円高問題の根本的解決は何処に存在するのか
- 2011年 11月 9日
- 評論・紹介・意見
- 三上治
依然として世界経済はリーマンショック以来の危機を脱してはいない。欧州に飛び火した金融危機は政府の債務問題や国債を抱えた金融機関の危機としてある。アメリカ政府はリーマンショックに際して大量の資金を導入によって金融機関や大企業を救済した。これは立ちどころにアメリカ政府の債務危機となった。ギリシャなどの債務危機に端を発するユーロの危機も基本的には根は同じである。これはウォール街の占拠に出ている若者たちの行動の基盤でもある。
直接的にはドルやユーロという基軸通貨の危機があるが、金という世界通貨不在の中での通貨危機がある。金本位制下での通貨は金にリンクすることで安定性を得ていたが、ドルやユーロはそうした安定性をもたない。何故なら、ドルやユーロは金(金を背後にした経済的力)の裏付けを欠くからである。ドルやユーロの保証はアメリカやヨーロッパ共同体という政治力(幻想力)によるしかない。アメリカは軍事力でそれを得ようとするが、経済力はその力がないがためにドルや経済力の衰退に応じた価値低下をし、安定性を持たない。また、ユーロの保証はヨーロッパ共同体という政治力(幻想力)が支えだが、それを構成する各国の経済力に不均衡があり、経済的に不安定な国の存在はそれを揺さぶる。ギリシャをはじめ経済的に不安定な国はユーロを不安定にするのである。ドルもユーロも基軸通貨であるが、それは基軸通貨の条件を欠いているのであり、実質は無基軸通貨時代にある。何故、こうした中で円だけが相対的に独歩高の様相を呈するのであろうか。それは円が膨大な政府債務を背景にしていながもその経済力(実体経済力)がたの国家や地域よりはましであるためである。円は準基軸通貨と見なされ、日本経済は相対的に安定的で力があると見なされているのだ。基軸通貨が実質的に存在しないの中で、円はドルの補完的位置による準基軸通貨から脱して、経済力による準基軸通貨になるしかない。ドルやユーロとは別の基軸通貨の道を構想すべきである。中国やアジア諸国との通貨面での安定性を確保する道を追求すべきである。東アジア共同体という言葉は消えてしまったが、通貨構想による経済関係強化をはかるべきである。アメリカはドルの基軸通貨維持のため日本と中国やアジア諸国の通貨連携を妨害する。そのためには北朝鮮の存在を最大限に使った政治的・軍事的緊張を演出する。アジアでの政治的・軍事的不安定さの演出で経済的連携、とりわけ通貨での連携をアメリカは阻止したいのである。ドルの暴落を防ぐために。
ドルとユーロという基軸通貨は経済的基盤を反映して不安定さを露呈している。これは基軸通貨が基軸通貨の意味を失い実質は無基軸通貨時代を迎えているのに、基軸通貨であることを維持するほかない矛盾に現代世界があるからだ。準基軸通貨の役割を背負わされている円はその矛盾を円高という形で引き受けさせられている。この円高は日本経済に取ってプラス面とマイナス面があるが、どちらかというとマイナス面(輸出中心企業は競争の面で苦境になる)が強調され危機感が煽られる。輸出主導産業が我が国の経済を支えているという信仰に似た考えが刷り込まれているからだ。日本の産業は生産拠点を海外に移転せざるを得ず、産業の空洞化が進むと喧伝されているのである。僕はこの繰り返されて議論に疑問を持つ。これは円高が実体経済を危機に追い込むという議論であって、ここには円高を実体経済強化の道に使うことが語られないからである。資源確保やそのための投資など、実体経済強化に使う道はある。通貨としての円の歴史的位置と実体経済との関連と二面を見なければならない。
実体経済という側面でも円高はマイナス要因だけでないことは明らかだが、通貨という面での考察を続けるなら円はドルの補完物としての準基軸通貨ではなく、経済力の反映としてドルから相対的に離れて準基軸通貨の役割を果たせばいいのである。これは決済通貨としての円の機能を強めることであり、アジア経済圏でそれをやればいいのである。この機会を失い続けてきたのが現在である。これにはドル離れと通貨面で中国との提携が必要であり、現実には困難を増すが基本的な構想はそこである。時代は実質的の無基軸通貨時代だからアジアで第三の基軸通貨を創出することは不可能である。ただ、元と提携して準基軸通貨の役割を円や元が果たすことは必要である。ここで重要なことはドル離れということである。通貨問題でこそかつて田中角栄と毛沢東が密かに交わしたと言われる日中同盟の現実的基盤が存したと言える。日米同盟論においてアメリカが取ってきた主要な戦略は経済面での日本と中国の連携への警戒であり、とりわけ通貨面での接近だった。日本は日米同盟で政治的にアメリカ支配を強められ、実体経済面での力も失って行くことでドル離れは困難になる。円高問題で考えるべきは輸出産業や企業への影響ばかりに目を取られないで、戦後の日米の経済関係や基軸通貨ドルの行方に目を向けるべきである。現実にはますます困難になって行くドル離れであるが、アジア経済圏の中でそれを模索する課題がある。中国も含めたアジア経済圏との関係を今こそ考えるべきだ。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0675 :111108〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。