伊東英朗監督ドキュメンタリー映画 「サイレント フォールアウト」から得たもの
- 2023年 12月 8日
- 時代をみる
- 松井和子
「ある国の単なるお話ではない」
私が歩んだこの8 2 年の歳月に人間がこの地球上に起こした、起こしている取り返しのつかない仕業・行いを、その映像を通して私は観ていた。
親を兄弟を子を病に至らせ失った叫び・哀しみ、そして危険だという事実を知らされなかった憤りが、かつて私が障害児教育に携わっていた時の母親たちの哀しみ・苦しみと重なって、涙が止まらなかった。
実証は難しい。様々な公害や農薬使用による弊害も加わっているだろう。近年私たちが暮らす環境は、便利さや技術の進歩とともにかつてないほどに変化した。私たちが抱える病の原因のほとんどはその環境にあると専門家たちも認めているように変化しているのだ。
私の障害児教育現場での経験とは、1970 年頃の衝撃に始まる。
右耳を乳児の時に痛め、病弱でもあった私は、近所の病気の子や学校に行っていない知的障害の人に関心を持って育った。そんな子どもたちのための仕事をしたいと思っていた。盲・聾と違って、知的障害はずっと遅くまで教育から外され、日本が全員就学を認めたのは1979 年、国際障害者年に押されてのことである。
その10 年ほど前、勤めていた小さな養護学校(今の支援学校)に‟異変”が起こった。入学してきた子どもたちは、それまで会ったこともないような子どもたち・・・。入学を祝ってきれいに飾りつけた私の教室は、入って来た子どもたちが黒板のチョーク受けや戸棚・本棚の上に軽々と登り、飾りはちぎられて飛び散り、椅子はひっくり返され奇声が飛び交った。
それからの日々、トイレにペーパーが突っ込まれ水が溢れ、スクールバスが動いてあわやとなって学校の横を流れる川のフェンスで止まり、運動場で遊んでいた子の奇声とパニック原因がそこから見えもしない校務員室のテレビスイッチOF F など、初めての対応に追われた。通勤の車は動かないよう必ずブレーキのギアを忘れないよう心掛けた。原因がわからないとされた自閉症・情緒障害、重度の言語障害、ダウン症、小頭症、水頭症の子たち。こうしたことは全国に起こっていた。東京に「情緒障害児学級」が新設されたのは1969 年だった。子どもたちに合わせての教材づくりや教育実践に同僚たちと取り組んだ。
何故だろう? 子どもたちの家庭に特別な変化などはなく、親たちの意識は健常児の親たちより高く熱心な人が多かった。それだけ日々苦労し工夫をしながらの生活だった。嫁ぎ先から離婚を迫られたり、子どもを連れての自殺を考えたと、多くの親が話してくれた。
私が子どもの頃に付きあっていた障害を抱えたお兄ちゃんとも違う、何故? 何故だという疑問は付きまとい、海外研修のある指導主事の話などから、アメリカではもっと早く、10 年も前から、そうした障害が見られていたことを知った。関連の本を探し求めた。
「・・・政府にとって不利となるデータを見つけ出し、そのことを大々的に公表する科学者に対し、政府がこれほど速やかに罰を与えるといった科学研究分野は、かつて存在しなかった」(クリストファー・ノーウッド著綿貫礼子・川村宏訳『胎児からの警告』)と書かれていたように、アメリカでは多くの研究者が仕事を妨害され、研究費を止められていたこと
や自閉症児に対して電気ショック療法が行われていることも知った。
伊東英朗監督「サイレント フォールアウト」との出会いは、そんな過去の経験を私に蘇がえらせたのだ。
12月3日岐阜市繁華街・柳ケ瀬の映画館岐阜CINEXCINEXで行われた上映と監督トークの会には、入場券が売り切れになるほどの多くの人が観に来てくれた。
鑑賞した人たちの感想文をここにご紹介したい。
いま中東で起きているガザ地区の人びとへの虐殺行為にも見られるように、人間の行為が、一人ひとりのかけがえのないいのちや発達を奪っている。
自国の利益優先や巨大化した軍事・科学技術が起こしている、あってはならないことだと考える。それが自然の秩序をもゆがめ、生態系を破壊している。
感想文にもあるように、事実を知り考え、これからの行動に繋げたいと願った。
2023年12月3日(日)10:00~13:00
岐阜CINEX (岐阜市柳ケ瀬日ノ出町2-20)
伊東英朗監督ドキュメンタリー映画「サイレント フォールアウト」
<感想文>
10代:
・私は高1で、放射線のことは他人事だとずっと思ってたけれど、今日映画を観て、よく考えなければならないと思いました。図書館にも行って、昔の話を見てみたいと思います。(10代 女性 チラシで知った)
