロッパ諸国は自分たち自身のプロパガンダによって、キエフが勝ちつづけているものと確信している。彼らはこの紛争に多大な投資をしたし、後戻りすることはできないのだ。 2022年9月14日、ウルスラ・フォン・デア・ライエンは欧州連合演説で、”今は決断の時であり宥和の時ではない”と宣言した。しかし、ロシアはすでに、この3ヶ月で彼らの目標を達成したのである。
ロシア側は、西側諸国がこの行為において面目を失うことはできないし、自国の [訳注:西側諸国の] 経済状態が悪化しているとは言え、ウクライナをなおいっそう支援し続けるであろうと考え、戦略を変更している。 彼らは計画的にウクライナの潜在能力を破壊することを決定したのだ。
言い換えれば、2022年の夏以来、ロシア軍は作戦区域に入ってくる人的および物的な軍事的潜在力を排除してきた。
ウクライナ軍がロシア軍に奪われた領土を奪還しようと努力する中、ロシア軍は事実、前進する必要はなく、敵を破壊するために、ただ敵を待つだけでよいのだ。このことは、まさに、2022年10月18日に、ウクライナの特別軍事作戦地域の新司令官に任命されたスロヴィキン将軍が言った言葉なのである:
『我々には別の戦略がある。…..我々は高い前進率を目指すのではなく、我々の各兵士を大事にして、前進してくる敵を計画的に紛糾するのだ。』
我々の ”専門家” が軍事的成功を地上での前進キロメートルで測ろうとしているのに対して、ロシア人は打撃を与えた敵の数で測る。
この戦略を履行するために、スロヴィキンはバフムートの都心地区を選んだ。都心地区はロシア軍にとって重要ではなかったが、そこはウクライナの防衛システムの要所であり、ヴォロディミル・ゼレンスキー はバフムートを重要視していた。
ワグネル
中央アフリカ共和国大統領を護衛するために派遣されたワグナネル・グループのメンバー [パブリック・ドメイン]
都市での戦闘はきわめて過酷であり危険である。 戦闘は兵員に集中され、経験を積んだタフで戦闘慣れした戦士が必要とされる。その一方、高性能な装備や重火器を必要としない。
ワグネルは民間軍事・警備会社 (PMSC)で、主にアフリカで活動している。マリや中央アフリカ共和国などの国々は、反政府運動と戦う上で、フランス軍よりもワグネルを好んでいる。 フランス軍が悪いというのではないが、彼らの戦略が必ずしも明確でなく、アフリカ政権の決断の余地をほとんど残さず、地元住民の敵対心を駆り立てたのだ。
ワグネルとであれば、これらの国々は助言を受けながら、自分たち独自の戦略を遂行することができる。 ワグネルのアフリカでの成功は、もちろんフランスのメディアで徹底的に批判され、あらゆる犯罪で非難されている。
2021年10月には、中央アフリカ共和国のシルヴィー・バイポ=テモン外相が、フランス語のTV5Mondeチャンネルで、フランスのジャン=イヴ・ル・ドリアン外相に反論するまでに至った。彼女は彼 [ドリアン仏外相] の”容認できない ” 誤解を招く” 発言を公然と非難し、「中央アフリカ共和国で起こっていることを描写していない」彼のすべての非難を論駁した。
私が知っている、中央アフリカ共和国でワグネルと接触のあった国連職員 (バルト三国)の話によると、ワグネルは非常に高い水準にあり、メディアに描かれているものとはかけ離れた、住民にも高く評価されている存在であるという。事実、中央アフリカ議会がワグネルに感謝の意を示しただけでなく、政府もワグネルの記念碑を建てた。
ウクライナでは、 PMSC [訳注:民間軍事・警備会社] がドネツクとルガンスクの自称共和国で発展し、2014年には早くもドンバス自治政府を助けるために志願兵がやってきた。特別軍事作戦が始まって以来、エフゲニー・プリゴジンはロシア軍と並んで、彼の部下を派遣しようと努めてきた。
2022年10月末、スロヴィキン将軍は、バフムートの敵を破壊するために、ワグネルとの6ヶ月契約を結んだ。 その狙いは、都市の占領ではなく、スロヴィキンの戦略と2022年2月24日にウラジーミル・プーチンによって打ち出された “非軍事化” という最初の目標に沿って、そこで敵を破壊することであった。これが 「ミートグラインダ作戦」であった。
