食品汚染の制限値を容認することは、どれを取っても死を黙認すること―フードウォッチ、IPPNWによる汚染食品のリスクレポート
- 2011年 9月 24日
- 時代をみる
- IPPNW(核戦争防止国際医師会議)市民放射能測定所松元保昭食品汚染
みなさまへ 松元
市民放射能測定所-CRMS(和文サイト:http://www.crms-jpn.com)(英文サイト:http://en.crms-jpn.com)の岩田渉さんから、9月20日にドイツで発表された、フードウォッチ、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)による汚染食品のリスクレポートとそのプレスリリースのPDFが送られてきましたので、その要旨を紹介いたします。
リスクリポートは、①■「あらかじめ計算された放射線による死:EUと日本の食品放射能汚染制限値」、②■「福島原発事故後のドイツ、ヨーロッパ、日本の食品放射線防護値による健康への影響に関する鑑定」の2部構成になっています。ここでは市民が読みやすいように、①の「はじめに」、②の「まとめ」と「結論」を紹介し、論証の前提となっている①の「テーゼと要求」を後半にもってきました。
もちろん多くの計測数値で論証されていますので、PDFご希望の方は連絡ください。サイトはまだのようです。
「EUと日本の制限値を適用すると、こどもと青少年の許容被曝線量は68倍になる。」「EU/日本の制限値は防護するものではなく、放射線による死者をあらかじめかなりの数計算に入れている。」「重要なのは、より安全な放射能制限値というものは存在せず」、「放射線の制限値のどれを取ってもそれを容認することは意識的に死を黙認することになるという事実」であると、指摘しています。
さらに、「東京電力と日本政府のこれまでの情報政策を見ると、残念ながら市民がオープンかつ当初から危険について知らされていないと推測せざるを得ない。こうした情報の状況を改善するよう政府と産業界に要求する。」と勧告しています。
日本の非常にいいかげんで危険な「食品暫定基準値」を見直す貴重な科学的資料になると思います。
======以下、一部転載======
①■あらかじめ計算された放射線による死:EUと日本の食品放射能汚染制限値
2011年9月、ベルリン
●はじめに
福島第一原発の原子炉からは、依然として放射能が放出されています。人間と環境にたいへん大きなリスクをもたらすことが考えられます。残念ながら、放射線被曝の規模に関して信頼できる情報がありませんが、被曝が日本の人々を数十年に渡って苦しめることだけは確かだと思われます。その原因が食品となるのです。
福島やチェルノブイリで起こったような原発事故の後、セシウム137のような放射性核種(訳注:放射性物質とも)が食品から体内に入るのは、長期に渡って人間の健康にたいへん大きな危険をもたらします。そのため、放射線のリスクから守る目的で公的に規定された食品内の放射性核種の含有量の上限値ないし制限値には、特別の意義があります。
フクシマ原発事故は、チェルノブイリ原子炉爆発事故の場合もそうでしたが、有効な制限値が市民にどういう保護を保障してくるのかと、新たに疑問を投げかけてくれました。この問題に答えるため、フードウォッチはドイツ放射線防護協会のトーマス・デルゼー、セバスチャン・プフルークバイルの両氏に本レポートにあるスタディの作成を委託しました。
レポートは、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)ドイツ支部と共同で公表します。レポートには、レポートの中心であるドイツ放射線防護協会のセバスチャン・プフルークバイル、トーマス・デルゼーの両氏のスタディに加えて、レポートの共同作成者である2つの団体によるテーゼと要求も含まれています。
レポートは、『より安全な』制限値というものは存在せず、いかなる制限値を設定してもそれが予想される放射線による死者の数をあらかじめ規定してしまうことを示しています。こうした背景を目の前にし、今回の調査は、有効な制限値がヨーロッパ、日本を問わずにたいへん無責任なものであり、故意に数千人の死者を容認するものであるとの結論に達しました。
食品の放射能汚染が有効な制限値のわずか5%程度であったとしても、ドイツのような国では放射線による死亡者が年間最低でも7,700人にもなることを予想しなければなりません。ただここには、甲状腺や膵臓の慢性疾患のような後遺症は含まれていません。
