中国経済は「日本化=失われた30年」に陥るか
- 2023年 8月 10日
- 評論・紹介・意見
- 中国経済阿部治平
――八ヶ岳山麓から(437)――
2022年、中国のGDPは約121兆元(2,300兆円余り)で日本の約4倍に達した。ところが、経済成長率は実質で対前年比3.0%増と前年(同8.4%増)を大幅に下回り、政府目標「5.5%前後」には達しなかった。消費者物価(CPI)は前年比2.0%上昇と、中国政府の抑制目標「3.0%前後」を下回った (nli-research.co.jp)。
こうした現状から中国経済が長期低迷期に入った可能性を危惧する論調が多くなった。その中で7月28日NHKテレビの中国経済特集は、バブル崩壊後の日本と今日の中国の経済を比較検討し、かなり説得力あるものであった。以下これをわたしの言葉で要約してみる。
若者の失業と就職難
中国の16歳から24歳までの若者の失業率が20%強。実に5人に1人が失業している。原因は新型コロナウイルスの影響などで多くの企業が業績悪化のために採用を絞ったためで、高学歴化が進んだ若者と求人側のミスマッチが生まれている。日本ではバブル経済崩壊の1991年ごろから2003年くらいまでは「就職氷河期」といわれた。中国には20~30年遅れで同じような現象が現れたのである。
不動産業の不振
日本では1990年に土地取引の融資が過大だと見た政府が総量規制を行ったことによって、融資に偏った金融機関が巨額の不良債権を抱えるはめになり、金融危機がうまれ、日本経済は今日まで続く長期で深刻な停滞に陥った。
中国GDPの4分の1を占めるという不動産業の不振は、中国政府が不動産企業への融資や住宅ローンの規制を強化したからである。新型コロナ禍時期の金融緩和のために、不動産市場に大量の資金が流れ込み価格が高騰した。その過熱を抑えるためだったが、薬が効きすぎて債務不履行に陥った企業が相次いでいる。
物価の低迷
景気が低迷する中での物価の低迷もかつての日本に似ている。中国の6月の消費者物価の伸び率は同月対前年比0%と横ばいで、数年前と比べると右肩下がりである。日本のバブル崩壊後の物価も同じように低下している。つまり中国ではデフレが始まったのだ。
人口減少と人口ボーナスの終り
人口動態は雇用・不動産・物価に大きな影響を与える。日本では2011年以降人口減少が続いているが、中国では「大躍進」政策による数千万の大量餓死以来はじめて、2022年に減少に転じた。子供と高齢者の比率が低下し労働力人口の割合が多いことで経済成長が促進される、いわゆる人口ボーナス期が終わった。65歳以上の高齢者は2億人を超え、労働人口が減少し始めた。
この結果、「未富先老」つまり高度成長の利益を受ける以前に、親の介護など将来への不安が生まれ、節約志向が高まり消費を控える傾向が強まった。
では、どうすればよいのか
NHKの解説では、ここから脱するには構造改革を進めて技術革新などを促すこと、つまり生産性の向上が必要ではないかという。技術革新の鍵を握るのは民間企業の活力だが、ここ数年、習近平指導部はIT業界をはじめ、ゲーム業界や教育業界など、さまざまな民間業界への統制を強めてきた。こうした経緯に「政策不況」という指摘もあるという。
「日本型不況」になぞらえる間違い
中国経済を低迷と見るのに反対する見解が、このほど人民日報国際版の「環球時報」(2023・08・01)に登場した。筆者は甬興証券副社長の徐偉鴻氏である。
徐偉鴻氏は、日本のバブル経済の破綻から中国経済を類推するのは明らかに取り違えだという。 その理由は概略以下の通り。
――第一に、中国の都市化はまだ終わっておらず、青山緑水の中西部にはまだまだ開発の余地がある。北京・上海・広州・深圳などの核心都市に牽引された近代的な都市ベルトは国際的な水準に達しているが、中国にはまだ数百の都市と数千の県があり、都市と農村の一体化や、万に上る郷鎮のインフラと生活への投資は完了していない。
それに中国の科学技術の急速な進歩や、インターネット、人工知能、スマートシティ、クリーンエネルギー源の一連の新しい技術の広範な応用のありさまは、中国の地理的な縦深、人口の合理的な分布、格差のある民生福利という点で、日本をはるかに上回る投資の伸びしろがある――
――第二に、「一帯一路」構想の10周年とともに中国経済の国際化は急ピッチで進んでいる。 中国は以前から強力な疫病予防・管理政策の恩恵を受けており、貿易総額と貿易黒字は再び増加し、中央銀行の外貨準備と個人資産はさらに強化され、中国企業のグローバル化と人民元の国際化にとって確かな後ろ盾となっている――
――さらに、海外留学を終えて帰国する若者が増えており、国際的な視野を持つ人材の予備軍も相当なものだ。「メイド・イン・チャイナ」の技術内容はますます高くなっており、自動車などのハイエンド製造業の分野では欧米の先進国に対抗できるようになっている――
徐氏は終りにこういう
「日本はハイテク産業分野でアメリカから独立した大国としての自信を欠き、新型コロナ流行後に生じた貿易赤字をさらに悪化させている。この点で、2022年末の中央経済工作会議が打ち出した『技術-産業-金融』発展構想は、中国経済の再編と高度化、持続可能な発展のための道筋である。 今後、中国企業はグローバル化した市場に直面し、科学技術の研究開発への継続的な投資と成果の転換を通じて、進歩的な現代産業の形成に投資する大きな余地があるのに、どうして『日本型不況』に陥ることがあるというのか」
わたしの感想
将来を予言することは難しい。かつて中国の高度成長期、2010年前後に日本では「中国経済崩壊論」が盛んに論じられた。なかには2014年に中国経済は崩壊し日本は再び世界第2になるといった説もあった(近藤大介氏)。だが崩壊したのは中国経済ではなく崩壊論の方であった。
徐偉鴻氏は、中国経済はこれからも成長しつづけるとして、西北など未開発地域の存在、先端技術の開発、地域間と階層間格差の改善など経済成長を保証する条件があるという。
だが氏は指摘された若者失業率の高さ・不動産業の不振・デフレ・人口ボーナスの終りなどについて言及しない。これを無視しては、中国が「日本型不況」に陥らないというには不十分で、ただの強がりだとしか思えない。たとえば労働人口の減少傾向などは、否応なく今後も中国経済の足を引っ張りつづけるだろう。
もしかしたら中国は一人当りGDPが中程度のレベルに達したのち、経済戦略が転換できずに長期にわたり低迷する「中進国の罠」に陥っているのかもしれない。
地球規模の気温上昇という自然現象ひとつを見ても、中国のような経済大国が成長にこだわる時代はとうに終わっている。われわれは成長妄想から脱却すべき現実に直面していると思う。だが、これには別に議論する必要がある。
(2023・08・05)
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