事実、ニューヨーク・タイムズはロシアの戦略を非常によく理解していたようで、2022年11月27日付の記事は、始まりつつあるバクムートの戦いについて言及し、そのことについて明確に説明していた。
『ロシアが領土を拡大する望みは薄らいだ。しかしロシアはまだ、予想される将来の攻撃も含めて、他の優先事項から〔ウクライナ〕軍を退かせることで、バフムート市をキエフの資源集約型ブラックホールへと変じることができる。』【*訳注1】
事実、ヨーロッパのメディアと政治家だけが、何が危うくなっているのかということを何も理解していなかったようである。
ワグネルと国防省との緊張関係
ワグネルは部隊ではなく、ロシアの指揮体系に組み込まれていない。ワグネルは大砲を持たないが、その任務を履行するために弾薬が割り当てられる。2023年2月17日、プリゴジンは、モスクワ司令部がワグネルに十分な砲弾を割り当てないことで、ワグネルの消滅を望んでいると非難した。
英国国防省の情報報告書は、特別軍事作戦の記念日である2月24日以前にバフムートを奪取することの困難さをめぐり、ロシア指導部内に緊張感が漂うのを見たと述べている。西側メディアはこの根拠薄弱な分析をそのまま伝えた。
英国の情報は完全に的外れであり、事実には微妙な違いがある。まず第一に、ウクライナの情報筋によれば、ロシア軍は砲弾の消費量を一日あたり2万発に減らしたという。検証するのは難しいが、これは春に行われるウクライナの大規模な反攻に備えて、ー 前線の両側で ー 準備を進めていたものと説明できるだろう。
この段階でロシア軍は、ドンバス地域に集中していた戦力を前線全体に広げることを目指していた。
これらの主張に対する応答としてロシア国防省は、2日間 (2月18日~20日)のために多連装ロケ砲用のロケット弾1660発と10171発の砲弾をワグナーに割り当てたと言明した。 これは一日あたり800発以上のロケット弾と5000発以上の砲弾になる。
言い換えれば、ワグネルはバフムート防衛区域だけで、ウクライナ全軍が全作戦戦域で保有していたよりも多くの火砲弾薬を一日あたり保有していたことになる!
したがって、プリゴジンの告発は根拠がないように見えたーロシア国防省がワグネルに危害を加えようとしたような形跡はまったくなかったのである。
2023年4月末、6ヶ月の契約は満了し、バフムートで敵を破壊する目標は達成された。したがって、ロシア軍はワグネル部隊に対する砲兵支援と兵站支援をやめて、ワグネル部隊は撤退し正規のロシア軍と交代することになった。
問題は、ウクライナ軍を壊滅させるためにワグネル”音楽隊”が街を一軒一軒と占領していかねばならなかったことである。それで4月末、ワグネルは契約を果たしたのだが、街のごく一部がウクライナの支配下にあった。そのとき、プリゴジンは仕事を終了させて、最後の抵抗孤立地帯を減らして、街の全域を支配することを許可してほしいと求めた。
このことが、2023年5月はじめ、プリゴジンがバフムートを奪取し続けるための手段を与えてくれるように要求したときの心理劇を説明してくれている。プリゴジンのショイグ [ 訳注:ロシア国防大臣] と ゲラシモフ [訳注:ロシア連邦軍参謀総長] に対する悪意に満ちた攻撃的な口調は、西側メディアに、ロシア軍営の内部分裂とモスクワ ”政権” に対する ”クーデター” の可能性についてのファンタジーを抱かせた。
ロシアは西側のプロパガンダを養うような論争を必要としていない。ロシア国防省は、事態を鎮めるため、そして何よりも ”バフムート” ファイルを最終的に閉じるために、ワグネルとの契約を延長することに同意した。契約は、2023年5月21日、都市が占領された翌日に終了し、ワグネルの部隊は作戦区域から撤退した。
正義の行進
同時にロシア軍司令部は、2022年7月以来、布告されてきたウクライナ軍の反攻に対する準備を進めていた。 しかし、反攻はウクライナ軍の消耗のために、計画的に延期された。 実際には、これは2021年3月24日のヴォロディミル・ゼレンスキーの法令に基づいて計画され2022年2月に実行開始され、ロシアの特別軍事作戦の口火となった攻撃と同じものであった。