レポートが、既存のEU制限値とその意義に関してオープンな議論が行われるよう促すとともに、政治と原子力産業が普及させている制限値が表向きには科学的に算出され、人間に安全をもたらすものだというイデオロギーに対抗するものになることを期待します。
フードウォッチとIPPNW(核戦争防止国際医師会議)は、市民の健康の保護を大幅に改善するため、これまでのEUの制限値を徹底的に引き下げることを要求します。だが、引き下げられた制限値でさえも、放射線による犠牲者が出ることを黙認しているものであることはよくわかっています。日本政府に対しても同じように、既存の制限値を大幅に引き下げるよう提言します。
フードウォッチ
IPPNW(核戦争防止国際医師会議)ドイツ支部
2011年9月
②■福島原発事故後のドイツ、ヨーロッパ、日本の
食品放射線防護値による健康への影響に関する鑑定
トーマス・デルゼー
セバスチャン・プフルークバイル
(ドイツ放射線防護協会/Gesellschaft für Strahlenschutz
e.V.)フードウォッチ委託スタディ
2011年8月、ベルリン
●1. まとめ
1. 食品から放射性核種を体内に取り込むのは、長期的には原発事故後の最も重大な被曝源である。EU委員会は日本のフクシマ原発事故後、日本からの輸入品に対して 食品汚染
制限値を日本で実際に許可されているよりも高い制限値に引き上げた。EUは必要もなく、日本では摂取が認められていない放射能汚染食品の輸入を認めたのだ。
この事実が知れ渡ると、制限値を「暫定的に」日本の制限値に合わせて引き下げた。EUの制限値はまた、チェルノブイリ原発事故の影響を被ったウクライナとベラルーシで数年前から適用されている制限値に比べ、最高500倍も高くなっている。
2. こういう制限値を規定するというのは、ヨーロッパ市民と日本市民の放射線犠牲者数を決定しているということだ。現在有効な放射線防護令第47条は、原子力関連施設の平常運転時に放射性物質が大気中ないし水中に放出されることによって起こる公衆個人の年間放射線被曝の制限値を0.3ミリシーベルトとしている。有効なEU制限値レベルで放射能汚染された特定の食品と飲料だけを摂取していると、この0.3ミリシーベルトという数値は何倍にも上回ってしまう。こどもで276倍超、大人で110倍超となる。
3. EU制限値にしたがうと、こどもが年間約80ミリシーベルト被曝する可能性がある。それによって後年、10万人当り年間約400人から4000人のこどもが新たにガンで死亡することが容認される。大人の場合同じように食品を摂取すると、年間33ミリシーベルト被曝すると考えられる。それによって後年、10万人当り年間約165人から1650人の大人が新たにガンで死亡すると見られる。
4. こういう食品汚染制限値を規定するのは、日本政府とヨーロッパ各国の政府が自国市民から放射線犠牲者を出すことを求めているということだ。ここで、有効な線量の考え(実効線量)ではガンによる死亡しか考慮されておらず、それよりも多発する疾患の件数が考慮されていないことに注意しなければならない。
チェルノブイリ原発事故後、ガンになる以外に免疫性低下、早期老化現象、若年時の心臓・呼吸器系疾患、胃や甲状腺、膵臓(糖尿病)の慢性疾患などの肉体疾患のほか、精神神経障害、遺伝子障害、奇形が低線量被曝の影響として起こっている。これらについても、各国の政府は無視している。
(中略)
●6. 結論
6.1.ヨーロッパと日本、その他の地域では、汚染食品の取扱いにおいて第一に市民の健康保護を目指した規則を講じるべきだ。放射線の制限値のどれを取ってもそれを容認することは意識的に死を黙認することになるという事実を目の前にして、流通と経済上の関心が健康の保護に影響を与えてはならない。
6. 2 .ヨーロッパにおいては、フクシマ事故後であっても事故時用の食品制限値を導入する必要はない。ヨーロッパの制限値は、たとえば平常時に適用されるドイツ放射線防護令を基にした制限値まで大幅に引き下げるべきだ。つまり、乳幼児、こども、青少年は食品1キログラム当り最高4ベクレルしかセシウム137で汚染されていない食品を摂取すべきだ。大人には、食品1キログラム当りのセシウム137の制限値として8ベクレルを適用する。
6. 3 .日本とヨーロッパでは、ある特定の放射性核種の制限値を容認することによってどの程度まで死者と病人を黙認するのか、公衆において議論すべきだ。より安全な制限値というものはないので、どういう判断を下そうがそれは生か死かの判断となる。重要なのは、より安全な放射能制限値というものは存在せず、放射線はどのレベルであっても多すぎるということを公衆にはっきりさせることが重要だ。
