ここまできたかマスメディアの劣化 -相次ぐ問題記事や配慮を欠くテレビ番組-
- 2011年 9月 5日
- 評論・紹介・意見
- 不祥事・不謹慎岩垂 弘新聞・テレビ
マスメディアの劣化極まれり。このところ、そんな思いを強くしている。これでは、読者や視聴者の信頼は失墜するばかりだ。
新聞社で長く働いていた者として、新聞やテレビの報道で、このところ、あっけにとられてしまうことが多い。思い出すだけでも、最近こんなことがあった。
◇まず、朝日新聞が、警察へ写真を提供したという問題だ。
6月19日付の同紙によれば、滋賀県大津市で6月に起きた女性殺害事件で、滋賀県警が作成した逮捕協力を呼びかけるチラシに朝日新聞記者が撮影した容疑者の逃走写真が使われた。県警は逃走時の服装が分からず、殺人容疑で指名手配の際に情報の提供を報道各社に要請、記者が写真を提供した。チラシには2枚の提供写真が掲載されており、そのうちの1枚が記者が提供した写真という。
問題の写真は容疑者が自宅からバイクで逃走したところを、取材中だった記者が撮影した。チラシはホテルや旅館などに配られたという。
この記事によれば、同社の規定には「取材結果を報道目的以外に使わない」とあるという。したがって、同記事も「写真提供はこれに触れる恐れがある」とし、「殺人事件への捜査協力のためとはいえ、取材で撮った写真を提供し、結果として報道目的以外の使用となりました。関係者に対しては厳正に対処します」との渡辺雅雄・大阪本社編集局長の談話を載せている。
新聞社に内規があるなしにかかわらず、報道を目的とする取材で得た情報を第三者に提供してはならないというのは、報道に携わる者が必ず守らなくてはならない原則、つまりイロハのイだ。まして、それを警察に流すなんてことは絶対あってはならないことだ。私が新聞社に入ってまず先輩記者からきつく言われたことは、そのことだった。それとともに先輩記者からたたきこまれたのは、「情報源の秘匿」だった。情報を提供してくれた人の名はどんなことがあっても明かしてはならない、ということだった。
こうした新聞記者としての最低のモラルが、揺らいできているということだろうか。朝日新聞の記事を読んでそう思わざるをえなかった。
◇次いで驚いたのは、共同通信による「談話捏造」だ。8月2日付の朝日新聞によると、共同通信社が昨年10月に国内の新聞社などに配信したサッカー試合の記事に、記者が取材していない架空の観客の談話が加えられていたという。
同記事によると、昨年10月8日にさいたま市でサッカー日本代表の国際親善試合「キリンチャレンジカップ」があった。それを報道するにあたり、共同通信社内で、原稿を監修する立場の運動部デスク(次長)が記者の書いてきた原稿に、取材に基づかない談話を書き加えた。この結果、記事には「日本代表ユニフォームを着て声援を送った20代の女性」が登場し、「ブラジル大会ではベスト4だって狙えそう」との談話が紹介されていた。同社によると、女性は次長の知人で、「以前聞いた話を試合当日聞いたコメントのように仕立てた」のだという。
記事には共同通信社の三土正司・総務局次長の談話がつけられているが、そこには「不適切ではあるが、捏造とは思っていない」とある。しかし、サッカー試合会場にいなかった観客の談話を載せるなんて記事の捏造そのものではないか。
新聞記者になったころ、先輩記者から「これだけは覚えておけ」とよく言われたものだ。「なかったことを、あったように書くな」「伝聞に基づいて記事を書いてはいけない。自分の目と耳で確かめられたものだけを書け」と。
メディアにとって当たり前のことが、揺らいできているのだろうか。
◇最も驚いたのは、8月10日付朝日新聞の「ひと」欄である。東日本大震災に見舞われた宮城県石巻市の被災地で活躍する「ボランティアの専属医』の男性(42)を紹介していた。が、そこにつけられた男性の写真を見て、私はなんとなく違和感を覚えた。というのは、男性が顔全体を覆うようなマスクをしていたからだ。私が記憶する限り、これまでこの欄に登場した人物でマスクを、それもこんなに大きなマスクをしていた人はいなかった。「顔を見られたくないからだろうか」。そんな思いが頭をよぎった。
