本間宗究「ちきゅうブッタ斬り」(11)
- 2011年 11月 7日
- 評論・紹介・意見
- TPPヨーロッパ本間宗究金融危機
ティンバーゲンの定理
10月18日に行われた「バーナンキ議長の講演」には、大きなメッセージが隠されていたようだ。具体的には、「ティンバーゲンの定理」という言葉を使い、「大胆な金融政策の変更」を示唆していたのだが、この定理は、オランダのノーベル経済学者である「ジャン・ティンバーゲン氏」が提唱した「ある政策目標を同時に達成するためには、その目標と同数の政策手段が必要だ」というものである。
そして、「何故、今回、このような言葉を使い始めたのか?」が、今後の大きな注目点だと考えているのだが、この講演の中で、バーナンキ議長は、「大きな金融混乱の前後では、当然のことながら、金融政策に対する考えが変化する」と述べているのである。つまり、「2008年のリーマンショック」を境にして、「政府の対応が大きく変化した」という状況であり、また、「今後も、より大きな変化が考えられる」ということを強調したかったようである。
そのために、「今後、どのような政策変更が考えられるのか?」という点に、大きな注意を払う必要性があるようだが、基本的には、「金融システムの安定化」という点を強調しているのである。つまり、現在では、「ヨーロッパの金融危機」が、ますます激しさを増しており、今までのような、「国債の買い支え」という方法では、「借金残高が増えるだけであり、決して、根本的な解決策にならない」ということである。
そして、現在では、「抜本的な解決策」へ移行しようとしているようだが、この点については、「最後の貸し手」という言葉を用いながら、「中央銀行が、今後、どのような役割を果たすのか?」という点を強調しているようである。つまり、「金融システムの基本」から考えると、「国家債務を返済する方法として、最後には、中央銀行が紙幣の増刷を行う」という意味が隠されているようだが、この点については、ヨーロッパの金利状態を見ることにより、今後の進展が予想できるものと考えている。
具体的には、「イタリアの10年国債金利が、現在の6%前後から、10%前後にまで急騰する」というような事態に見舞われた時に、「金融危機が、日米にまで波及する」ということである。そして、その時には、「大胆な金融政策の変更」が行われ、「最後の貸し手」である中央銀行が、「大量の紙幣を増刷する」というような状況が考えられるのだが、「金融システムの安定化」という言葉の本当の意味は、「すべての借金を棒引きにして、新たな通貨制度を創る」ということも考えられるようだ。(10月25日)
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なぜ、今、TPPなのか?
現在、日本のマスコミでは、「TPP(環太平洋経済連携協定)」の議論が、話題の中心となっている。そして、賛成派と反対派とで、日本を二分するような状況にもなっているのだが、不思議な点は、「海外では、ほとんど、この問題が議論されていない」ということである。つまり、海外の関心事は、「ヨーロッパの金融危機」であり、具体的には、「ギリシャの次に、イタリアが混乱に陥るのではないか?」という点や、あるいは、「ヨーロッパのみならず、日米にまで、この混乱が伝播するのではないか?」ということである。
そして、このことが意味することは、「実体経済の一部分にすぎない、世界の貿易や関税」のことよりも、「実体経済の何十倍にも膨らんだマネー経済」に、大きな問題が発生しているということである。別の言葉では、現時点で、最も重要な課題は、「いかにして、現在の金融危機を乗り切るのか?」ということであり、「貿易の関税問題」については、「平時における、二国間、あるいは、多国間の協議にすぎない」と考えられているのである。つまり、「戦争が起きているような状況下で、対戦国から、塩をいくらで買うのか?」を議論しているようなものであり、世界的な動きからは、大きなズレが存在するようにも感じられるのである。
そのために、「なぜ、このような事が起きているのか?」を考えてみると、結局は、「国民の目を、違った方向に向けるためではないか?」とも言えるようであり、具体的には、「国民の不満が爆発しないように、訳の分からない議論に、時間を費やしている」とも考えられるのである。あるいは、「アメリカで高まり始めた国民のデモ騒動が、日本にまで飛び火することを恐れたのではないか?」ということも考えられるのだが、その理由としては、「年金支給開始年齢の引き上げ」や「消費税の増税」などの方が、国民にとっては、より大きな関心事とも思えるからである。
このように、現在の世界情勢を考えると、すでに、「ユーロの崩壊」や「世界的な金融システムの破綻」について、いろいろな識者が警告を発している状況であり、「時間的な余裕は、ほとんど無くなっている」という状況とも言えるのである。そして、後は、「何時、借金爆弾が、世界的に破裂するのか?」を、固唾をのんで見守っている段階だと考えているのだが、現在のような「不毛な議論」が活発に行われている日本というのは、よほど、呑気な国なのか、それとも、多くの国民が「水湯での蛙の状態」になっているのかが、たいへん気にかかる状況とも言えるようである。(10月27日)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0674 :111107〕
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