名機カラシニコフ突撃銃が引退へ。ロシア軍、在庫整理と兵器現代化が狙い
- 2011年 11月 6日
- 評論・紹介・意見
- カラシニコフ突撃銃浅川 修史
世界で最も使用されている軍用ライフルが、旧ソ連が開発したカラシニコフ突撃銃である。戦争ものアクションもの映画に登場する定番ライフルである。カラシニコフはAKとかAKMライフルとも呼称される。ところが、世界で最も使用されている軍用ライフルの購入を、開発国のロシア軍が中止する。兵器マニアにとってはいささかショックな報道である。
ロシア軍、旧ソ連開発カラシニコフ購入中止 アサヒ・コム
http://www.asahi.com/international/update/1106/TKY201111060128.html
理由は装備の近代化と在庫整理のためである。意外なことだが、旧ソ連、ロシアとも兵器を消耗する本格的な直接戦争をあまりしていない(その中では朝鮮戦争、アフガニスタン戦争、チェチェン戦争は例外だろうが)。ロシアが兵器を提供する国(かつてのイラク、リビアや世界の民族解放組織)も少なくなった。必然的に兵器が過剰になる。この間、旧ソ連、ロシアに比べれば、米国は定期的に大きな戦争を行い、兵器の在庫整理をしている。
軍用銃には機関銃を除くと、おおむね4種類ある。
1 拳銃。小さな拳銃用弾薬を短い銃身で撃つ。射程距離は短いうえ、威力も小さく、実戦向きではない。主に将校が命令を聞かない部下を撃つ、あるいは戦況不利な際の自決用に保持する。あるいは警察官や暴力団が保持する。ある人によると、拳銃で狙われても50メートルも離れれば、重篤な状態にならない、という。もっと露骨にいうとほぼ大丈夫という。拳銃で狙われたら、すぐ走れという。ただ、経験したことがないので、軽々しくは断定できない。
2 短機関銃。サブマシンガンとも呼ばれる。拳銃用弾薬を拳銃より長い銃身で連発する。代表作として、テレビドラマ「コンバット」の主役サンダース軍曹が抱えるトンプソン・サブマシンガンである。ドイツ軍のMP(マシンピストル)やソ連軍のPPSHが有名である。連射で敵を制圧したいとき、ジャングルや市街地の出会いがしらの戦闘に向く。射程距離は数百メートル程度である。
3 ライフル。比較的大きなライフル用弾薬を長くて重たい銃身で撃つ。当然、射程距離は長く、威力がある。日本の38歩兵銃、米国のM1ガーランド、ロシア・ソ連のモシンナガンやSKSが有名である。200メートルから1キロくらまでの距離をカバーする。
4 突撃銃。あるいはアサルト・ライフル。1943年に独ソ戦さなかのドイツ軍が新しいコンセプトのライフルを開発した。ライフルの威力とサブマシンガンの連発性の一石二鳥を狙っている。ライフル用弾薬より小さいが、拳銃用弾薬よりははるかに大きいドイツ語でクルツ(Kurz)と呼ばれる「短い」弾薬を使用する。
ドイツ軍が開発した突撃銃と米国のM1ガーランドライフルをコピーして開発されたとされるのがAK47である。7・62ミリ弾丸をバナナ状の弾倉に入れて、30発の連発ができる。
この性能に加えて、設計がシンプル、信頼性が高く、量産もしやすいなことから、評判を得た。戦闘中に兵士を苦しめるものがジャム(弾づまり)である。カラシニコフは、ベトナム戦争で活躍し、泥や水に浸かっても射撃できる軍用銃として名声をかちとった。
しかし、当時から扱いやすいが銃としての精密さ、命中精度は米国のM16やドイツのG3に比べて劣ると指摘されていた。
カラシニコフがあれほど世界で普及したのは、扱いやすさと連発性と射撃音の大きさ(相手を威嚇する)にも効果があったという。
筆者は一度カラシニコフを実弾で撃ったことがある。中国・広州で人民解放軍が経営する観光客用の射撃場だ。中国版AKM。30発撃って、一発も50メートル先の的に当たらなかった。きっと銃の調整が悪かったのだろうが、力が抜けた。
射撃の反動、煙、音。どれも激しく、消耗した。カラシニコフで戦闘するのは日本人には向かないと痛感した。
国民皆兵のイスラエルでは精兵兵士には、イスラエル版カラシニコフであるガリルARMを装備させ、そのほかの兵士や女性兵士にはM16を渡している。筆者には軽いM16がふさわしいと想像した。
さて、カラシニコフは原型のAK47、途中で改良されたAKM、そして弾丸を小さくしたAK74(最終版)がある。このほか、中国や東欧などで各国版のAKが生産された。パキスタンの町工場ではコピー生産もされている。
現在、米軍やNATO軍、イスラエル軍、日本の自衛隊が使用しているライフル用弾薬は5・56ミリNATO弾である。旧ソ連、ロシアの小口径弾は5・45ミリである。
ポスト・カラシニコフ AN-94
http://ja.wikipedia.org/wiki/AN-94
ここから先は推測だが、ロシアはAK系突撃銃の在庫整理を進めながら、今後とも西側の突撃銃に似た精度の高い軍用銃を採用するものと思われる。旧ソ連、ロシア、中国、ベトナム、DDR、ユーゴ、イラク、リビアなどの軍隊とAKは不可分の関係にあった。
今後、ロシアが採用する西側タイプの突撃銃が登場すると、こうした軍隊の風景も変わるだろう。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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