珈琲ブレイク(1) —カフェめぐりの愉しみ
- 2011年 10月 27日
- 評論・紹介・意見
- カフェ木村洋平
珈琲が好きで、いろんなカフェをめぐった。カフェの空間は、どこか安心する。穏やかな木目調の内装で、落ち着いて本を読む。民家風のカフェで、くつろいでおしゃべりする。にぎやかな都会でさえ、珈琲で一息つく。
そんな風なカフェめぐりは、いつしか旅と一つになり、神戸から北海道まで、あちこちの街で100以上のカフェを回った。
なによりも珈琲の味が気になって、カフェめぐりを続けたけれども、その中で、珈琲の味を取り巻く、さまざまな環境にも目が向くようになった。
珈琲の味〜カフェの空間〜街並み〜風土
これらは、ゆるやかにつながっているのではないか、と思い始める。
京都の「V」というカフェは、スペシャルティコーヒー(厳選された豆で淹れた珈琲)専門店だけれども、ある朝、パンの軽食と珈琲のセットを注文したとき、明るく、木がやさしい内装と相まって、ゆったりとした時間が流れていた。そこに、バッハの無伴奏チェロがかかった。とてもおしゃれで、落ち着いた空間作りになっていた。
名古屋の「C」さんは、やはりスペシャルティコーヒーのお店だけれども、なんと「黒糖くるみ」がつく。わざわざ頼まなくても、一杯の珈琲にお供してくれるのだ。そして、麻で織ったランチョン・マットの上に乗る。なんとも言えない和の情緒。
小さなお店なのだが、名古屋の中心地からは外れた住宅街で、周囲には公園があり、桜の木が立っている。少し離れると、ショッピング街の星ヶ丘や、東山動植物園がある。なんというか、名古屋という都会の穏やかな側面を代表するような、珈琲とくるみなのである。
仙台の「H」は、支店の「A」を訪れたことがあるが、千脚(かどうかはわからない)のカップが壁一面に並んでいる。天井は高く、壮観だ。内装もおしゃれで凝っており、スイーツの値段も高めである。けれども、肩肘張った感じがなく、普段着のお客様もどうぞ、というホスピタリティがあり、居心地が良い。東北一の大都市、とはいえ、首都圏とはまたちがう地方都市の面白みが、反映されているのではないかと考えたくなる。
最後に、北海道のGを紹介したい。北海道の真ん中、札幌から北上し、旭川から南下する、美瑛のカフェである。美瑛は、観光の名所で、街並みも綺麗な「丘の街」。周辺には、沢山のカフェやペンションが建つ。その中で、Gは、美瑛町の中心部から外れた、鄙びた駅、「美馬牛」から徒歩5分の立地にある。
広々とした丘の街のはずれで、テラス席と店内の席。夏は、外の風が気持ち良く、冬は、こぢんまりと暖まる。料理は、抜群に美味しく、珈琲は日本一美味しい。(と、僕は言いたくなる。)店主さんが、一杯一杯、丁寧にネルドリップで落としてくれるのだ……。
そういったカフェをめぐる旅。そこでは、珈琲の味と、カフェの空間と、街並みと、その土地の風土が、お互いに響き合っていることを感じられる。一杯の珈琲から、世界が広がる。
カフェめぐりは、こんな風にして、”深い味わい”のある旅を、約束してくれるかもしれない。
初出:ブログ「珈琲ブレイク」より許可を得て転載(http://idea-writer.blogspot.com/)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0664:111027〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。