6. 4 .平常運転時と事故時に関して、市民のために別々の放射線制限値が規定されていることには、医学上も倫理上も何ら根拠がない。それによって、市民にだけ事故時に不法な健康障害をもたらしているのであり、健康障害の原因について原発運転者は責任を問われない。事故に責任のあるはずの原発運転者はこうして、その責任から一括して解放されている。
6. 5 .放射性ヨウ素汚染が非常に強い場合、牛乳、サラダ、葉菜類、食用野生ハーブの摂取を完全に止めるよう市民に勧告する。
この勧告をできるだけ長期に渡って適用すべきだ。というのは、2011年4月17日とその後も再三に渡って、東京電力(Tepco)が福島第一原発から今年一年を通して放射性物質が放出され続けると説明してきたからだ。原子炉と燃料貯蔵プールで起こったいわゆるメルトダウンが「冷温停止」状態に達するまで、その間に予期しないことが起こらなければだが、約9ヶ月かかると見られる。日本の梅雨では、放射性微粒子がより多く地面に降下していく可能性があるが、特に風向きが太平洋から国土側に変わった場合、たいへん心配だ。
6. 6 .東京電力と日本政府のこれまでの情報政策を見ると、残念ながら市民がオープンかつ当初から危険について知らされていないと推測せざるを得ない。こうした情報の状況を改善するよう政府と産業界に要求する。だが、日本の市民グループとNGOが市民に正確な情報を提供するため、独自に放射線測定を行っているのはたいへん歓迎すべきことだ。市民に情報がないというのは、日本独自の問題ではなく、世界中で原子力利用に関連する一つの問題だ。
6. 7電離放射線による健康障害という複雑なテーマに関して市民に情報を提供して市民を助け、理性的な行動を取ることが科学者に求められている。チェルノブイリ後に科学界で高い地位を占める学者たちが市民に対して情報を隠蔽したようなことが(「放射線恐怖症」や「100ミリシーベルト以下の放射線量であれば危険がない」などの間違った決まり文句)日本でも繰り返されるとすれば、それは悲劇だ。
6. 8われわれはヨーロッパに対しては、リスボン条約に以下の項があることを強調しておきたい。だが、原子力利用部門においては、それを実行しようとすることなどは一度としてなかった。
「欧州連合の環境政策は、欧州連合のそれぞれの地域の条件を配慮して保護レベルを高くすることを目標とする。環境政策は準備と予防の原則、環境破壊を優先的にその根源で撲滅するという基本、それに引き起こした者が責任をもつという原則を基本とする」
「真実を知らない者は愚か者でしかない。
だが、真実を知っているにもかかわらす、それを嘘という奴、
そういう奴は犯罪者だ」
ベルトルト・ブレヒト: ガリレイの生涯、第13幕ブレヒト、1938/39年に亡命地デンマークで同劇を執筆。新聞各紙はドイツ人物理学者によるウラン原子の核分裂について報じた。
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①■あらかじめ計算された放射線による死:EUと日本の食品放射能汚染制限値
■テーゼと要求
●EU/日本の制限値は防護するものではなく、放射線による死者をあらかじめかなりの数計算に入れている
・原発事故後に、セシウム137などの放射性核種が食品から体内に入るのは、長期に渡り人間の健康にたいへん大きな危険となる。そのため、放射線のリスクから守る食品内の放射性核種の含有量に関して公的に規定された上限値ないし制限値には、特別の意義がある。
・EUと日本で有効になっている放射線防護制限値は、市民を不必要に高い健康上のリスクにさらしている。ドイツにおいて市民が最も厳しいEUの制限値レベルで、つまり現在日本からの輸入品に規定されている制限値のレベルで汚染された食品だけを摂取していると想定すると、年間の実効線量はこどもと青少年で68ミリシーベルト、大人で33ミリシーベルトとなる。ドイツの放射線防護法で原発の平常運転時に個人に認められているすべての放射線暴露経路からの被曝線量は全体で年間1ミリシーベルトである。EUと日本の制限値を適用すると、こどもと青少年の許容被曝線量は68倍になる。たとえ食品が制限値のわずか2%しか汚染されていないとしても、実効線量は認められている1ミリシーベルト制限を上回る。