・この映画を観て、初めて知ることが本当に沢山ありました。学校で習わないことで、自分がどんなにか無知だったかを知らされました。
まだ若い自分にできることは少ないかもしれないけれど、何かアクションを起こしていけたらなと思います。 (10代 女性 チラシで知った)
30代:
・興味深く鑑賞しました。監督の長い期間にわたる戦いを考えると胸が詰まるし、この国に失望する想いが強くなりました。「当事者」であるということを認識しろというお言葉、これからも受け止め、核、放射能について考えていかなければならないと考えるきっかけをもらえました。今回の件のみならず、「知らないうちに色々なことが起こっている」のは、国が情報を国民に与えていない(意図的)ということもあるのかなと、そうであれば深刻なことだと再確認しました。ありがとうございました。(30代 男性 友人から)
40代:
・トークショーでより学びと気づきが深まりました。牛乳やミルクには懐疑的でしたが、アメリカとの関係の謎が解けました。アメリカでは一般女性の動きが大統領をも動かしたということに勇気をいただきました。自分も当事者意識を持ち、行動に移していきたいと思います。 (40代 女性 友人から)
・放射能は普段から少し気にしており、食材などを選んでいましたが、乳歯検査の活動など全く知らないことばかり。キューバ危機のケネディ大統領を動かした理由になっていたことも。国民はいつもモルモットなのは思っていますが、リアルなドキュメンタリーで改めて実感しました。私も一人の母親としてあきらめたくないです。この映画をつくってくれた伊東監督に感謝です。
(40代 女性 友人から)
60代:
・大変勉強になりました。監督の「我々は皆被曝者だ」という言葉が残っています。この映画から何かが始まる、始まりだとも思いました。
(60代 女性 友人から知った)
・よかった。当事者であったのだ。 (60代 男性 チラシから)
・広島・長崎も実験のために投下したのだと強く思いました。本当にひどい!!
戦後生まれでも被曝者である。自覚させられました。
(60代 女性 チラシから)
・人間の力で制御できない原子力の核の怖さをまざまざと見せつけられたと思います。 (60代 女性 友人から)
・アメリカでも、こんな恐ろしいことが起こり、まだ問題が続いていることを知り、驚きました。アメリカだけでなく世界中の自然がこんなに恐ろしく壊されつつあるなんて、自分を含め人間って愚かだなと思いました。今、出来ることをやらなければ!! (60代 女性 友人から)
・放射能、核実験が怖いということは周知のことだと思います。しかしこの映画を観て、次世代まで関わらなくてはいけないという事が如実にわかり、すごく怖いなと思いました。自分の身近にマグロ漁船の人がいると思いました。孫、その次の世代まで大変なことだと思いました。(60代 女性 友人から)
・自主上映会で若い人たちにもこれからの問題として観てほしいと感じました。広く「サイレント フォールアウト」実行委員会をつくって、岐阜市内の人びとにと思います。孫の乳歯を提供していますが、アメリカの国の数字をつけて、ストロンチウムの数値を母親たちに届けてはどうでしょうか。
(60代 女性 友人から)
・映画も伊東監督のお話も、期待以上のものでした。連れ合いも出掛けられて本当によかったと言っております。
「放射線を浴びたX年後」をいただいて帰り、二人で読みました。伊東監督の言われた「被曝した漁船乗組員の方々の仇をとりたくて映画を撮りました」という言葉がよくわかりました。上映会のご案内をいただきましたこと、感謝いたします。 (60代 男性 友人から)
70代:
・核実験の被害を検証するために、母親たちが乳歯を集める運動を始め、大きな力になった事実をもっと知るべきですね。そして現在も続く核被害に対して、もっともっと運動を広げ、大きくしなくてはならないと思います。
この映画をもっともっと多くの人に観てもらいたいと思いました。映画の上映をありがとうございました。 (70代 女性 チラシで知った)
・原発敦賀に近い岐阜県、「いつ」と恐怖を持っています。今の政府は動かないどころか、原発加担、増産で、太陽エネルギーは無視。軍備のための原発。
何とかまわりの人、特に「アメリカ」に先頭に立ってもらい、アクションを起こしてほしい。それが世界中の人が考えるきっかけになると思います。
(70代 女性 友人から知った)
・当事者意識で考えたいと思います。ありがとうございました。
(70代 女性 友人から)
