恐るべし「除染」への安易な期待―「渡利地区における除染の限界」(山内教授)
- 2011年 9月 23日
- 交流の広場
- 山内知也松元保昭童子丸開除染
みなさまへ 松元
政府は「緊急時避難準備区域」を9月30日に解除すると発表しました。その「解除の要件」は、各自治体の「除染方針」によって復旧計画ができたとしているだけです。
除染評価が綿密な放射線量計測に基づくものではなく、単なる期待、根拠の無い「安心」政策、補償費用削減などを意図して子ども女性を含む住民を高汚染地区に帰宅させるとしたら、これは恐るべき犯罪的な施策と言わなければなりません。
20日、神戸大学の山内知也教授が、国際環境NGO FoE Japan、福島老朽原発を考える会の要請をうけて実施した渡利地区における除染の調査結果を発表しました。
それによれば、「除染」のモデル地区でさえ高い線量が計測されており、『文字通りの「除染」は全く出来ていない』と報告しています。小出先生も何度も指摘しているように、「除染」には大きな限界があり安易な期待は住民をかえってさらなる被ばくに曝すことになります。
警告をバルセロナの童子丸さんがコメントしていますので、山内教授の報告書の「概要とまとめ」の下に紹介しておきます。(※なおこの報告書は、渡利地区の地域地図と綿密な計測数値、グラフなどで立証されていますので、ぜひリンクPDFから本文をご覧になってください。)
======以下、「報告書」の概要とまとめ======
■放射能汚染レベル調査結果報告書:渡利地区における除染の限界
概要:2011年9月14日、福島市渡利地区において空間線量の計測を実施した。
「除染」が行われたということであったが、6月の調査において最も高い線量を記録した側溝内堆積物には手が付けられておらず、地表面における空間線量は当時の2倍に上昇していた。
「除染」のモデル地区としてある通学路がその対象になったが(「除染モデル事業実施区域」)、その報告によると平均して7割程度(約68%)にしか下がっておらず、空間線量も1?2
μSv/hに高止まりしている。
今回の調査においてもその通学路の周辺において20 μSv/hを超える非常に高い線量が地表面で計測された。コンクリートやそれに類する屋根の汚染は高圧水洗浄によっても除去できておらず、住宅室内における高い線量の原因になっている。
除染の対象にはされなかった地域の水路や空き地、神社、個人宅地内の庭で高い線量が計測され、最も高い線量は地表で20 μSv/hを記録した。本来の意
味での除染はできていない。
【中略】
まとめ:
福島市渡利地区の空間線量を計測した。
・6月の調査で見つかった 40,000 Bq/kg を超える汚染土壌が堆積していた道路の側溝はそのまま放置されていた。堆積した土壌表面の線量は6月の 7.7 μSv/h か
ら 22 μSv/h に、11μSv/h から 23 μSv/h に上昇していた。降雨と乾燥とによる天然の濃縮作用が継続している。
・住宅の内部で天井に近いところで、あるいは 1 階よりも 2
階のほうが空間線量の高いケースが認められたが、これらはコンクリート瓦等の屋根材料の表面に放射性セシウムが強く付着し、高圧水洗浄等では取れなくなっていることに起因することが判明した。学童保育が行われているような建物でもこのような屋根の汚染が認められた。
・渡利小学校通学路除染モデル事業が8月24日に実施されたが、報告された測定結果によれば、各地点空間線量は平均して「除染」前の 68%にしか下がって
いない。除染作業の実態は側溝に溜まった泥を除去したということであって、コンクリートやアスファルトの汚染はそのままである。道路に面した住宅のコンクリートブロック塀や土壌の汚染もそのままである。一般に、除染は広い範囲で実施しなければその効果は見込めない。今回の計測において通学路の直ぐ側の地表で 20 μSv/h に及ぶ土壌の汚染があった。除染とい
うからには天然のバックグラウンド・レベルである 0.05
μSv/h に達するかどうかでその効果が評価されるべきである。「除染」の限界が示されたと見るべきである。
・薬師町内の計測を行ったところ、国が詳細調査を行った地域から外された地点で高い汚染が認められた。ある住宅の庭では 1 m 高さで 2.7 μSv/h、
50 cm 高さで 4.8 μSv/h、地表で20 μSv/h の汚染が認められた。これは南相馬市の子ども・妊婦の指定基準(50 cm 高さで2.0 μSv/h)をゆうに
超えている。
・渡利地区では、地表1 cm高さでの線量が異常に高い値を示す箇所が随所に見られる。この地区全体の土壌汚染に起因すると思われる。土壌汚染の程度については、特定避難勧奨地点の検討項目になっていないが、チェルノブイリの教訓に学び、空気の汚染にも直接関係する土壌汚染の程度について、避難勧奨の判断に反映させるべきである。
・文字通りの「除染」は全く出来ていない。Cs-134 の半減期は2年、Cs-137 のそれは30年である。したがって、この汚染は容易
には消えず、人の人生の長さに相当する。そのような土地に無防備な住民を住まわせてよいとはとうてい考えられない。
(以上、報告書から一部転載)
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<童子丸さんのコメント>
これは大変な事実です。福島市渡利地区は今まで除染作業が非常に熱心に行われてきた場所なのですが、ほとんど下がっていないばかりか上がっている場所すらある、要するに「右のものを左に移した」に過ぎないことが明らかになったデータです。小出先生がおっしゃるように、除染は基本的に無理でほとんど意味が無く、せいぜいが「やるに越したことはない」という程度のものだということがよく分かります。
汚染された土などをどこに保管すればよいのかという問題に加えて、作業自体がほとんど無駄な努力に終わっている、さらに、ここにはありませんが「フレッシュな放射能」が常に加わり続けている問題も含め、原発事故というものの底知れない恐ろしさがひしひしと伝わってきます。
このようなデータが大々的に広められない限り、「除染作業をしているのだから安心してよい」、「もう戻っても大丈夫」という、人間を危険地域に放りっぱなしにする棄民が当たり前になってしまうでしょう。何せ、さまざまな放射線障害の実例が出てきても、山下大先生のお力によって全て「精神的なもの」にしてしまえば、八方丸く収まるわけですから。
また、これが何か「対策の目玉」であるかのように絶対視され、そこに大型の業者がつぎ込まれて利権あさりの場になっていく構図ができつつあるのではないかと思います。そして「万一事故が起こっても、すぐに除染できるから安心してよい」などという風潮まで作られるのではないのか…。
私には、日本人が「同胞の人肉を喰らう」おぞましい光景にしか思えないものです。
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