大惨事を偶然回避した4号炉‥‥その2
- 2012年 3月 17日
- 交流の広場
- 原発事故諸留能興
前回に続き、『朝日新聞』2012[H24]年3月8日(木)朝刊第一面記事
http://digital.asahi.com/articles/TKY201203070856.html
「危機一髪で大惨事を回避した福島第一原発4号炉」で起こったことを、整理してみます。
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【 1 】福島第一原4号機の、使用済み核燃料貯蔵用プールの冷却機能停止の原因は何だったのか?
(考えられる原因:その1)
昨年2011年3月11日午後14時過ぎに発生した大地震の振動で(津波が襲来以前までに)、プールの損傷(破壊や亀裂)が発生した為、冷却機能に支障が生じた可能性も、現在までのところ、完全には否定できない。
(考えられる原因:その2)
地震の振動それ自体だけでは冷却プールは壊れなかったが、地震発生後約1時間後に襲った津波により、原子炉建屋が損傷し、核燃料貯蔵用プールに損傷が発生したのかも。
(考えられる原因:その3)
地震による外部電源喪失とその後の津波による浸水で、非常用ジーゼル発電機も浸水故障した為、冷却機能が完全に停止した為、プールの冷却機能がストップし、プール内が「高温の空焚き状態」となり、プール内の使用済み核燃料棒の溶融で、水素爆発(あるいは部分的核爆発)が発生し、それによって爆発・損傷した。
(考えられる原因:その4)
隣接していた3号炉の3月14日午前11時1分の爆発の際の爆風や破片が、4号炉プール(関連装置も含め)が破壊されたため。
・・・などの幾つかの原因が推定される。
(考えられる原因:その5)
東京電力の昨年2011年11月10日の発表では、『福島第1原発4号機原子炉建屋で3月15日午前に発生した水素爆発は、4号機の使用済み核燃料プールから発生した水素が爆発したのではなく、4階と5階にある空調ダクトの吸気口の金網が爆風で通常の流入方向と逆向きに張り出し、空調ダクト自体も爆風とみられる衝撃で散在していたことから、隣接する3号機からの水素の逆流が原因だったとの調査結果を発表している。
http://mainichi.jp/select/jiken/graph/20111110/
この東電の見解では、4号機の「使用済み核燃料プール」の冷却水が蒸発する、いわゆる「空焚き状態」にはならなかった、したがって4号炉の使用済み燃料プールからは水素ガスは発生しなかった、ということになる。
4号炉自体には問題が全くなく、隣接する3号炉からの、いわゆる「貰い事故」であったとする、東京電力のこの見解は、4号炉自体が大惨事を発生させる深刻な過失(事故原因)が、4号炉自体にもあったことを、覆い隠す説明である。
そのことは、上記、『朝日新聞』2012[H24]年3月8日(木)朝刊第一面の記事から明らかになった。
使用済み核燃料プール中に入っていた1535本の「使用済み核燃料」が過熱・崩壊し、核燃料棒の溶融し水素爆発したのでは?との疑惑も、以前残されている。
もしかしたら、部分的核爆発の疑惑も否定できない。
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【 2 】偶然に重なった2つの幸運のおかげで4号炉使用済み核燃料プールの大爆発、大惨事には至らなかった!それは、全くの幸運でしかなかった!!
【 2の1 第一の幸運! 】
沸騰水型(BWR・マークワン Mark I)の4号機は出力78・4万キロワットで
総工費約800億円をかけて建設され、1978年10月12日から営業運転を開始した原子炉です。
一昨年(2010年)11月から定期点検(定検)に入り、「シュラウド」[◆註:1]と呼ばれる炉内の大型構造物の取り換え工事も、この定検期間中に行われていた。
「シュラウド」の交換は、何故行わねばならなかったのか?
