原発事故被害、なお続く「家族離散」
- 2012年 1月 13日
- 時代をみる
- 池田龍夫
福島大学災害復興研究所が実施した「双葉郡8町村災害復興調査」がまとまり、関西学院大学シンポジウムで1月8日報告された。福島第1原発事故で最も被害の大きかった地域の調査で、「離散家族」の悲劇的実態を映し出している。調査は昨年9~10月、原発周辺の双葉地域8町村(浪江町・双葉町・大熊町・富岡町・楢葉町・広野町・葛尾村・川内村)の計2万8184世帯に、調査票を郵送する形式で実施。1万3576世帯から回答を得た。回答率は48・2%。調査を担当した丹波史紀・福島大准教授は「5割近い回答率は住民意識の高さの証拠」と分析しており、激甚被災地の具体的調査が注目される。ところが、詳しく報じたメディアが見当たらないので、産経新聞1月8日配信のネットニュースと福島大学ホームページをもとに問題項目を整理して、参考に供したい。
「国の安全宣言を信用できない」が65・85%も
先ず「故郷に戻りたい」との回答(66・9%)の内訳は、「すぐにでも」が4・4%、「インフラ整備後」が16・2%、「除染後」が20・3%、「他の住民の帰還後」が25・5%だった。「帰還まで待てる年数」は、「1年以内」が12・3%、「1~2年」が35・7%、「2~3年」が22・8%で、約7割の住民が3年以内に帰還できなければ帰還が困難になるとの認識を示している。「戻る気はない」と回答したのは、24・8%。「戻らない理由」(複数回答)は「除染が困難」(83・1%)が最も多く、「国の安全宣言が信用できない」(65・8%)、「原発事故の収束に期待できない」(61・4%)との回答には驚かされた。丹波准教授は「住民たちが『なぜ戻れないのか』という理由を提示したことに意義がある。復興に向けた施策を行う際に活用して欲しい。この種の定点観測は今後も続けたい」と意欲的なのが頼もしい。
被災者が暮らす住居は行政が借り上げた民間住宅(47・8%)、仮設住宅(18・4%)、親戚・知人宅(9・6%)など。避難所暮らしは減ってきたものの3・9%。自己負担で民間賃貸に居住する人は9・8%にも上る。震災によって失職した会社員は3割を超え、パート・アルバイトの76・4%が職を失っている。住居がなく生活が不安定、放射能への恐怖感は消えぬ深刻な現状を調査数字が物語っている。
避難区域と定住地確保、健康管理を最優先に
家族離散については、全体の97・9%が現在も離散または一時的に離散していたことが判明。放射線による健康リスクを懸念して妻子を他地域に避難させ、両親を親類に預けているケースも多々見受けられる。福島市の仮設住宅で暮らす福島県双葉町の無職、吉田義雄さん(84歳)は「帰りたい人が7割というのは当然だ。昨年末、仮設住宅の集会場で童謡『ふるさと』を歌ったが、みんな泣いていた。子供を持つ若い世代とは違うだろうが、高齢者は双葉を恋しく思っている。老い先短い私も帰る望みは捨てられない」と語る。一方、埼玉県加須市の廃校で避難生活を送る双葉町の元会社経営、渡部晃さん(65歳)は「帰れることになっても、若い人は戻ってこず、町が成り立たない。その上に中間貯蔵施設が双葉町内に作られる可能性が高いという現実を見ると、帰ることは考えられない。私と同じ考えの避難者が徐々に増えていると感じるし、避難が長引けばそうした人はさらに増えるだろう」と、調査員話に話していた。橋本摂子・福島大准教授は「避難区域の確定、定住できる住居、健康調査が喫緊の課題だ」と強調していたが、まさにその通り。弱者対策最優先の施策へのリーダーシップを政府に求める声は強い。
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