強い補完性を持つ日豪の国益は一致─ミラー新オーストラリア駐日大使講演
- 2011年 10月 27日
- 評論・紹介・意見
- 日・豪関係の新展開の行方は?鈴木顕介
ミラー大使は冒頭の「日豪関係の将来について」と題した講演で日豪両国は「共通の関心事と強い補完性でつながっている。ほとんどの分野でオーストラリアの国益は日本の国益である」と述べ、そのような連帯関係の深化が在任中の責務であると強調した。
次に講演の中から注目すべき発言の要旨を紹介する。
日本は震災、津波、原発事故という喫緊の課題以外、経済、財政、少子高齢化という問題に直面している。これらに上手く対処するよう期待する。日本が中国、インドの経済成長に目を奪われず、自らの経済力に自信を持ち、外に目を向けてアジア・太平洋地域の問題への取り組みを強めることが、オーストラリアの国益につながる。
4年以上交渉が続く日豪間の懸案である経済連携協定(EPA/FTA)は、「経済の補完性が存在する日本とオーストラリアがより行動をともにしていく上で欠かせない」。両国経済を一体的にとらえる、即ちオーストラリアの資源を日本の資源と見てもらえれば、協定締結への障害はなくなる。
日本のエネルギー自給率は僅か4%であるが、「日本は自給率の’自 ’(みずから)の意味を改めることで繁栄を成し遂げた」。パートナー国としてオーストラリアを信用して、石炭、天然ガス、ウランというエネルギー資源を依存してきた。将来にわたってもオーストラリアは、日本に対するする安定的なエネルギー供給国であり続ける。
同じ考え方に立てば、EPAは日本の食糧安全保障に貢献する。オーストラリアの農業、食品加工への投資によって、日本に対する食糧供給が確保される。EPA/FTAによる保護の削減で、日本農業が衰退するのではなく、むしろ強化されて日本農業の国際競争力、生産性が高まる。保護政策が機能しないことは、日本の食糧自給率が、1960年の79%から2010年の39%に低下したことで明らかである。
戦略面での両国のパートナーシップは、両国がアメリカの同盟国である点が基盤となっている。オーストラリアは日本がアメリカ以外で外務・防衛閣僚会議(2+2)と、物品役務相互提供協定(ACSA)を持つ唯一の国である。その成果は大震災発生後、オーストラリアがアメリカ以外で日本に空輸支援を提供した国であったことにみられる。所有するC17大型輸送機4機のうち3機が投入され、オーストラリアが提供した原発冷却用の特殊ポンプの搬入など、救援物資、人員の輸送に当たった。
今後5年間に「戦略・防衛協力の分野で日豪関係をより包括的規定した、より良い法的な枠組みを整備し、これを実行に移して人命救助、生活の質的向上を図る上で行動をともにする」ことを目指す。「日本は安全保障分野で東アジアでの最も緊密なパートナーである」。
人的交流は長期的な日豪関係に不可欠の重要な分野である。しかし、観光客は減少傾向で、2010年には30万人を若干上回るにとどまった。今後5年間の目標として、留学生の増加など教育・人的交流の再活性化に努力する。日本の若者を日本語教師としてオーストラリアに招くオーストラリア版JETプログラムの実現の可能性を検討している。
ミラー大使は今度で3度目の日本在勤。在外勤務歴のほとんど全て、通算8年が日本在勤という外務貿易省きっての日本通である。この日の講演は日本語の書き下ろし、講演、質疑とも日本語であった。
同時に、大使就任までの2年余りは首相直属の情報評価機関である内閣調査庁(Office of National Assessment)の 副長官、それ以前にも戦略政策部長、アジア太平洋安全保障課長を務めるなど、戦略・政策分野の専門家でもある。
中国通を自認したラッド前首相は、首相就任時の初訪問国に中国を選び「ジャパン・パッシング」と言われた。現在外相のラッド氏によるミラー大使の起用は、アジア・太平洋地域で進むアメリカの退潮と中国の台頭による戦略的構図の転換の中で、鮮明にされたオーストラリアによる日本重視の姿勢と受け取れる。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0662 :111027〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。