1978年10月12日の営業運転開始以来、32年間の長期運転で、「シュラウド」の「応力腐食割れ(SCC)」[◆註:2]が深刻化し、その交換が必要になったからだ!
http://www.engy-sqr.com/kaisetu/current%20topics/scc.htm
シュラウド製作には機械加工、溶接、機械加工と、厳密な品質保証計画に基づく、細心の注意を払い製作される。材料も特別注文で日本でも1~2の有名鉄鋼メーカーでないと供給できず、納期も10ヶ月かかる。
田原総一朗(テレビ東京ニュースキャスター)が「日本は高度な科学技術国家だから原発は完璧な技術を駆使しているから確かだ!」などど豪語する(朝までナマテレビ)のも、こうした事実に基づいている。
田原総一朗氏以外にも、「今回の福島第一原発事故がこの程度で済んだのも、我が国日本の技術水準の高さがあったればこそだ!」などと、さも、知ったかぶりし、いけしゃあしゃあと語る、愚か者が、国民の中にも、相当多くいる。
とんでもない話だ!私(諸留)の指摘する事実を、じっくり読めば、そうした考えが、いかに間違っているか、明らかになるであろう!
原子炉を構成する個々の部品が、たとえどんなに、ハイテク科学技術を駆使した成果の、見事な製品であったとしても、数万個、数十万個にも及ぶ、膨大な部品(パーツ)の巨大な集合体である原子炉は、それら数十万のパーツ全てを完璧な製品で満たすことは不可能である。
また仮に、全てのパーツが完璧な精度で製造されたとしても、今回の4号炉の「補助装置」のように、設計段階でミスまで防ぐことは出来ない。
更に、机上での設計ミスは回避して完璧な設計であったとしても、それを現場で組み立て、溶接、建設する現場段階での、手抜きや、溶接技術の未熟さ・杜撰さまでも完璧にこなせることは、更に難しい。
実際、原発工事現場で行われている杜撰な作業の数々の、生々しい実例報告は、枚挙に暇がないほど無数にある。
1級プラント配管技能士として、原発現場で20年働きつづけた、
故平井憲夫氏の遺稿の、現場での杜撰な工事の、詳細な証例を見よ!
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/251286350.html
ともあれ、東京電力にとっても原子炉の「シュラウド」交換は、大工事であった。
わが国では、6つの原発で「シュラウド交換」が行われている。稼働停止直後のシュラウド交換となるので、高線量被曝下の作業となる。十分な遮蔽(水)下での遠隔作業の、大工事となる。日本以外に交換したのはスエーデンでボルト締結の1例があるだけ。
ところが、大震災発生の昨年(2011年)3月11日の数日前に、シュラウドに付属している「補助器具の寸法違い」があることが判明した。それで、その補助器具を新たに「造り直す」必要が生じた。
定期検査(定検)の期間は1日でも短くして、少しでも早く運転再開したい電力会社にとって、その影響で、着工中だったシュラウド交換工事の工期に遅れが出たことは「想定外」であった。会社のソロバン勘定からも、定期検査(定検)期間の延長!という、非常に、好ましくない事態が生じた!
当初予定では、4日前の、3月7日には、シュラウド交換工事も完了し、大地震が起きた3月11日当日には、4号炉の炉心上部の「原子炉ウェル(well)」と呼ばれる、空間部には水は入っていない、「カラッポの状態」になっている筈であった。
震災発生の3月11日当日になっても、4号炉圧力容器上部の「原子炉ウェル(well)」と呼ばれる空間と、それに隣接する「DSピット」[◆註:3]と呼ばれる(臨時の物置棚のような空間)の2つの空間に、合計1440立方メートルもの大量の水が、たっぷり満たされた状態となっていた!
これが、【 第1の幸い 】であった!!
もし、「シュラウド補助器具の寸法違い(設計ミス)」が生ぜず、設計図通り、キチンと正確に補助器具が製造されていたら、この器具を使っての4号炉の炉心内の「シュラウド」の交換作業も、停滞することなく、当初の工期通り、順調に進んでいて、当然、「原子炉ウェル(well)」には水が無い「カラッポ」に、当然なっていた筈であった。
同様に、「DSピット」部も、3月11日の震災当日には、そこに保管されていた部品も既に取り出され、「原子炉ウェル(well)」と同様、DSピット部の空間も、水が満たされていない「カラッポの状態」であった筈だった!
こうして、4号炉の使用済み核燃料プールが、前述( 1 )~( 4 )のいずれかの原因で、空焚き状態になった時でも、大量の水が満たされた「原子炉ウェル(well)」や「DSピット」部とは、「隔離板」一枚で隔てられていたことで、空焚き状態になった核燃料プールの中に、大量の水が、使用済み冷却プールの傍に存在している、という状況が生まれた!
