学者の共産党批判と党理論幹部の反批判をめぐって
- 2024年 2月 27日
- 評論・紹介・意見
- 共産党民主集中制阿部治平
――八ヶ岳山麓から(462)――
はじめに
この2月21日、共産党の機関紙「しんぶん赤旗」は、党理論委員会事務局長・谷本諭氏の「共産党を論ずるなら事実にもとづく議論を――中北浩爾氏の批判にこたえる」という論文を掲載した。これは中北浩爾・中央大教授(政治学)の共産党批判、とりわけ東京新聞のインタービュー記事(2024・02・11)に対する反批判である。中北氏は、『日本共産党—――革命」を夢見た100年』(中公新書 2022)の著者である。
谷本氏の反批判は、一口でいえば、「“日米安保条約容認の党になれ”“民主集中制を放棄せよ”――つまるところこれが、中北氏が現在わが党に対して行っている主張である」というものである。
日米安保条約と国民連合政府の関係
野党連合政府と日米安保条約の関連について、中北浩爾氏はこう語った。
「野党連合政権を目指すなら、日米安保の容認など大胆な政策の柔軟化が必要だ。(共産党との共闘を否定する)国民民主党だけでなく、立憲民主党も外交・安保政策の違いを共闘のネックとしている」
「2015年に共産党が安保法制廃止を目指す『国民連合政府』を打ち出し、野党共闘のきっかけを作ったが、現在は行き詰まっている。当時、(共産党は)『市民と野党の共闘』を掲げて『柔軟路線』を取り、多くの人々が期待した。しかし、共産主義に基づいて革命を起こすという方針と矛盾しない範囲での柔軟化にとどまり、日米安保条約の廃棄や民主集中制といったコアを変えなかった。党大会で22年までに野党連合政権を樹立するという目標を立て、実現しなかったのに、その責任を誰も取らなかった」
これに対する谷本氏の反批判は、「安保法制廃止、米軍辺野古新基地建設中止などの緊急課題で共同を強めることと、日米安保条約廃棄の世論を多数派にするための独自の努力をはかることとは、何の矛盾もないどころか、双方を追求してこそ、それぞれが推進されることを、大会決定で詳しく明らかにしている」というものである。
わたしには、この反批判はやや的はずれではないかと思われる。中北氏は立憲民主党が日米安保体制を容認している現状では、日米安保条約廃棄を主張することは連合政府樹立の障害になる、谷本氏のいう「双方の追求」では、国民連合政府の実現は不可能であるといっているのである。
そもそも共産党は、2000年の第20回大会で日米安保と自衛隊の廃棄・解消に関して、第一は日米安保体制と自衛隊の存在する段階、第二は安保条約廃棄の段階、第三は自衛隊解消の段階の3段階を想定した。中北氏だけでなく自公政権に反対する人々は、現状すなわち第一段階では、共産党は日米安保体制の廃棄は表立っては唱えず、自衛隊の海外派遣とか新安保体制に反対するレベルにとどめるものと理解し、立憲民主党を主体とする、共産党を含めた国民連合政府を期待したのである。
除名問題と民主集中制
中北氏は、「昨年の(松竹伸幸・鈴木元)2党員の除名処分、1月の党大会では、除名に関して控えめに問題提起した神奈川県議大山奈々子氏を大勢の代議員の前でつるし上げ、人格攻撃を加えた。組織ぐるみのパワハラだ」としたのち、こういう。
「なぜこういうことが起きるのか。党内のことは党内で解決するという『民主集中制』が原因だ。党指導部が絶大な権力を持ち、異論を唱える党員を『支配勢力に屈服した』と糾弾する。『分派を認めない』といった党規約の解釈権も党指導部が握り、(異論に)反共の烙印を押して排除する。共産党は立憲主義を唱えているが、党内にも権力制約原理を導入すべきだ」
これに対して谷本氏は、まず松竹除名再検討を求める大山県議の「発言内容」には、党を除名された元党員の問題の政治的本質が、「安保容認・自衛隊合憲に政策を変えよ」「民主集中制を放棄せよ」という支配勢力の攻撃への屈服にあるということへの無理解があった、とした。そして、(大山県議が)それをもとに、「除名処分を行ったことが問題」だというのは重大な問題であって、だから「結語」で厳しい批判を行うことは「あまりにも当然のことだ」というものだった。
