《NHK文書開示請求訴訟》判決言い渡し法廷と報告集会のご案内
- 2024年 2月 15日
- 評論・紹介・意見
- NHK文書開示請求訴訟澤藤統一郎
(2024年2月14日)
《NHK文書開示請求訴訟》の判決が今月20日(来週の火曜日)に迫っている。
判決当日の予定
2月20日(火)
14:00 判決言い渡し(東京地裁415号法廷)
傍聴券配布も抽籤もありません。
直接、地裁4階の415号法廷にお越しください。
15:00~17:00
判決報告集会(於:日本プレスセンタービル10Fホール
裁判所から間近・千代田区内幸町2-2-1)
(15:30 記者会見(於:裁判所2F司法記者クラブ記者会見室)
《NHK文書開示請求訴訟》とは
◎ この訴訟の原告は、NHKを行政のくびきから解放して、独立したジャーナリズムに育てようという、壮大な志を持つ市民運動に携わってきた114名。被告は、NHKと現職の経営委員会委員長・森下俊三。
NHK運営の透明性を確保し、視聴者への説明責任を全うさせようという情報公開請求なのですが、その実質において情報公開を妨害してきた被告森下の法的責任と森下を任命した安倍晋三・菅義偉の政治責任を問う訴訟となっています。
◎ 原告の主たる請求は、「第1316回経営委員会(2018年10月23日開催)議事録」の全面開示です。併せて、議事録の正確性を検証するために不可欠な録音データの開示も求めています。形式的にはその開示の義務は被告NHKにありますが、実質的にその義務を妨げているのは被告森下の責任であるというのが原告の主張です。
◎ 議事録開示を求めている「第1316回経営委員会」では、経営委員会が当時のNHK会長上田良一氏に、口頭での《厳重注意》を言い渡しています。その表面上の理由は「ガバナンスの不徹底」「視聴者目線に立っていない」という名目ですが、経営委員会は明らかに外部勢力と一体となって、NHKの番組制作現場に圧力をかけたのです。だから、この部分については、放送法が命じている議事録の作成も、その公表もなかったのです。
◎ この訴訟の第1回口頭弁論期日(2021年9月)を報告する原告団ニュース冒頭の大見出しが、「番組妨害・議事録隠し・放送法違反の森下俊三氏が経営委員長の職に留まることを許さない」というものです。このよくできたスローガンが、原告・弁護団の一貫した合い言葉です。
◎ ことの発端は、2018年4月に、NHKの看板番組「クローズアップ現代+」が「日本郵政のかんぽ生命不正販売」を取りあげたこと。この番組が、日本郵政の不興を買って、制作現場のみならずNHK執行部までもが、日本郵政グループの上級副社長であった鈴木康雄氏(元総務次官)を先頭とする攻撃にさらされました。
このとき、防波堤となるべき経営委員会は、あろうことか、日本郵政側に立って番組制作現場とNHK会長を攻撃したのです。経営委員会がした「会長厳重注意」はその番組攻撃の一端でした。
原告らはこの事態を看過しがたく、経営委員会議事録の完全開示を求めて本件提訴に及んだのです。そうしたら、「議事録のようなもの」が提出されました。しかし、明らかに正規の議事録としての手続を踏んだものではなく、その記載内容の真偽を確認する術もありません。反訳の元となった録音データの提出を求めたところ、都合よく「既に消去した」というのです。誰が、いつ、なぜ、どのように、消去したとは言わずに、「ともかくデータを消去した。現在存在しない」とだけ言います。到底信じがたく、この録音データの開示も、判決の重要テーマとなっています。
◎ 経営委員は、内閣総理大臣が任命します。12人の経営委員が経営委員会を構成し、NHKの最高意思決定機関となります。経営委員会はNHK会長の選任・罷免の権限をもち、NHKの執行部は制度上経営委員会に従わざるを得ません。
NHK執行部には、経営委員会議事録の開示や公表を拒否する動機は考えられず、また、経営委員会の意向を確認せずに独自の判断で開示することができようはずもありません。議事録開示の拒否も遅滞も、そしてNHKホームページへの公表をしないのも、すべては経営委員会の意向であることが明らかです。
◎ 下記は原告最終準備書面の末尾です。
「放送法33条1項は経営委員の任期を3年とし、同2項が「委員は再任されることができる」としている。被告森下俊三の経営委員任期は以下のとおり3期に及ぶ。第1期と2期とは内閣総理大臣安倍晋三の任命によるものであり、3期目は菅義偉内閣総理大臣の任命である。
①(第1期)2015年3月1日に就任、任期は2018年2月末日まで
②(第2期)2018年3月1日に再任、任期は2021年2月末日まで
③(第3期)2021年3月1日に再々任、任期は2024年2月末日まで
また同被告は、第2期再任直後の2018年3月13日経営委員長代行者に就任し、翌2019年12月24日には経営委員の互選により経営委員長に就任して今日に至り、2024年2月末日まで経営委員長の任にあることを予定されている。
被告森下の4期目の再任は考えがたく、2024年2月末日が経営委員3期目の任期末であり、同時に経営委員長の地位も終了するものと考えられる。
