オバマ大統領は今でもイスラム教徒なのか。イスラム法学的に考える
- 2011年 12月 22日
- 評論・紹介・意見
- イスラム法学浅川 修史
米国によるイラン攻撃が現実性を帯びている。史上最初のブラック・アフリカン系大統領であるバラク・フセイン・オバマ・ジュニア氏が、イラン攻撃に積極的な態度、と報道されている。今の情勢では、2012年の大統領選挙で、オバマ氏が再選することは困難である。そこで、イランとの戦争を始めて、「戦時下の大統領」という立場を手に入れて、有権者の支持を集める意図がある、と観測する識者もいる。
米国のイラン攻撃が切迫しているかどうかの議論はいったん横に置いて、オバマ氏が、「今でもイスラム教徒」であるのかどうかという知的遊戯的な議論をしてみたい。
もし、米国がイランを攻撃したら、今は遠慮しているイランのイスラム法学者が、「オバマはイスラム教徒でありながら、イスラム国家を攻撃する背教者」という人格攻撃をすることは目に見えているからだ。
もちろん、「オバマはイスラムの背教者」という宣伝は、仮に行われたとしても、現実政治にそれほど影響を及ぼすわけではないが、戦争とはありとあらゆる宣伝戦、諜報戦を含むものなので無視はできない。
周知のようにオバマ氏の父親、バラク・フセイン・オバマ・シニア氏は、ケニアのイスラム教徒である。母親は白人のプロテスタントである。
この出発点から、イスラム法(シャリーア)に準拠して、イスラム法学者になったつもりで、考えてみたい。ただ、イスラム法学といっても流派、ウラマー(法学者)によって解釈に幅があり、結果として間違ったQ&Aになっている可能性もあることを申し添えたい。また、近代社会になってイスラム社会でもシャリーアの原則と実際の運用が乖離していることも付け加えたい。シャリーアの一字一句まで金科玉条にして、運用されているわけでもない。多くのイスラム諸国では、シャリーアを法の源泉としながらも、実際はフランス民法(エジプト)やスイス民法(トルコ共和国)を社会の営みの基準にしている。
ワッハーブ派原理主義のサウジアラビアでさえ、ある高年の金持ちが、10歳くらいの女子を妻にした。シャリーアでは9歳以上の女子なら妻にできる(ムハンマドの実例が法源)。だが、さすがに近代社会の通念には適合せず、サウジアラビアの宗教裁判所でも、「公序良俗に反して、違法」という趣旨の判断が出た。
とはいえ、結婚や宗教、財産などに関するシャリーアは今でもたいせつな原則(法哲学)である。ここから考えることは無駄ではない。
疑問点1 シニア氏と白人でプロテスタントの母親との結婚は合法か(世俗法の民法ではなく、シャリーアの視点から考える)
答え1 合法である。なぜなら、妻がキリスト教徒であるからだ。聖典クルアーンでは、イスラム教徒の男性は、同じアブラハムの宗教の女性と結婚できると書いてある。すなわちユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒である。
疑問点2 シニア氏は母親と結婚したとき、ケニアにすでに妻と子がいた。これは重婚ではないか。
答え2 重婚ではない。なぜなら男は4人まで妻が持てるからだ。シニア氏は4人という枠内で結婚している。
疑問点3 オバマ大統領は生まれたときイスラム教徒なのか。
答え3 父親がイスラム教徒なので、生まれながらのイスラム教徒である。
疑問点4 オバマ大統領は現在プロテスタントの信者だが、改宗は認められるのか。
答え4 イスラム教では改宗は認められない。
疑問点5 それではオバマ大統領は今ではイスラム教徒なのか。
答え5 今でもイスラム教徒である。
疑問点6 それではオバマ大統領は「背教者」なのか。
答え6 そうなる。
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