わたしは、「除名問題」に対する世間の悪印象を無視して「あまりにも当然」というのは、あまりにも無理解だと思う。赤旗報道によると、大山県議は松竹氏の本を読んでいないといいつつ、「除名そのものが世間に悪い印象を与えたから再検討するべきだ」と発言した。
これに対して現委員長田村智子氏は、大会の「結語」で大山県議を「党員としての主体性を欠き、誠実さを欠いた発言」とか「節度を欠いたもの」と非難した。ほとんど「革命の同志」の資格なしという激しいものだった。これから大山県議は共産党の県議を続けていけるだろうか。
そもそも松竹伸幸氏の著書を読む限り、氏は、安保容認・自衛隊合憲論を第一段階の国民連合政府の話にとどめ、綱領と規約を守るといい、共産党の「基本政策を安保容認・自衛隊合憲に政策を変えよ」「民主集中制を放棄せよ」とはいっていない。
社会変化と民主集中制
さらに、中北氏は共産党の衰退原因として、第一は共産主義の魅力の喪失としながら、次いで「昔ながらの民主集中制」をあげる。
「自由で公正な党首選挙を行わず、(党指導部の)前任者が後任者を推薦して承認する方法では自己改革が難しい。世の中はリベラル化しており、社会のさまざまな組織の形も(上意下達の)軍隊調ではなく、フラットなネットワーク型に変わってきている。にもかかわらず、組織論は1960〜70年代のままだ。自由で開かれた党組織に転換しなければ、若年層は入ってこない」
これに対する谷本氏の直接の反批判はない。ただ谷本氏は、「わが党が民主集中制の原則を守ることのどこが問題なのかを、正面から明らかにすべきであろう」といっているだけだ。わたしには、中北氏はすでに民主集中制の問題点を指摘していると思えるのだが。
おわりに
中北氏には、見過ごせない発言がある。
「一般にはなかなか見えないが、(共産党の)実態は代々木(党本部)の専従活動家からなる官僚制が支配しており、その上に立つ党指導部は硬直的だ」というものである。
谷本氏はどういうわけかこれを無視した。いや、あえて取り上げなかったのか。
共産党の組織原則は、支部・地区・県などをまたいだ全国的な自由な意見交換を許さない仕組みになっている。だから一般党員のもつ知識・情報は限られ、政治路線の決定に参加することはできず、幹部集団だけが全国情報を独占して政治的決定権をもち、自己を党そのものと考え発言し行動する。
一方、組織が日常的な民主主義を欠いたとき、思いがけないほど幹部集団の権威は高まり、彼らが提起する政治路線は、ほとんど疑念を抱かずに、おおかたの一般党員によって受け入れられる。この数十年、20余万の一般党員は政党活動家というよりは、党外から見れば、機関紙拡大要員であったが、今後もそれが受け入れられて続くらしい。
一方、共産党に限らず、一般的に官僚や専従者は保守的である。地位の維持・昇進のさまたげになる組織体制や政治路線の変革は望まない。幹部集団が党員による党役員の直接選挙・定年制・任期制を採用しないのも、人事の停滞がマイナスの影響を及ぼしても無視するのも、このためである。公職選挙が有権者の声を反映している現実を自覚できず、選挙の敗北が続いても幹部が責任をとらないのも同じことである。
さらに志位和夫氏が中央委員会議長、田村智子氏が幹部会委員長になり、小池晃氏が書記局長留任という29回党大会の人事は、この作風と路線が変わらぬことを如実に示している。かくして、個人の自律性、多様性が強調される市民社会の論理とは隔絶した論理によって、これからも党が運営されていく。やんぬるかな。(2023・02・23)
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