「岸田政権は台湾海峡で戦争をやるつもりか?」
- 2023年 8月 2日
- 評論・紹介・意見
- 台湾有事阿部治平
――八ヶ岳山麓から(436)――
7月24日中国共産党人民日報傘下の国際紙「環球時報」に、激しい対日批判が登場した。「井野俊郎の挑発的発言には日本政府からの説明が必要だ」と題する社説である。
社説はまずこういう。
「日本の防衛副大臣井野俊郎は、英国メディアとの最近のインタビューで、もし中国が台湾に対して武力行使をした場合、日本は『台湾に何らかの支援を提供する可能性が高い』と発言し、さらに『防衛装備品支援か後方支援かは不確定』と付け加えた」
「日本の現役高官がこのような挑発的な言葉を口にするとはどういう意図だろうか?」 「日本は台湾海峡問題に公然と干渉することを確定したうえでの発言だろうか?」と問い、「これは井野俊郎個人の意見か、日本政府の公式見解か中国に説明せよ」 と迫っている。
井野俊郎氏は弁護士で43歳、防衛省と内閣府の副大臣で、まぎれもなく政府高官である。日本のメディアは井野発言を伝えなかったが、中国外交部(外務省)の報道官もこれに触れたというし、何よりも「環球時報」が問題として取り上げているから、事実とみて差し支えないと思う。
社説はさらにこういう。
「井野俊郎は、今回の発言の本質がどれほど悪質深刻なものであるかがわかっているのか。 これは中国のレッドラインを踏むもので、台湾の『台独』勢力に誤ったシグナルを送るだけの問題にとどまらない。 日本が台湾に防衛装備や後方支援の面で『一定の支援』をすることは、絶対に容認できない。 これは中国の主権侵害に等しく、中国の強力な反撃に直面することは間違いない」
「台湾問題に対する中国の立場は、これまで極めて明確に表明しており、日本はごまかすことはできない。 台湾は中国のものであり、絶対統一されなければならない。どのような方法で統一するかは、台湾海峡の情勢の変化と外部勢力の介入の程度によって決まる。これは中国の内政問題であり、日本やアメリカなど如何なる国家、如何なる勢力も干渉する権利はない」
「平和的統一を最も望んでいるのは、台湾海峡両岸の中国人であることは間違いない。しかし、日本やアメリカなどの外部勢力や台湾島の『台独分子』は結託して、内外から平和統一の環境と条件をあらゆる手段で妨害しようとしており、その結果、台湾海峡は戦争が差し迫った状況に追い込まれている」
昨年11月岸田首相は、カンボジアで開かれた東アジアサミットにおいて、尖閣諸島をふくむ東シナ海での中国による日本の主権侵害を非難し、また8月の中国軍演習中に弾道ミサイルが日本のEEZ=排他的経済水域に落下したことに触れ、台湾海峡の平和と安定も地域の安全保障に直結する重要な問題だと指摘した。
わたしは防衛副大臣の発言は岸田発言の延長上にあると思う。井野発言が「環球時報」の文言通りならば、中国軍の台湾進攻があれば、アメリカはこれを阻止する軍事作戦を展開し、日本は「防衛装備品支援か後方支援」をやる、すなわち参戦すると受けとられてもおかしくない。
環球時報社説は、「日本にはいつもことの軽重を知らない『失言政治家』が現れるが、日本政府の台湾問題でのさまざまな態度表明とそれに関連する行動は、比較的大きな一貫性を示している。これは政治家の『失言』で簡単には済まない。実際の政策路線である可能性が高い」と見ている。
尖閣諸島の場合は、中国軍の上陸といった事態が発生したとき、日本側の反撃によって厳重な損害をこうむる可能性を中国が理解しているならば、上陸作戦はとらない可能性は十分考えられる。
ところが、台湾はそうはいかない。統一のための武力進攻となれば、中国は犠牲はいとわない。台湾は中国の「核心的利益」だからだ。日米が南西諸島にミサイルと自衛隊を配置して「台湾有事」に備えても、中国は統一をあきらめない。日米が軍事力を唯一の抑止力と考えてこれを強化すれば、中国はそれを上回る軍事力を構築する。当然戦争危機が近づく。
環球時報社説は終りにこういう。
「(井野発言が)もし本当に少数の『失言政治家』のホラであるならば、日本が被る損失や危険は小さいかもしれないが、もし東京が間違った選択をしたのであれば、確実に耐え難い代償を払うことになるだろう」
岸田政権は台湾問題については、「軍事力による一方的な変更を認めない」といっているだけで、中国との首脳同士の交流の道を開こうとしない。その一方で高官が「台湾に何らかの支援を提供する」と発言しては、日本は参戦の意図があると見られても仕方がない。
だが、いったん戦端が開かれたら南西諸島は言うまでもなく、佐世保や三沢など本土の軍事基地も中国軍の攻撃対象となる。犠牲と損害は自衛隊・米軍に止まらない。ウクライナ同様に生活基盤が破壊され、多くの人命が失われる。環球時報社説はこれを言っているのである。
井野氏に政府高官としての自覚があるならば、台湾支援は深刻な損害と犠牲が伴うことを日本国民にひろく知らせ、その覚悟をしてほしいとまず言わなければならない。なぜ言わないのか、国民の支持を失うのがこわいからである。
一方、岸田軍拡に反対する側は、戦争にならないような対話外交をという。それはいいが、政府首脳に具体的に何をどうせよと求めるか、まとまった方針がない。
数年前、村の「九条の会」で、中国軍の台湾進攻があったときわれわれはどう対処すべきかを聞いたことがある。ある活動家が「干渉しない、中立」と言った。戦争をしないためには「民主台湾」を見殺しにしても仕方がないという。これには右からの猛烈な非難があるだろうし、台湾人には非情な政策だから国民の支持を得られるかは疑問だが、一つの選択肢だと思う。
このままでは、岸田政権の南西諸島への軍備増強に反対しているだけで時間が過ぎてゆく。台湾海峡の戦争をどう防ぐか、東シナ海の平和を維持するためにどうすればよいか、われわれが具体的な政策を提案すべき時である。 (2023・07・30)
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