日航、下地島空港撤退の意味するもの―自衛隊と向き合う事抜きに日本の変革はありえない―
- 2011年 12月 20日
- 評論・紹介・意見
- 下地島山下運蔵自衛隊
一
昨日正午のテレビニュースで、「北朝鮮の金正日総書記が17日に突然死亡した」ことが伝えられた。まもなく、やや詳しい情報が伝えられたが、なお不明の点も多い。専用列車の中で心筋梗塞を起こした、と謂うが自然死なのか、何らかの方法による他殺ではないのか、と謂うことはしばらく詮索の種であり続けるだろう。また、国葬の為の葬儀委員の筆頭に三男の金正恩副国防委員長が挙げられているが、この狙いが三代目金氏社会主義政権の確立の為だという事は理解できても円滑に行くのかどうかの懸念は当然残る。さらに、韓国軍が非常警戒態勢に入った事は当然の事としても、双方の末端のアドレナリンは沸騰しているだろうから軍事衝突の懸念はしばらく去らない。
それにしてもこの事態は可能性としてここ数年常に考慮されてきたわけであるから、さほどの驚きはない。当事者にはお気の毒な事ではあるが、他人事として「北朝鮮は中国の属邦として生きるのか、韓国に吸収されるのか」、「中国も韓国も北朝鮮を抱えて処理する余力があるのか」、「アメリカにとってはいい時間稼ぎのタイミングでの金正日の死であった、しばらく経済危機の打開の為に専念できるであろう」と謂う感慨しか沸かない。
ここ2週間ほどで、最も興味を引いたニュースは私の場合、12月7日に伝えられた「日航、下地島空港撤退へ」「県議会一般質問 県、民事調停も視野」「『本年度で解約』と通告」(琉球新報)である。下地島空港は宮古島のすぐ西に付属するかのようにある島、伊良部島のそのまた西に付属するようにある下地島の西側空間にある空港である。沖縄諸島の南西に延びる先島諸島の一番東側に位置し、石垣島、西表島、与那国島を西に、尖閣諸島を北西に見る場所である。ここに、計器着陸装置を両端に備えた長さ3000メートル、幅60メートルの巨大滑走路があるのである。当然、戦闘機や輸送機の運用には支障がないものとされ、事実、普天間の海兵隊ヘリコプター部隊も数回の使用履歴がある。
普天間が行き詰っている間に、種子島の西の馬毛島、宮古島の西の下地島が揃ったのである。旅客や物流が必要としない空間に巨大、高品質になりうる巨大飛行場が南西諸島の北と南に忽然と姿を現しつつあるのである。
12月14日にはこれに続いて、「グアム移転費全額削除」「在沖米海兵隊 米上下両院が合意」「日本政府も大幅減」「県内移設は堅持」(琉球新報)と謂う見出しで、「米上下両院の軍事委員会は12日、米軍普天間飛行場移設とセットになっている在沖米海兵隊のグアム移転の関連予算約1億5千万ドル(約117億円)について、2012会計年度(11年10月~12年9月)国防権限法案から全額削除する事で合意した。」ことが伝えられた。予ねて予想されていた事であるから驚きはないが、海兵隊は、グアムではなくオーストラリアに下がる事がほぼ確実となったわけである。
ヘリコプター基地の辺野古移転と謂う与太話の間に、辺野古は沙漠ゲリラ戦訓練基地の様相を強め、日米安保条約によって提供する日本の安全保障に関わる基地と謂う様相を急速に薄めている。
海兵隊の本質が、「海上から上陸し、敵地に橋頭堡を築く」事だとするならば、アメリカ議会が政治的に、「北朝鮮には海兵隊を使わない」と決めたのだ。そして、「中国相手にはフロントに海兵隊は置いておかない」と決めたと謂う事である。あえて言うならば、「海兵隊は南シナ海治安軍として政治(見せ掛け)配置した上で、南シナ海領海紛争には関与する」政治的姿勢を示して見せた、と謂うことである。オーストラリアへの後退によって、シーレーンコントロール、インド洋を睨む費用の節減が出来ることはいうまでもない。
二
いわゆる東北アジアの軍事力学が変化しつつある結果でもあるし、現実でもあるが、この現実は自衛隊が必然的に第一義的には対応することになる。自衛隊が好きか嫌いか、自衛隊が違憲で許されざるべき存在か否か、自衛隊が信じるに足る公務員組織であるか否か、自衛隊が対外戦争用ではなく内戦用の組織ではないのかどうか、自衛隊が強い軍隊なのかどうか、自衛隊が米軍指揮を離れた運用が出来る組織であるのか如何か、と謂う違和感や疑問が主権者国民の間に広くあったとしても、軍事問題を扱いうる組織は(主権者国民が扱いうる公務員組織としては)自衛隊以外にない。
阪神大震災を契機に「防衛出動」、「治安出動」などに加えて、「災害派遣」が本務に加えられたが、東日本大震災を経験して、警察、消防とは似て、しかし別の能力を持つ組織であることも広く了解・支持されるようになってきている。独自組織として警察、消防を大きく超えた行動力を持つ組織であることが、理解されてきているのである。
戦前、国体の変革を志す者は当たり前のこととして、軍事組織を直視した。だから、「5.15」も「2.26」も起きた。非力であったから志は果たせなかったが、大元帥は国債の暴落を恐れて、処刑される青年将校から罵倒される対応しかなしえなかったのだから、方向としては間違っていなかったのだろう。国際共産党日本支部の活動より、天皇を叱り飛ばす皇道派・アジア解放派の実践のほうが、国体変革の可能性は大きかったのではないか。
