「社会科授業における公正中立」
- 2011年 9月 26日
- 交流の広場
- 増田都子
「社会科授業における公正中立の要請と教員の不利益処分」という意見書を羽山健一・大阪府立高校教諭に書いていただき、最高裁に提出しました。
たいへん、説得力のある意見書です。以下、一部をご紹介しますので、御関心のある方には添付ファイルで全文をお読みいただければ幸いです。最高裁の調査官が、きちんと読んでくれれば、原審のとんでもない誤りは明々白々だと思うのですが・・・
なにしろ「裁判官 読まない 聞かない 考えない」(判決文は)「都教委の コピーで済ます 裁判官」「行政の イヌになったか 裁判官」というような川柳が流行る!? 日本ですから・・・
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原審は,本件資料の使用が名誉毀損に当たると判断したわけではないし,また,その使用が,教育基本法第8条第2項の禁ずる政治的教育に当たると判断したわけでもない。判決文は明確な表現とはいえないものの,要するに,本件資料の使用が公正中立の要請に反する非違行為であると判断しているのである。
しかしながら,原審は,教育における「公正,中立」という概念について,とくに何も論じないまま,「特定の者を誹謗する」本件資料の使用が「公正,中立に行われるべき公教育への信頼を直接損なうもの」という評価を下している。こうした判断は,論証を抜きに結論を導くものであり,論理的,説得的であるとはいえない。なお、授業で特定の人物名をあげることが直ちに公正中立違反となるものではないことは前述した(第2、5(1))。
この点,前述の挑山中学校事件(前記⑤事件)においては,授業内容が極端に偏ったものであり,公正中立に反するものであるという判断が比較的容易であり,なおかつ,その第一審判決において,「特定の政治思想や主義主張を一方的に価値高いものとして教えこむこと」が禁止されるという一定の判断基準が示されていた。
ところが本件は,授業の不公正さや偏向が際立った事例ではないうえに,原審においては,公正中立に反するとした判断に明解な論拠や基準が示されていないのである。
○教育内容及び教育方法の是非について
前述のように,ある教育活動が公正中立の要請に反すると判断するためには,その教育方法が特定の主義主張を一方的に価値高いものとして教えこむものであるという要件と,その教育内容が社会常識から見て偏っているものであるという要件のいずれにも該当するものでなければならない。
本件資料は,現実の社会に,過去の戦争を侵略戦争ではないと主張する都議会議員や教科書会社が実際に存在することを生徒に伝えて,ひいては,憲法に定める平和主義,基本的人権についての理解を深め,これらを保持するための不断の努力の重要性に気付かせることをめざした教材であると考えられる。
申立人の授業は,前述した「社会共有の価値」を教育するものであり,本件資料の一部に不適切な表現があるものの,その教育内容において何ら偏向したり,不公正と評価されるところはない。また,その教育方法においては,強力にその問題性を訴えかける傾向はあるが,もともと,申立人の紙上討論授業は,生徒の意見表明を前提としたもので,一方的に教え込むという性格のものではない。したがって,申立人の授業は教育内容においても,教育方法においても,公正中立違反を問われるようなものではない。
(中略)
こうした都教委の審理不尽については,原審が次のように確認している。
「本件戒告処分は『不適切な文言』を記載した本件資料を作成・配布し,授業で使用したことを懲戒事由としているのであって,紙上討論授業を始めとする授業の方法や内容を懲戒事由としたものではないことが明らかである」。(控訴審判決50頁)
教育内容に対する申立人の理解についても、同じように審査を行っていないことは,次に示すとおりである。
「ウ 控訴人は,本件記載に引用した古賀都議の発言や扶桑社に対する本件記載に書いた評価は,日本政府がことあるごとに公に表明してきた立場に基づいており,十分に客観性を有する批判であって,根拠のない「誹謗」でも,からかうという意味の「揶揄」でもないと主張する。
しかしながら,原審は,控訴人の古賀都議の本件発言や扶桑社の教科書に対する評価の内容を問題としているのではなく,その『表現』を問題にしていることは,判文上明らかであり,上記主張は的外れである。」(控訴審判決49頁)
原判決は,本件資料に記載された教育内容を問題としないという立場をとっている。確かに,裁判所の審査では,本件資料に記載された教育内容が学問的にみて真実であるか否か,あるいは,その記載の前提となる歴史認識の真偽を判断する必要はない。しかし,裁判所は,本件資料の使用が公正、中立に行われておらず、公教育への信頼を損なうものであるとして懲戒事由となっている以上は,そこに記載された教育内容が社会常識からみて偏っていて不適切なものであるかどうかを判断しなければならないはずである。このような,社会常識ないし社会通念の評価に関わる判断は,裁判所が審査するべき法的事項である。
したがって,申立人の授業が公正、中立に行われておらず、公教育への信頼を損なうものであるとして、信用失墜行為に該当するとした原審の判断には,本件資料の教育内容の是非についてまったく吟味しないという決定的な誤りがある。
(意見書をご覧になりたい方は、ちきゅう座「お問い合わせ・ご意見」http://chikyuza.net/avis からご連絡下さい。―編集部)
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