被告森下の経営委員長在任中の2024年2月末までに、経営委員としての、また経営委員長としての責任を明確にする貴裁判所の判決の言い渡しを求める。」
以上の最終準備書面を陳述したのが、2023年11月21日。判決期日は、3か月後の24年2月20日に指定され、森下俊三は現役の経営委員会委員長として、この判決を聞くことになりました。
判決予想パターンと評価の基準
◎請求の趣旨
Ⅰ 被告NHKは原告らに対し、下記各文書をいずれも正確に複写(電磁的記録については複製)して交付する方法で開示せよ
1.放送法41条及びNHK経営委員会議事運営規則第5条に基づいて作成された、下記各経営委員会議事録(「上田良一会長」に対する厳重注意に関する議事における各発言者ならびに発言内容が明記されているもの)
①「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月 9日開催)
②「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)
③「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
2.下記各経営委員会議事録作成のために、各議事内容を録音または録画した電磁的記録。
① ~ ③ (同上)
Ⅱ 被告らは連帯して各原告に対し各金2万円ならびにこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え
◎請求の要約
対NHK ※開示請求 議事録(A) 録音データ(B)
※2万円の債務不履行損害賠償請求(慰謝料+弁護士費用)(C)
対森下俊三※2万円の不法行為損害賠償請求(慰謝料+弁護士費用)(D)
◎判決の予想パターン
Ⅰ 予想される判決(主文)の内容
対NHK ※議事録開示請求(A)
作成されていなく、結局不存在として請求棄却もあり得る
⇒その場合、議事録作成義務(法41条)違反の責任が問題となるが、
その責任主体は経営委員長。NHKの責任を認定するかは微妙。
※録音データ開示請求(B)
データ消去の主張・挙証不十分として請求認容の可能性大
※損害賠償請求(C) 認容か棄却かは微妙。理由に注目。
対森下 ※損害賠償請求(D) 請求認容あって当然。
Ⅱ 判決理由における注目点
✦「経営委員会議事録」「録音データ」の各存否に関する判断理由
✦経営委員会議事録不作成の経営委員長・NHKの責任についての説示
✦議事録不作成の動機としての32条2項違反にどこまで踏み込むか
✦被告森下の法的・道義的責任にどこまで言及するか。
◎判決評価の基準
✦提訴段階では、「会長厳重注意」の議事内容を確定することが主目的だったが、
訴訟の性格が、《議事録開示請求訴訟》から《森下の責任追及訴訟》に変化。
✦いま最大の関心事は、判決が被告森下らの「ガバナンスに名を借りた番組制作への介入」批判にどこまで踏み込むか、ということ。
✦形式的には、主文においてAはともかく、B+C+Dを獲得できれば、「画期的勝訴」と言ってよい。また、Dの認容あれば「勝訴・政治的勝利」というべきだろう。
《NHK文書開示請求訴訟》経過と概要
原告 受信契約者(視聴者) 114名
被告 NHK(形式上の被告)
森下俊三(責任追及対象としての被告)
Ⅰ 提訴前の経過(2018年)
04月24日 「クローズアップ現代+」「かんぽ生命の不正販売問題」放映
07月07日 同月14日 NHKネットに続編制作のための被害情報募集動画掲載
07月11日 郵政3社社長連名での会長宛抗議文
08月02日 郵政3社社長連名での会長宛動画削除要求書
08月03日 NHK8月10日放映予定の続編延期を決定
被害情報募集の動画掲載を取りやめ
(「金融商品トラブル」番組でかんぽ生命不正販売を取りあげる予定が発覚)
09月25日 郵政の上級副社長鈴木康雄 森下を訪問
10月05日 日本郵政から経営委員会宛に抗議文
10月23日 1316回経営委員会 上田会長厳重注意
10月25日 同月30日に予定されていた「金融商品トラブル」番組内での
「かんぽ生命不正販売」問題放映をカットする決定。
Ⅱ 提訴前の経過(2019年)
09月26日 毎日新聞朝刊が、1面トップで「NHK経営委 会長を注意」の記事
09月30日 毎日新聞続報「『厳重注意』議事録なし」の記事
「『かんぽNHK問題』野党合同ヒアリング」の連続開催
① 10月3日(出席経営委員・森下俊三、甲6)「議事録は作っておりません」
② 10月4日(出席経営委員・高橋正美、甲7)「探したが議事録はない」
③ 10月8日(出席経営委員・森下俊三、甲8)「議事録はない」
④ 10月15日
⑤ 10月16日(出席経営委員・森下俊三、甲11)「議事録はある」
⑥ 2019年10月30日
⑦ 2019年12月24日
09月11日 衆議院予算委員会 議事録ないことを前提の質疑(甲9)
09月15日 NHKのサイトに若干の書き足し修正
Ⅲ 先行する開示の求めに対する審議委員会答申
2020年05月22日 797・798号答申 「開示せよ」→従わず