私の違和感は的中した。翌々日の8月11日の同紙社会面に、この「ひと」欄についての「おわび」が載ったからだ。それによると、ここで取り上げた男性の経歴に複数の虚偽があったことが判明し、日本の医師資格はもっていないと判断したという。そして「事実と異なる内容を掲載したことを読者と関係者の皆様におわびし、この記事の全文を削除します」とあった。
男性は、同月19日、医師法違反(医師名称使用)の疑いで宮城県警で逮捕された。
私が新聞記者になった時、先輩記者から教わった「記者の心得」の第一は「確認、確認、また確認」だった。取材したことが事実であるか、徹底的に裏をとれ、つまり裏付けをとれ、ということだった。さらに、こうも言われた。「美談には裏があると思え」「すべてを疑え」とも。要するに、記事の正確を期すために可能な限り努めなくてはいけない、ということだったと思う。
「ひと」欄を書いた記者は、この記事を書くにあたり取材した事実の確認に万全を期したのだろうか。
さらに、この男性が「ひと」欄に先立って、すでに他のメディアで取り上げられていたことを知って、一層気が重くなった。8月13日付読売新聞によれば、この男性は4月21日放映の読売テレビ制作の情報番組「情報ライブ ミヤネ屋」で、7月11日放映の日本テレビの情報番組「スッキリ!!」で紹介されたという。つまり、朝日の「ひと」欄は後追いの記事だったのである。
新聞記者たる者、事件・事故といった突発的なニュースなら、他社の後追いもやむをやえないだろう。だが、企画記事で他社の後追いをするのはどうしたものか。少なくとも、私が現役のころは、そんなことはしなかった。企画記事もまたニュースと思っていたから、他社がまだ取り上げていないことを書こうと努めたものだ。
◇8月5日付毎日新聞によると、東海テレビ(名古屋市)は8月4日に放映した情報番組「ぴーかんテレビ」で、岩手県産米「ひとめぼれ」のプレゼント当選者名の欄に「怪しいお米 セシウムさん」「汚染されたお米 セシウムさん」などと書いたテロップを誤って流した。
東海テレビによると、テロップは番組制作会社のスタッフが前日、リハーサル用に作ったもので、通販コーナーを放送している際に操作ミスで突然流れたという。
岩手県知事から「現在流通している米は原発事故発生前の2010年秋に収穫されたものであり、東日本大震災からの復興に全力をあげて取り組んでいる本県を誹謗中傷したもの」との抗議が寄せられ、東海テレビは社長が岩手県庁とJA岩手中央会を訪れて謝罪し、「ぴーかんテレビ」の番組打ち切りを発表した。
福島第一原発事故によって放出されたセシウムによる汚染問題は、国民にとって最大の関心事で、多くの国民がセシウムによる汚染を怖れ、おののいているのが現状だ。したがって、この問題にはメディアとして慎重に対処しなくてはならないのに、リハーサル用のテロップとはいえ、お笑い番組ののりで、「あまりにも常識を欠いた表現」(広瀬道貞・日本民間放送連盟会長)をつくりだす。なんという無神経さ、不謹慎さだろう。
◇広島県が8月10日、同月7日に放送されたドラマ「イケメンパラダイス」で主役の前田敦子さんが着ていたTシャツに「LITTE BOY(リトルボーイ)」の文字が書かれていたとして、「広島に投下された原爆の通称名であり、今後配慮してほしい」と、フジテレビに申し入れた。7日が広島原爆記念日の翌日だったこともあり、同県には「不謹慎だ」とするメールや電話など約130件、広島市にも約150件あったという(8月11日付読売新聞による)。
広島に投下されたウラン爆弾の通称名が「LITTE BOY」、長崎に投下されたプルトニゥム爆弾のそれが「FATMAN(ファットマン)」であることは、メディアで働く者にとっては、いわば常識といってよい。このドラマをつくったプロデューサーやディレクターは、そのことに思い至らなかったのだろうか。
いずれにせよ、広島県民や広島市民に対して配慮を欠いたドラマづくりだったと言ってよい。なんともやりきれない気持ちでこの記事を読んだ。
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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