ロシアのメディア ”Gazeta“ が説明しているように、この反攻に対抗するためにロシア軍は完全に統合された戦闘兵力を必要としていた。 このため、2023年6月10日、国防省は、すべての私的または半独立系の隊形をロシアの指令統制機構に統合するために、それらの隊形を解体することを決定した。
並列軍は解体され、もっとも厳格な垂直の指揮系統が国家軍組織に復活されることになる。これらの民間軍事会社のメンバーは2023年7月1日までに軍隊に統合されることになったのだ。
プリゴジンがセルゲイ・ショイグ国防相とワレリー・ゲラシモフ参謀総長に”直接”会おうとしたのは、このワグネル部隊を解体するとの決定に抗議するためであった。プリゴジンはロストフでは国防相と参謀総長に会えないので、彼は劇的行動に出て、彼らと会うためにモスクワに向かったのである。事実、すべての事柄を考慮に入れると、この行動は、会社を閉鎖するという総括経営陣の決定に腹を立てた従業員たちのアクション以外の何物でもない。人事課に対する抗議として概括することができるだろう。プリゴジン自身がヴォイス・メッセージで、こう述べている:
「行進の目的は、ワグネル民間軍事会社を解散することを許さず、戦中に犯した過ちに対する責任を軍事指導部に問うことだった」。
明らかに、CIAの秘密行動はなかったし、ロシア政府を打倒するというような決意もなかった。ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介のおかげで、プリゴジンは、自分の行動が国際的反響を呼び、彼が予想することができなかった結果をもたらすことに気づき、彼の行進を止めることを決意したのである。
西側の偽情報
西側メディアが直ちに “政権の弱さ”や “政権交代”を主張するナレティヴに突入した理由は、西側諸国の人々がウクライナの反攻に期待をかけていたからである。 実は、我々は2023年のはじめから、ウクライナの反攻がウクライナにとって破滅的なものであり、重要な作戦目的を達成することができないであろう、ということを知っている。このことが、反攻開始についての不確実性を維持することで、ロシア軍内に、ある種のパニックを生じさせて、それが住民に反響して “政権” の崩壊をもたらすという狂気じみた考えを起こさせたのである。
それだから、ワグネルのロストフ進行の最初のニュースが現れた途端、ウクライナのソーシャル・ネットワークは、ロシア軍内の離反によってモスクワの権力が危うくなるかもしれないという混乱した状況を描写し始めたのである。 西側メディアは臆面もなく、やすやすと偽情報と思われたものを報道した。すべてが偽りであることが判明したが、明らかに西側諸国は不安定化戦略がうまくいっているかの如く振る舞っていた。
その結果
明らかに、武装した民間軍事会社による、そのような抗議行動はすぐさま劇的なものへと発展する可能性がある; とはいえ、西側の分析は完全に事を歪めたものだった。フランスのFrance 5 やLCI 、もしくはスイスのRTSなど、ロシアについての陰謀論を売り込んでいることで知られているメディアの主張に反して、これは決してウラジーミル・プーチンや政府に対する行動ではなかった。『プッチ (Putsch)【訳注: 政権奪取を目的とする反乱】』や『クーデター』、『モスクワに対する失敗した蜂起』といった表現はまったく不適切である。
しかし、この出来事がロシアを傷つけたことに疑いはない。なぜなら、この出来事の特性によってではなく、西側のプロパガンダと偽情報に優位性を与えたからである。もっと意味深長なことは、この出来事がウクライナとその同盟国に、約束された反攻がロシアの国内状況にインパクトを与えるかもしれず、このまま同じ方向へと進み続けるのであれば、ロシアの政権交代という目標は手近にあるという感覚を確かに植え付けたことである。
意外な結果は、我々のメディアにおけるエフゲニー・プリゴジンのイメージ・チェンジである。以前はウラジーミル・プーチンの権力の柱とみなされていたプリゴジンは、今、敵対者として出現し、我々のメディアからは好意的に見られている。例えば、米国は、ワグネル・グループに新たな制裁を課さないと決定した。これはワグネルがプーチンの味方になることを恐れたからである。しかもプリゴジンは、2024年の大統領選挙でのプーチンの挑戦者として見られたのだ!