・この映画は、アメリカだけのことでなく、日本にとっても原爆の恐ろしさを体験している国にも通ずることであると思います。私は広島市外(現在の三原市)で1944年に生まれました。私の姉は8歳年上ですが、当時9歳ころ「きのこ雲」を見たと言います。その姉が70歳の時、同窓会で7人の人が甲状腺がんになっていたことがわかりました。もれなく私や姉もその一人でした。多分、黒い雨や風で、遠い投下以外の地で受けたのだと思います。東北の人たちの子どもらの50~60年後が心配です。日本もこの憤りは同じです。“平和”を願い続け9条を守り続けたいと思います。日本の母親運動は平和の力になると思います。世界の平和を願いつつ! (70代 女性 友人から)
・大変な世の中です。日本中、世界中の人々がこの記録映画を観て、今一度、これから今から問い直していけないか。考えていく必要があると思いました。
(70代 女性 友人から)
・とても良い作品でした。核実験で多くの被害が出ていたことは知っていました。しかし、実際はその被害がすごいものであったという一端を知りました。それでも原発を増やそうとしている現実を考えると恐いです。大勢の人にこの映画を観てもらい現実を知ってほしいと思います。まず知ることから始まると思います。ありがとうございました。 (70代 女性 ネットから)
・アメリカで核実験による放射能汚染で被爆者がたくさんいたということは聞いていましたが、具体的にどんな被害が出ていたのかはほとんど知りませんでした。こんなにひどい被害が出ていたことを知り、大変驚きました。イギリスの軍関係者の被曝の被害状況も知ることができ、そんなにひどかったのかとショックでした。日本でもこれ以上の被曝、被害を受けているということを日本の多くの人びとに知ってもらいたいと思います。伊東監督のお話を聞いて、そのことを強く思いました。「地球上のすべての人が被曝者であるという認識を持つことが大事」と監督が言われました。原発と核廃絶の運動を進めていく上で、とても大事なことと思いました。売れなかった牛乳が日本に行った、日本の缶詰がアメリカに行ったの話もその通りだと納得しました。1954年1月以降のマグロをすべての日本人が食べていること、初めて教えてもらいました。ラスベガスの砂埃の話も怖い! 岐阜のみなさま、上映会の企画をしていただき、本当にありがとうございました。 (70代 男性 友人から)
・1946年生まれの私は、アメリカ・ネバタ州、太平洋などで原爆・水爆実験(1001回)がなされていたことは報道で知りました。アメリカ以外にロシア、フランス・・・も。1945年の広島・長崎の原爆投下でアメリカはその悲惨さを知っていたはずなのに、アメリカ人そのもの、世界中の人びとを被曝、汚染して、その怖さを知らせることなく、実験を続けていたなんて、考えられない、アメリカは世界の中で優位を保ちたいがために・・・。2011年東北震災(福島の問題)があったにもかかわらず、日本の政府は原子力発電を60年まで使う。CO2を出さない、環境のためにいい、地球温暖化防止のために・・・と。核兵器・核の傘の下に守られているとか、核抑止力とか言って・・・。核保有国に世界中が脅され、いのちの危険にさらされている。「全ての人が放射能のリスクを抱え、被曝者であると」認識しなければいけない」という監督の話を聞き、「原発を止めよう」と行動しなければと強く思いました。核兵器禁止条約の締結を! ありがとうございました。 (70代 女性 友人から)
・とても良いことをしておみえです。若者にも広がるといいと思います。
(70代 女性 友人から)
80代:
・衝撃的でした。しっかり伝えていかなければと強く思いました。このような映画を作り、上映してくださり、ありがとうございました。
(80代 女性 友人から)
・全く知らないことが多く、衝撃的でした。まわりに知らせることは大事だ。それ以外に何ができるか? 劇場が満席だったこと、一つの希望です。
スタッフの皆さん、ありがとうございました。
(80代 男性 チラシから)
・非常に貴重な映画です。こうした事実をもっともっと多くの人に知らせる必要があると思いました。政府が力のない国民を犠牲にするというのは、どこの国でも同じなのですね。我々国民ももっと勉強して、力を蓄えなければと痛切に思います。それにしてもアメリカの女性たちの行動は素晴らしいです。
(80代 女性 チラシから)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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