・国際放射線防護委員会の計算をベースにすると、ドイツの食品にこの制限値を適用すると年間で最低約15万人の死者をもたらすことになる。その他の計算をベースにすると、死者数がさらに増える可能性もある。ドイツの市民全体が現在日本からの輸入食品に適用されている制限値の最高5%しか汚染されていない食品を食べるとしても、それでも依然として年間の死者が7,700人に
なるものと予想される。さらに、いろいろな疾患や遺伝子障害が起こることも考えられる。その他の国からの製品には、それよりも緩い制限値が適用されている。
・他の一部の国では、より厳しい制限値が設定され、健康の保護が強化されている。ウクライナとベラルーシの制限値は他国より厳しく、過去数年間で常に規制が強化されてきた。ウクライナとベラルーシでは、たとえば乳製品のセシウム137の制限値が100ベクレル/kgであるのに対して、EUでは370ベクレル/kg、日本では200ベクレル/kgとなっている。
●現在の制限値には矛盾があり、透明性がない
・EU委員会は日本のフクシマ原発事故後、緊急事態のために準備されていたものだが、それまで適用されたことのない指令を発効させた(『チェルノブイリ引き出し指令』)。指令で規定された日本からの輸入食品の汚染制限値はむしろそれによって、逆に引き上げられた。フクシマ事故前よりも規制が緩和され、それどころか日本自身の規制よりも規制がさらに緩和されたのだ。EU委員会はその後この決定を修正し、日本からEUに輸入される食品の制限値を指令より低いレベルに引き下げた。
・だが、EU制限値のちぐはぐさがそれによって排除されたわけではない。日本以外の第三国からの製品は、たとえ日本から輸入される同じ製品に比べて汚染されていても、EUが日本からの輸入製品に対して規定した特別規制の対象外であるので、域内での販売が認められる。その規制にしたがうと、EUへの直接輸入が認められない日本からの製品であっても、日本以外の第三国経由
で輸入されれば、欧州での販売が認められることになる。
●現在の制限値は経済上の関心によって定められる
・EUと日本の放射線防護制限値が高すぎるのは、制限値の決定に影響力を持つ欧州原子力共同体(Euratom)と国際放射線防護委員会(ICRP)が原子力産業と放射線医学界に支配されているからだ。世界保健機関(WHO)は50年以上も前に、国際原子力機関(IAEA)との間で結ばれた協定によって放射線による健康障害を定義する権利をIAEAに引き渡してしまった。
IAEAの目的は、原子力エネルギーの普及と促進である。その結果として、チェルノブイリ事故による健康障害の評価はWHOではなく、IAEAによって行われた。フクシマの場合もWHOは、健康に対するリスク評価とリスク回避に当り、指導的な役割を果たさない。
●現在の制限値は欧州法と国際原則に反する
・欧州連合の機能に関する条約(TFEU)にある環境保護(第191条)は、明らかに予防原則を基本にしている。この原則は、人間の健康が危険にさらされる場合、予防措置を講じるよう規定している。しかし、有効な制限値は経済上の関心によって不必要に高くなっており、健康の保護に備えておくという考えに反する。
・現在の制限値は、放射線を最小限に止めるという原則、つまり国際放射線防護委員会が早い時期に掲げていた要求に矛盾している。この要求は国際的に達成され、ドイツの放射線防護法の核心(放射線防護令第6条)ともみることができる。この最小化原則には、不必要な放射線量はすべて回避すべきだという意味も含まれている。
●より安全な制限値というものはない
・人間はある程度放射線にさらされている。宇宙と大地からの放射線、カリウム40による内部被曝、ウラン崩壊系列から派生するラドンガスとその崩壊生成物から逃れることはできない。これらの放射線はドイツの場合、大人では全体で年間平均2.1ミリロシーベルトに上る。医療診断で使われる放射線によって、放射線被曝線量が年間でさらに平均1.8ミリシーベルト増える。
・これらの放射線被曝に加えて、前世紀に行われた大気圏内核実験と原発の運転に起因する人工的な放射能汚染がある。食品に含まれるセシウム137などの放射性核種は自然界には存在しない。食品に含まれる放射性核種は原子炉で人工的に生成される。チェルノブイリやフクシマの原発事故後、これらの放射性核種がたくさん放出され、人間に影響を与えている。
