日本のNATOへの「準加盟」は危険な道ではないか
- 2023年 7月 22日
- 評論・紹介・意見
- NATO中国日本阿部治平
―八ヶ岳山麓から(434)―
日本とNATOの急接近については、6月13日拙稿「八ヶ岳山麓から(429)」で書いたが、岸田首相は7月11,12日、リトアニアのビリニュスで開催されたNATO首脳会議に出席して、NATOとの関係を一段と密接にしたので、ここで再論したい。
岸田首相は、同会議においてロシアに侵攻されているウクライナへの支援継続を確認するとともに、NATO事務総長ストルテンベルグ氏との共同記者発表で「インド太平洋への関心と関与を高めるNATOとの連携を一層深化していきたい」「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と強調した。中国の力による一方的な現状変更の試みに対する西側結束の必要性を強調したのである。ストルテンベルグ氏も「中国の軍備増強や核戦力の拡大を懸念し、注視している」と中国を非難した。
中国がウクライナ戦争を続けるロシアに援助を行っていることが直接の理由であろうが、NATOの対中認識は近年厳しいものになっている。とりわけストルテンベルグ氏は中国を名指しして、NATOやウクライナ戦争について偽情報を広めているなどと非難し、「大西洋地域とインド太平洋地域の安全保障は密接につながっている」と発言した。
もちろん、中国と地理的に離れた西ヨーロッパには、米中対立からは距離を保とうとする考えも存在する。たとえばNATOが東京事務所を設置することについて、フランスのマクロン大統領は「地理は不変だ。インド太平洋は北大西洋ではない」と強調し、反対の立場を示した。
NATOサミットの中国を念頭に置いた共同声明に中国が反発しないはずはない。
外交部(外務省)の汪文斌報道官は12日の定例記者会見で質問に答えた際、「中国はNATOに対し、直ちに中国に対する事実の歪曲とイメージ毀損、嘘の捏造を止め、欧州を混乱させ、アジア太平洋に惨禍と動乱をもたらす危険な行為を止めるよう促す。自らの持続的拡大のための口実探しをすべきではない」と強硬な批判を展開した。
そして「中国はこれまで他国に対する侵略も代理戦争も行ったことはなく、世界中で軍事活動を展開しておらず、他国を武力で威嚇せず、イデオロギーを『輸出』せず、他国の内政に干渉したこともない」と皮肉まじりに、ウクライナを支援する西側の動きを牽制した(「人民網日本語版」2023・07・13)。
ところで、NATO首脳会議の初日7月11日人民日報国際版の「環球時報」は、「NATOサミットの『日本要素』は警戒に値する」という、注目すべき論評を載せた。筆者は中国国際問題研究院のアジア太平洋研究所特別研究員・項昊宇(こうこうう)氏である。
氏は論評で、「国際社会の関心はウクライナ問題に集中しているが、『日本ファクター』も無視できない。 日本の岸田文雄首相は2年連続でNATOサミットに出席し、日本とNATOは急速に緊密化した。それは日本とNATOの関係がさらに 『仮想から現実へ』 『準同盟』の方向に向かって加速することを意味する」という認識を示した。
項昊宇氏は、「ビリニュスでのNATOサミットにおいて、NATO東京連絡事務所構想が進捗するか否か」に注目し、「(これが)実現すれば、NATOと日本の関係が「準同盟」の方向で加速することを意味するだけでなく、『NATOのアジア太平洋化』が大きく前進することになる」 「東京連絡事務所はアジア太平洋地域における最初のNATO支部として、日本の仲介を通してNATOを放射状に広げ、韓国・オーストラリア・ニュージーランド・フィリピンなどとの安全保障協力の強化を含むものである」という。
ここまでは中国共産党の従来の主張の繰り返しである。
12日岸田・ストルテンベルグ共同記者会見と同時に「国別適合パートナーシップ計画(ITPP)」が発表された。これはサイバーや宇宙、AIなどの分野で協力することを明記したものだが、中国がこの分野で研究開発をすすめることを念頭においたものである。
ところが項昊宇氏は、はやくも公式発表以前の11日の論評のなかで、「日本メディアによる」として、同計画の内容を明らかにした。これは日・NATO協力が「海洋安全保障、サイバー、ハイブリッド脅威、宇宙空間、気候変動、新興・破壊的技術(EDT)など、将来の戦争の形を変える可能性のある人工知能、自律システム、量子技術」に及ぶものだという。
氏は日本とNATOは、これによっていわゆる「キラー・ロボット」やその他の高度な無人知能兵器を含む自律型兵器システムのルール確立に関する協議を開始するものとみている。
さらに項昊宇氏は、「平和的発展路線から逸脱した日本が不安定で分断されたアジア太平洋に滑り込むことは、日本を『強く』するものではなく、自国の安全保障と発展のジレンマを深めるだけであることを理解しなければならない」と論評した。
経済的利害関係を通して中国と友好関係にあったドイツを中心とする西ヨーロッパ諸国も、ロシアのウクライナ侵攻以後、中国が安全保障上の脅威になる危険性を感じ、中国に対する見方、構え方を大きく変えてきた。NATOの太平洋進出は、台湾への圧力を強める中国を牽制しようとする日本にとって、都合の良いものであるかもしれない。
項昊宇氏は中国の立場から「NATOのアジア太平洋地域の安全保障問題への関与や、日本の域外戦力の導入による地域紛争や対立の誘発は、アジア太平洋諸国間の連帯と協力の雰囲気を著しく悪化させている」という。わたしも日本の立場からいえば、日本・NATOのやみくもな接近は日中関係をさらに緊張させ、東アジアを分断と紛争に陥れる危険が高いと思う。
日本はアメリカや西欧に比較すれば、はるかに中国と地理的・経済的に緊密な関係にある。中国と厳しい緊張関係にあるアメリカですら、政府高官を中国に派遣して対話のルートを断たないように努力している。
ところが、安倍晋三外交を継承する岸田首相は、対中国外交に有効な手を打たないまま、「中国包囲網」構築を急いでいるかのようだ。相手のあることとはいえ、日本は日中がのっぴきならぬ敵対関係に落ちこむ、その主導者てであってはならないと考える。 (2023・07・15)
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