このことは、ロシアとウクライナ内・周辺の危機について、いかに西側の理解度が低いものであるかということを物語っている。実際、ロシアの人々の間ではワグネルの”音楽家たち”の信望が高かったにもかかわらず、プリゴジンの行動に対する支援は広がらなかった。 それどころか反乱は、プリゴジンが、彼自身の行動の大局的観と結果を見る能力がないことを浮き彫りにしていた。彼は、自分の仕事に集中し、戦略的思考する能力のない、衝動的な人のように思われた。
それとは対照的に、ウラジーミル・プーチンは、我々の “専門家たち” が提案する分析に反して、より強くなったようである。明らかに、プーチンは反乱者たちがモスクワに到着するのを防ぐために、ありとあらゆる手を尽くした。衝突があれば、いかなる衝突であれ、西側のプロパガンダを後押しすることになるからである。
ルカシェンコの仲介を巧みに扱い、プーチンは断固とした態度 (テロ対策措置の採用、モスクワへのアクセス道路に塹壕を設置、地域部隊を警戒態勢におく)と 雅量ある態度 (ベラルーシ経由の脱出路を提供)を混合した態度で反応し、事態を沈静化させた。
プーチンの ”反逆罪”についての厳しい口調にもかかわらず、さらに西側の宣伝者 [プロパガンディスト」の主張とは裏腹に、反乱者に対する告発は、刑法第275条 (反逆罪)ではなく、279条(武装反乱罪)に触れるものであり、これは反逆罪よりも軽い罪である、ということに注目すべきである。 ジョン・ヘルマー 【*訳注2】がこのことについて優れたポッドキャストで説明している。
とは言え、ロシア軍が “内戦を防いだ ”との6月27日のプーチン大統領のステートメントは、状況を不必要に誇張していたように思える。 彼はおそらく、この危機における軍隊の役割に重要性を与えたかったのであろうが、彼は同時に、この出来事が示した以上の脆さも示唆していた。
情報機関が、この反乱を予知していたいとの見解についてだが、これは多分、誤りであろう。事実、西側諸国は、ほんの僅かでも政権交代へのかすかな兆候を探ろうと、ロシアの国内状況を注視している。西側諸国のウクライナ支援の究極の目的はロシアの政権交代なのである。
それが、早くも5月に最初のプリゴジンのビデオで、西側の情報機関が、モスクワでのクーデターの可能性を指摘した理由である。しかし、インテリジェンスの方法論の見地から言えば、これらは ”予測” ではなく、単なる作業仮説とシナリオである。
情報機関にとって、ある出来事を予測するということは、結論を引き出すための徴候となるものと具体的な証拠を持っているということを意味する。ただし、ウクライナの情報機関も米国の情報機関もフランスの情報機関も徴候となるような情報を持っていなかったのだが、そのような反乱が起こるかもしれいないという希望だけは持っていたのである。ウクライナ軍事情報機関のメンバーがフランスのチャンネル “France 24“ に語った:
「実は、みんな驚いたのです。どの国際関係者もウクライナやその他の場所で、ロシアにおける権力危機の始まりとなったかもしれないことを利用することができなかったのです。」
このことも、この紛争に対する西側の理解がまったく仮説のみに基づいており、その仮説自体が多くの場合ウクライナの希望的観測に基づいていて、事実に基づいていることが、ほとんどないことを示している。これが、我々がウクライナを敗北へと押しやっている理由なのだ。
エフゲニー・プリゴーギンの決断に西側の関与はなかった可能性が高い。米国はプリゴジンの反乱から距離を置くようにあらゆる努力をしている。
その一方で、西側諸国はこれを “夢”の実現化とみなし、この反乱が内紛となることを望み、事態を刺激したことは明らかである。 チェコのヤン・リパフスキー外相は、彼が休暇をクリミアで過ごすかもしれないとTweetした。 このことは、子どものような振る舞いのほかに、彼がロシアでの出来事の過程について全く何も理解していなかったことを示している。
結局のところ、この状況は、会社の取締役が自分のビジネスを救おうとして、衝動的かつ軽率に行動したこと以外の何物でもなく、事態はウクライナの両陣営の戦闘員にとって劇的な結末をもたらす可能性をはらんでいた。 この危機は、欧米人が期待よりも、事実に従って考え行動することができないことを示している。 ウクライナの人々はこのことを理解し始めている。
ー翻訳終わりー
以上
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【*訳注1】しかしロシアはまだ、予想される将来の攻撃も含めて、他の優先事項から〔ウクライナ] 軍を退かせることで、バフムート市をキエフの資源集約型ブラックホールへと変じることができる。』:「キエフは彼らの軍隊をバフムート市に派遣配置することで、ウクライナ軍が他の優先事項を遂行するのを妨げており、バフムートをキエフの軍隊にとっての “ブラックホール” にしている」という意。
【*訳注2】ジョン・ヘルマー (John Helmer):(1946年生まれ)オーストラリア生まれのジャーナリストで、1989年よりロシアのモスクワを拠点に活動する海外特派員。[Source: Wikipedia]
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion13124:230711〕
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