2021年02月04日 814・815・816号答申 「開示せよ」→従わず
Ⅳ 訴訟の経過
(※裁判所、◎原告、✰被告NHK、★被告森下、✰★形式NHK・実質森下)
◎2021年4月7日 文書開示の求め(これに対する2度の延期通知)
◎2021年6月14日 第1次提訴(原告104名・被告2名〈NHKと森下〉)
a 被告NHKに対する文書開示請求
開示請求対象文書の主たるものは、下記経営委員会議事録の未公開部分
「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月 9日開催)
「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)上田会長厳重注意
「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
b 被告両名に対する損害賠償請求(慰謝料・弁護士費用、原告1人各2万円)
✰★同年7月9日 「3会議の議事録(のようなもの・粗起こし)」を開示
◎同年 9月16日 第2次提訴 (原告10名・被告2名)1次訴訟に併合
☆同年 9月15日 被告NHK答弁書(現時点では対象文書は全て開示済み)
★同年 9月21日 被告森下答弁書(不法行為はない、請求棄却を求める)
◎同年 9月23日 原告 被告NHKに対する求釈明
◎同年 9月24日 原告 甲1の1~4 NHK開示文書提出
※同年 9月28日 第1回口頭弁論期日(103号)
(西川さん・長井さん・醍醐さんの原告3名と代理人1名の意見陳述)
☆同年 12月3日 被告NHK準備書面(1)「現時点で、所定の議事録作成手続は完了しておらず、放送法41条の定める議事録とはなっていない」
★同年 12月3日 被告森下 準備書面(1) 「本件各文書はいずれも開示済」と言いつつも、「粗起しのもので、適式の議事録でない」ことを自認。
★同日 被告森下丙1~32号証 提出
◎2022年1月12日 原告第1書面(被告森下の求釈明に対する回答)提出
☆同年 1月17日 被告NHK 乙1(放送法逐条解説・29条部分)提出
※同年 1月19日 第2回口頭弁論期日(103号)
★同年 2月28日 被告森下 準備書面(2)
◎同年 3月 2日 原告第2準備書面
◎同年 4月 7日 原告第3準備書面
☆同年 4月22日 被告NHK 準備書面(2)
★同年 4月22日 被告森下 準備書面(3)
※同年 4月27日 第3回口頭弁論期日(103号)
◎同年 4月28日 原告第4準備書面(求釈明)
★同年 6月14日 被告森下 準備書面(4) (電磁記録は消去済みである)
☆同年 6月21日 被告NHK 準備書面(3)
◎同年 7月 1日 原告第5準備書面(求釈明)
※同年 7月14日 進行協議
★同年 8月22日 被告森下準備書面(5) (求釈明に対する回答)
☆同年 8月25日 被告NHK 準備書面(4)
◎同年 8月30日 原告第6準備書面
※同年 9月 6日 第4回口頭弁論期日(103号)
☆同年 10月14日 被告NHK 準備書面(5)
★同年 10月14日 被告森下準備書面(6)
◎同年 10月16日 原告請求の趣旨の変更(縮減) 開示請求文書の特定。
議事録(未公表部分)と録音データ。以後、録音データの存否が主たる争点に。
◎同年 10月16日 原告第7準備書面
※同年 10月26日 進行協議(415号)
◎同年 11月16日 原告第8準備書面
★同年 12月13日 被告森下準備書面(7)
☆同年 12月14日 被告NHK 準備書面(6)
◎同年 12月20日 原告証拠申出書
※2023年6月7日 口頭弁論(人証調べ)期日 中原・森下・長井 尋問
◎同年 7月4日 原告・追加の証人採用についての意見
※同年 7月10日 Web進行協議
◎同年 8月2日 原告第9準備書面 甲4~12
★同年 8月7日 被告森下準備書面(8)
※同年 8月9日 Web進行協議(裁判所・原告の挙証責任論に同意の心証を開示)
★同年 9月12日 被告森下準備書面(9)丙39~41提出
◎同年 9月21日 原告第10準備書面提出
※同年 9月28日 Web弁論準備期日
◎同年 11月14日 原告第11(最終準備書面)提出
※同年 11月21日(火)10時15分~ 103号法廷 口頭弁論期日・結審予定。
※2024年2月20日 判決言い渡し 415号法廷 その後記者会見と報告集会
初出:「澤藤統一郎の憲法日記 改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。」2024.2.14より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=21395
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13557:240215〕
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