学者の共産党批判と党理論幹部の反批判をめぐって(続)
- 2024年 3月 12日
- 評論・紹介・意見
- 共産党阿部治平
――八ヶ岳山麓から(463)――
はじめに
さきに、中央大学教授中北浩爾氏の共産党批判(東京新聞のインタービュー記事2024・02・11)に対する共産党理論委員会事務局長谷本諭氏の反批判を紹介し、あわせて私見を書いたところ、これに対する感想や注文が寄せられた。また谷本論文は赤旗日曜版にも転載されたので、前回足りなかったところを補いたい。
外交安保政策と共闘について
中北氏は、日米安保と国民連合政府に関して「国民民主党だけでなく、立憲民主党も(共産党との)外交・安保政策の違いを共闘のネックとしている」「野党連合政権を目指すなら、日米安保の容認など大胆な政策の柔軟化が必要だ」と主張した。
これに対する谷本氏の反論は、「わが党は、安保法制廃止、米軍辺野古新基地建設中止などの緊急課題で共同を強めることと、日米安保条約廃棄の世論を多数派にするための独自の努力をはかることとは、何の矛盾もないどころか、双方を追求してこそ、それぞれが推進されることを、大会決定で詳しく明らかにしている」というものであった。
私の考えでは、中北氏に反論するためには、谷本氏は共産党の安保政策が共闘のネックになってはいない理由、「双方を追求」することが共闘を進めることになる理由を、明らかにしなければならなかった。だがそれはなかった。
欲を言えば、ここは共産党の安全保障政策を展開すべきところである。共産党の安保政策は2000年に大きく変わった。それまで憲法の遵守を主張してきたのに、この年、不破哲三委員長(当時)が「急迫不正の侵略には自衛隊を活用する」と発言したのである。
ついで2015年、志位和夫委員長(当時)は外国特派員協会で、「必要に迫られた場合には、自衛隊を活用することは当然」のことと言い、さらに「日米安保条約では、第5条で、日本に対する武力攻撃が発生した場合には(日米は)共同対処をするということが述べられています。日本有事のさいには、(共産党提案の)連合政府としては、この条約に基づいて対処することになります」と発言した。
安保条約第5条発動を認めたこの志位発言は、立憲民主党の日米安保容認政策におおいに接近したものであった。中北氏の「日米安保容認」発言は、これを意識したものである。したがって、谷本氏は、現今の日米安保条約廃棄の主張と、志位発言とは矛盾するのか否かを明確に語るべきであった。
民主集中制の正当性
中北氏は、「民主集中制」に由来する問題点として、昨年の松竹伸幸・鈴木元両氏の除名処分をあげ、さらに「先の党大会では、控えめに問題提起した神奈川県議(大山奈々子氏)を大勢の代議員の前でつるし上げ、人格攻撃を加えた。組織ぐるみのパワハラだ」とした。
さらに、中北氏は「民主集中制」のもとで党指導部が絶大な権力を持ち、異論を唱える党員を「支配勢力に屈服したもの」と糾弾したり、「分派を認めない」といった党規約の解釈権も党指導部が握って簡単に除名や除籍を行い、反共の烙印を押して排除する、などと列挙し、批判した。
これに対し谷本氏は、民主集中制について五つの柱――(1)党の意思決定は、民主的な議論をつくし、最終的には多数決で決める、(2)決定されたことは、みんなでその実行にあたる。行動の統一は、国民にたいする公党としての責任である、(3)すべての指導機関は、選挙によってつくられる、(4)党内に派閥・分派はつくらない、(5)意見がちがうことによって、組織的な排除をおこなってはならない――をあげ、「いったいこのどこが問題だというのだろうか」と反発した。
中北氏が「民主集中制」とその運用の仕方が原因の問題を列挙しているのだから、谷本氏は、「民主集中制」とその運用の正当性を誰にでも分かるように示すべきであった。なのに、谷本氏は民主集中性の原則を述べるばかりだった。
さらに谷本氏は、神奈川県議大山氏に対する党大会結語の批判は、大山氏の誤った認識を指摘しているものだからハラスメントではないと主張した。だが、ここはパワハラか否かが問われるところだ。
ドイツ左翼党と民主集中制
さらに谷本氏は、中北氏が「欧州の急進左派の主流は今や共産党ではなく、ドイツ左翼党や『不服従のフランス』など、開かれた党組織を持つ民主的社会主義政党だ」としたことに反論してこういう。
「一昨年秋、党訪問団が、この党(ドイツ左翼党)の指導部と会談したさい、党の規約から民主集中制を削除し派閥を認めたことが、いくつもの派閥をつくることにつながり、その主導権争いがメディアで報道され、深刻な困難に陥っているという悩みが率直に語られた。ドイツ左翼党の経験は……派閥を認めることがいかに有害かを私たちに痛感させるものだった」
ドイツ左翼党結成の経過をみると、同党はドイツ社会民主党の左翼「WASG」と、かつての東ドイツ社会主義統一党系統の「左翼党-民主社会党」が連合して「左翼」となり、さらにいくつもの左翼セクトが加わって、2007年に民主社会主義を標榜する左翼政党として出発したものである(Wikipediaより)。
いうなれば、結成当時から派閥の存在を前提とした統一戦線党とでもいうべき政党である。党内で主導権争いが生まれるのは予想内のことなのだ。谷本氏の反論は、中北氏の発言に対する反論になっていない。
おわりに
共産党の理論責任者である谷本氏の主張は、ひとくちでいうと共産党は「正しいがゆえに全能だ」という同義反復に等しい。ここに党の理論上の退廃がある。これは、谷本氏に限ったことではない。共産党の最高理論指導者不破哲三氏も同様である。
不破氏が主導した2004年の共産党綱領では、中国・ベトナム・キューバを「社会主義をめざす新しい探求が開始された国」と評価していた。ところが2020年の28回党大会は、この文言を綱領から削除した。不破氏は党大会でみずからその理由を説明して、中国は、2008年には覇権主義・大国主義の国に変った、といったのである。
これに関連して、志位和夫委員長(当時)も「(2004年当時「社会主義へ向かう国」と規定したのは正しかったが)2008~09年以降、中国に問題が現れてきた」といっている。
ところが、不破氏は、2009年の中国北京における「日中理論会談」で、2008年のリーマンショックに関連して「中国共産党は市場経済と計画経済をたくみに結び付け、世界経済にも好影響を与えている」として、その支配体制を高く持ち上げていたのである(『激動の世界はどこに向かうか』 新日本出版社 2009)。
中共支配の評価がなぜ逆転したのか。公表されている限り、不破氏自身による弁解はない。党大会代議員からも疑問や批判は出なかった。おそらく、氏の主張が前後矛盾しているとわかっても、代議員のほとんどが不破氏に畏敬崇拝の念を抱いている状況では異論を唱えることができなかったのではないか。党員同士の自由にして活発な討論が許されない党規約ではこれが自然な成り行きというものだろうに。
だが討論のないところには退廃があるだけだ。意見の対立があってこそ進歩がある。おわりにキューバの先の指導者ラウル・カストロ氏(フィデル・カストロの弟)の言葉を紹介する。
「率直な議論を奨励し、意見の相違を問題視するのではなく、意見の違いは、最良の解決策を生み出す源とみなす(べきである)。絶対的な満場一致は一般に架空のものであり、したがって有害である。私たちの場合のように敵対的でない場合、矛盾は発展の原動力である(2010年4月4日 キューバ共産主義青年同盟閉会演説)。
(2024・03・06)
初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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