これは全くの偶然であった。
人為的ミスがあったからこそ、大惨事には、たまたま、至らなかっただけの話だ!
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これとは全く別の、【2の2 第二の幸運! 】も、全く偶然に重なったことで
大爆発の大惨事にいたらずに済みました。
チェルノブイリ事故の数十倍にも達する大惨事に
99・9999‥‥%なっていても
少しもおかしくありませんでした!
まったくラッキーに、現在の程度の被害で済んだことのほうが
全く不思議に思われます・・
次回以降も詳述します。
[◆註:1]
「シュラウド」(Shroud:覆う物の意)。
BWR型原子炉の圧力容器の中にある、炉心を囲む構造物(「ついたて」のようなものと思ってくれれば良いでしょう)をシュラウドと呼ぶ。
「シュラウド」の中には、燃料集合体の下部に「炉心支持板」があり、燃料上部にも「上部格子板」があり、それぞれがボルトで固定されています。これら(1)シュラウド、(2)炉心支持板、(3)上部格子板と、(4)シュラウド・ヘッドと呼ばれるシュラウドの蓋、(5)制御棒の動作の案内をし、同時に、燃料の重量を支える制御棒案内管、(6)シュラウド・ヘッドの上に設置される蒸気乾燥器・・・これら(1)~(6)を、ひとまとめにして「炉内構造物」と呼ばれる。
「シュラウド」の重要な役割りのひとつは、燃料集合体を支える働きがあります。高温・高圧の熱水が激しく循環する炉心内では、燃料集合体自体も、ガタガタ激しく「横揺れ」するので、炉心支持板や上部格子板という構造物で支えることで、燃料集合体を正しい位置に保つという重要な役目が、シュラウドはあります。
「シュラウド」の二次的な役割は、原子炉冷却水の通路を安定した流路にするという役目も、同時にあります。
冷却水は燃料集合体を囲む燃料チャンネルの内で、一部は沸騰しながら、シュラウドの上蓋の隙間へと流れ込み、そこにある「気水分離器」で蒸気となって分離されます。更に蒸気気乾燥器で水分を除去した後、タービンへと送り込まれます。
更に、「シュラウド」の大切な役割として、圧力容器につながる配管破断の事故対策として、非常用炉心冷却系でシュラウド内に冷却水を緊急注入する際に、外部に漏れだした冷却水に代わって、「内釜」として冷却水を貯めておくという役目も合わせ持っています。
このように「シュラウド」は原子炉炉心部の一番大切な部品です。
110万KW級原子炉の場合、「シュラウド」の大きさは中央部で直径約5m、高さ7m、胴部の肉厚5センチの、「オーステナイトステンレス鋼」という(鉄に約18%のクロムと約8%のニッケルを混ぜた合金で、腐食しにくい性質と、強い剛性を持ち、表面が薄い酸化皮膜で覆われているため腐食しにくいので、原子炉の配管や構造物によく使われる素材)ステンレスで作られた円筒。
http://www.engy-sqr.com/kaisetu/topics/shroud.htm
[◆註:2]
超高温・高圧の過酷な環境に、30数年~40年も「シュラウド」が晒され続けると、原子炉特有の、特殊な環境の下では、引っ張り応力が加わった状態で、局部的にこの皮膜が破れることが生じます。
とくに、熱影響を受けた「シュラウド」の溶接箇所が集中的に腐食され易くなります。これが「応力腐食割れ(SCC)」の原因となる。特に、高温・高圧の原子炉冷却水(冷却水といっても灼熱の超高温の熱湯だ!)に晒され続ける中で、その中に溶けている酸素が、「応力腐食割れ(SCC)」の原因となることが、最近になって分ってきている。
[◆註:3]
「原子炉ウェル(well)」に隣接して(使用済み核燃料プールとは反対側の位置にある)「DSピット」と呼ばれる空間には、「原子炉ウェル(well)」と同様に、水を満たすことができ、使用済みの古いシュラウドを切断した後の部品(パーツ)や、ドライヤーや、セパレーターなどの部品を保管する(一時的に高濃度汚染したパーツなどを保管する棚のような役目をした)プールである。水で満たすのは、高濃度放射能汚染しているからである。
*****転送/転載/拡散歓迎*****
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