戦後も朝鮮戦争時、所感派の諸君が軍需生産工場において、数々のいたずらをした事は良く知られている。アメリカ軍人の中には不良品を掴まされて戦場で泣かされた者も多かったであろう。
60年安保の後には三無事件が摘発されている(61年12月)。事件の全貌は未だに隠されたままであるが、川南豊作が形式的には主犯とされてはいるものの「5.15」の鉄砲玉・三上卓を始め、旧陸軍関係者、韓国実業家、韓国軍軍人、台湾実業家、現役日本国会議員、現役自衛隊幹部、右翼「菊旗同志会」を含めた相当大規模な国体変革運動であった事は間違いない。
付言しておけば、破防法判決後、この人脈は社会の表面から消えたが、源田実が62年7月には参議院議員となり、池口恵観が宗教法人を設立(67年)して許永中を弟子に、金日成主席観世音菩薩を建立しつつ「日本青年社」総会で安倍晋三を擁護講演する(2007年7月)など極めて幅の広い教線の長い人脈であることは明白である。
社会変革のためには国家権力を媒介にするより他はない、と謂うオーソドックス思考の人間は、インサイダーであれ、半サイダー(例えば構造改革論者)であれ、アウトサイダーであれ、軍隊である自衛隊を直視する事を怠ってはならない。日本と呼ばれる我々が日常生活を送っている空間は、自衛隊が正統的暴力組織である事を諸外国から承認されている空間だからである。
三
時は今、予算編成の時期である。そして、下地島空港の年間運営費は6億円に過ぎないと謂う。それを日本航空と全日空が折半してきたのである。http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-184913-storytopic-3.html
絶好の位置にある3000メートル滑走路を3億円で半ば手に入れることが出来るなら、国家が手を出さない道理があるだろうか。「ヤル前にヤルと伝える事はない」田中聡前沖縄防衛局長の仕事とはこれではなかったのか。既に、中期防衛力整備計画(平成23年度から平成27年度)についてhttp://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2011/chuuki.html
では、その「Ⅱ 基幹部隊の見直し等」の「1」で陸上自衛隊が、「3」で航空自衛隊が本格的に南西諸島に進出してくると書いてあるし、「Ⅲ 自衛隊の能力等に関する主要事業」の「1、実効的な抑止及び対処」の「(2)島嶼部に対する攻撃への対応」として詳しく「ア、情報収集・警戒監視体制の整備」「イ、迅速な展開・対応能力の向上」「ウ、防空能力の向上」「エ、海上交通の安全確保」を書き込んである。
また、馬毛島は「タストン・エアポート」社(旧馬毛島開発・立石社長)が土地の99.6パーセントを所有しており、本年6月には防衛省との間で、北沢防衛相の陸上空母離着陸訓練候補地としての指示発言(5月)を受けて、「用地交渉開始の合意書」が交わされている。南北4000メートル、東西2500メートルの飛行場だけの工事関係者以外住民のいない島だ。「立石さん脱税有罪判決でお金は苦しいでしょうから、買いますよ」、「いや、リースで貸してやる、大枚叩いて借りる覚悟をしろよな」と謂うだけの交渉事として形が出来ているのである。
先に下地島を、後から馬毛島をと謂うのも交渉事の解り易い順序だ。脱税判決と資金繰りに加え環境破壊問題などを抱え、時は防衛省に味方し、ポスト金正日危機の中で危機が納まってから馬毛島を手に入れればよいのだ。
自衛隊に戦争能力はない。人件費の出所がない。戦争だからといって、これから日本国債を買ってくれる外国勢力はない。だから、自衛隊の拡大が戦争に繋がる訳ではない。しかし、自衛隊予算は軍事費である事からして(公務員の使う財政であるからでもあるが)、使うことが目的のカネである。何物かを生産する資金ではないし、金儲けをするカネでもない。消費を本質とする使う者にとっての利権そのもののカネである。
その利権が今、南西諸島で大きく実体化しようとしている。小さく産んで大きく育てる利権である。表向きは沖縄の負担軽減を再度粉飾しつつ、必ず、自衛隊の中と外に腐った部分を育みながら成長する利権である。「シビリアンコントロール」が軍人にも文官にも、商人にも主権者にも微妙な色合いを持って登場するであろう。汚濁の旗としても正義の旗としてもである。米軍の傾向的後退期を前にして、日本国公務員軍を腐らせることなく、主権者の統制化に置くための工夫が厳しく求められる時期が、到来したのではないか。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0729:111220〕
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