・食品中の放射性核種に関して公的に規定された制限値は、市民を健康障害から保護するものだ。ただ有害化学物質の場合と異なって、それ以下の放射能であれば害がないというしきい線量がない。そのため、「危険ではない」とか「害がない」、「心配ない」といえるような微量の放射線量もない。上限値や制限値を規定するとは、規制作成者が規制作成者にとって容認できると見られる病人数と死者数をその値によって規定するということだ。
・したがって、たとえドイツ政府が規定された放射能含有上限値は放射能汚染をできるだけ最小限に止めるという放射線防護の原則を配慮していると主張しても、「より安全な」制限値というものはない。食品にごくわずかの放射性核種が入っているだけで、病気になったり、死に至る可能性がある。「できるだけ最小限に止める」という無意味な表現を選択したのは、当局の態度を適切にいい表している。つまり、最小化原則は制限値による実務においていくらでも制限されるということだ。
●市民を保護するためには、制限値の強化が必要
・汚染食品の取扱いを巡る規則はまず第一に、市民の健康を保護するものでなければならない。いかなる放射線制限値を認めようとも、それは意図的に疾患や死を容認するものだという事実からすると、流通や経済上の利害が健康の保護に影響を与えてはならない。健康障害のリスクを下げるには、有効な制限値を大幅に引き下げることが必要だ。
・この目的を達成するため、要求する制限値を算出するに当たり、最大年間実効線量として0.3ミリシーベルトを採用した。ドイツの放射線防護法はこの値を、原発の平常運転時に放射性物質が大気中と水中に放出される場合の放射線暴露の制限値としている。要求する制限値は、放射性核種の構成がフクシマの降下物と同じであると想定して、食品の摂取によって年間実効線量0.3ミリシーベルトを超えないことを保障しなければならない。
食品の摂取による年間実効線量をそれよりも高くすることは、犠牲者の数を増大させることになり、認められない。これまでのEUの放射性セシウムの制限値は乳幼児用食品で8ベクレル/kgに、その他のすべての食品で16ベクレル/kgに引き下げなければならない。放射性セシウムの許容制限値は現在、乳幼児用食品と乳製品で370ベクレル/kg(日本からの輸入品の場合は200ベクレル/kg)、その他の食品で600ベクレル/kg(日本からの輸入品の場合は500ベクレル/kg)である。
・予防原則の意味でいうと、ヨウ素131の食品汚染は認めるべきではない。ヨウ素131の半減期が約8日と比較的短いことから、食品はヨウ素131で汚染されていないのが望ましい。ただ、放射性同位体が崩壊するまでの間に人間がヨウ素131で汚染された食品を摂取するというのは考える必要はない。食品の多くは、他の放射性核種に汚染されていない限り、ヨウ素131が崩壊するまでの間倉庫に保存されている可能性があり(冷凍されている可能性も)、その後に摂取しても問題はない。
・日本の既存制限値も、十分な健康の保護を保障するものではない。容認できる健康の保護を保障するため、日本政府に対しても制限値を大幅に引き下げるよう提言する。
・だがたとえ制限値を低くしても、死者が出ることをあらかじめ計算に入れなければならない。制限値による規制のおかげで食品の摂取によって年間0.3ミリシーベルトを超える実効線量にドイツ市民がさらされることがないと確認されるとしても、依然として最低1,200人が新たに放射線によって死亡することになろう。実効線量がその5%にしかならなくても、依然として年間最低60人の死者が見込まれる。それでも、制限値を引き下げることによって放射線障害に対する人間の保護が大幅に改善される。制限値の高さの如何にかかわらず放射線犠牲者を回避できないという問題は、原子力関連施設の運転の継続と建設に疑問を呈する十分な機会となるべきだ。
●平常時と緊急時のどちらにも統一の制限値を
・制限値を容認可能な健康の保護を保障するレベルにまで引き下げるのが必要である他、EUの『制限値混乱状態』も排除しなければならない。これは、各国毎に制限値が異なり、いくつもの制限値が存在するということがあってはならないということだ。さらに、平常時と緊急時で制限値が異なるということもあってはならず、緊急時でも平常時でも最高の健康の保護が保障されなければならない。
(以上、一部転載終わり)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1632:110924〕
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